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手習ひ  作者: MOCHA
第9章 出典
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鄙の物語の出典

 書籍の書写(しょしゃ)写書手(しゃしょしゅ)の手に委ねられている。京は男性社会である。書籍の書写(しょしゃ)も男の官吏が使う漢籍がメインになっており、物語の書写(しょしゃ)は後回しになるため、どんなに需要が多くても書写(しょしゃ)本は稀である。その為、物語は常に不足気味で、取り合いになっている。技術的な問題もある。男性は漢文を使うが、女性は仮名交じりの漢文である。書写手(しょしゃしゅ)は男性であるからして、仮名交じりの漢文を(ほとん)ど知らない。物語の作り手は女官(にょかん)である事が多く、その辺も物語の書写(しょしゃ)が不足している原因にもなっている。

 高階(たかしな)姉姫は、物語の書写(しょしゃ)専門の書写手(しょしゃしゅ)がいたら凄い事になるだろうなと他愛のない事を思った。 

 その日、一日の仕事を午前中に終え、高階(たかしな)姉姫はいつもの様に読書に没頭(ぼっとう)していた。高階(たかしな)姉姫は妹の様に仲間の輪の中にいるより、一人書物に埋もれている方が性に合っていた。決して、人嫌いではなかったが、知識欲の方が勝っているようだった。たまたま物語の書架の前を通り過ぎる時、久しぶりに物語を読みたいと思った。(ひな)の海を去ってから、物語は読む気になれなかったのだ。

(物語は(ひな)の君に語って貰うのが好きだったのかも知れない)

 高階(たかしな)姉姫は今更(いまさら)の様に思う。

 物語は後宮では特に人気が高く、(まと)めて貸し出されていたり、巻数の抜けも多かった。気に入った巻があると、中々返却してもらえないのだ。当時は今とは違い娯楽が少なく、書などは回し読みをする事が多かったから、返却率は極端に低かった。

 高階(たかしな)姉姫はは書架を眺める。源氏物語や竹取物語といった定番から、名前しか知らない物語、全く聞いたことの物語もあった。一生の内にどれだけ読めるのだろうかと感慨に(ひた)っていた。

(さすが京の図書寮(ずしょのりょう)ね)

 高階(たかしな)姉姫は唸った。蔵書数は日ノ本では一番であろう。地方は人口も圧倒的に少なく、そもそも供給する組織が皆無なのだから。

(!)

 一ノ姫の目に留まった物語があった。手に取り、目次を確認する。物語の一つ目に目を通す。そして、紙を()る手を止めない。読み終えた後、一ノ姫は不敵に笑った。

(そう言うことね)

 一ノ姫は独り言(ひとりご)ちした。

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