一ノ姫の疑念
鄙の君との再会を高階妹姫は素直に喜んでいた。もう二度と会えぬと思っていたのだから当然であろう。加えて、鄙の君が書司が関係が深い図書寮に宮仕えしているのであれば、今後も言葉を交わす機会も多くなるだろうから。流石にこの様な展開は高階姉妹姫も予想していなかったし、三人を別れ別れにした父・持国すら想定だにしていなかったであろう。
(権図書助・・・か)
高階姉姫はぽつりと呟いた。それが鄙の君の官職であった。官位は正六位下だが、図書寮の実質次席になる。図書頭と鄙の君の遣り取りから、高階姉妹姫を推挙したのが鄙の君だった事が推察される。正直、組織の違う部署の推挙など可能なのか疑問である。鄙の君が属する図書寮は中務省の一部署であり、後宮十二司とは組織上繋がりはない。ただ、宮仕えを始めてから、書司と図書寮が密接に関連したことは理解したし、図書頭と内侍司、掌侍である大叔母の葛城右兵衛が知己であった。様々な縁が重なって宮仕えが叶ったのだなと不思議な思いがした。やんごとなき貴族からの推挙であれば、一も二もなく通るのであろうが・・・
(でも・・・出来過ぎよね)
それでも高階姉姫の疑念は晴れない。
書司に宮仕えできたこと、図書寮の図書頭が推挙したこと、図書寮に鄙の君がいたこと。偶然にしては余りにも都合の良い事ばかりだと思った。実は、鄙の君は帰京する前から自分達の素性を知っていたのではないかと疑っていた。
(祖父母と昵懇だった鄙の君が私達の素性を全く知らなかったとは思えぬ。ましてや、素性も知らぬ姫君達の元に来るのも・・・)
今にして思えば、元貴族とは言え下級貴族であった祖父母があそこまで誰の援助も受ける事もなく悠々自適に過ごしているのもおかしい。屋敷はともかく、自分達だけの畑だけで屋敷の維持や治安が守れるのだろうか。鄙の君の素性は未だにわからぬが、鄙の君を匿う見返りに庇護を受けていたと考えると合点がいく。確かに鄙の海は人口も少なく近くの集落とも離れていたが、このご時世である。夜盗や賊の類を4年間見なかったのも明らかに不自然だ。
京に戻ってから間もないのに、既に鄙の君は権図書助という官職にいる。鄙の君も図書頭に推挙されたのだろうか、それとも鄙の君の持って生まれた才覚なのか。
解せぬことばかりだった。




