開眼
高階姉妹姫が宮仕えを始めてから半年が過ぎ、既に秋も深まっていた。
(そろそろ衣替えね)
妹の体調を考えながら、高階姉姫は独り言ちした。薬草も季節によって種類の違うものに生え変わり、季節の移ろいを感じていた。
多くの書を読み、鄙の海で一日中外で過ごした高階姉妹姫は体力にも恵まれ、割り振られた仕事は大抵午前中には終わらせ、午後からは自分の時間としていた。見習いである外仕女は仕事の量が多かったが、入り立ての様に日が暮れる迄続けることはなくなっていた。それだけ仕事に慣れ、コツも覚えたというところか。
この時代、正規の官吏は大抵午前中に仕事を終わらせ、後は自分の時間となる。勿論、朝は超早いが・・・。身分が高くなればなるほど、位や官が高くなればなるほどその傾向は顕著だった。自分の時間は遊びに費やしたり、この時代は教養をどれほど身に着けているかによって出世にも影響するので、自分を高めるために時間を使ってる官吏も多かった。仕事は形骸化し、雑用や定型作業は下の官吏に下ろされて、殿上人は優雅に午後を過ごしていた。
高階姉妹姫は殿上人程ではないが、姉姫は主に教養を身に着ける為に時間を費やし、妹姫は同僚や主に図書寮の官吏との交流、時には京の郊外に遊びに行くこともあった。それぞれに見合った形で宮仕えを満喫していた。
高階姉妹姫は自分の生活に余裕が出てくると、率先して他の同僚の外仕女に仕事の手解きをし、それまでてんでバラバラだった外仕女達の仕事を整理し、外仕女達を組織化し、仕事を効率的に行えるようにし、分業制に改める。これにより、外仕女の仕事は昼前には終わるようになっていた。上司に該当する仕女が仕事をしているのをよそに先に仕事を終えて帰ってしまうのだから、改革と呼んでもおかしくなかった。中には外仕女に仕事を押し付けようとする仕女もいたが、身分不相応の仕事を見習いがするのは問題であると高階姉妹姫は突っぱねた。采女(仕女の上司に相当する)の覚え愛でたくないと言い添えれば、大抵の仕女は引き下がった。そこには、同僚である外仕女の総意があったので、数的にも道理的にも劣る仕女達が強く言えなかった背景もある。
だが、仕女の一人が事の次第を采女に密告し、女嬬(采女の上司)に伝わり、たまたま実直な性格であった女嬬が典書(女嬬の上司)に報告されたことまでは、高階姉妹姫も知らなかった。




