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手習ひ  作者: MOCHA
第8章 再会
42/50

一ノ姫の疑念

 (ひな)の君との再会を高階(たかしな)妹姫は素直に喜んでいた。もう二度と会えぬと思っていたのだから当然であろう。加えて、(ひな)の君が書司(ふみつかさ)が関係が深い図書寮(ずしょのりょう)に宮仕えしているのであれば、今後も言葉を交わす機会も多くなるだろうから。流石(さすが)にこの様な展開は高階(たかしな)姉妹姫も予想していなかったし、三人を別れ別れにした父・持国(もちくに)すら想定だにしていなかったであろう。


権図書助(ごんずしょのすけ)・・・か)

 高階(たかしな)姉姫はぽつりと呟いた。それが(ひな)の君の官職であった。官位は正六位下(しょうろくいのげ)だが、図書寮(ずしょのりょう)の実質次席になる。図書頭(ずしょのかみ)(ひな)の君の遣り取りから、高階(たかしな)姉妹姫を推挙したのが(ひな)の君だった事が推察される。正直、組織の違う部署の推挙など可能なのか疑問である。(ひな)の君が属する図書寮(ずしょのりょう)中務省(なかつかさしょう)の一部署であり、後宮十二司(じゅうにし)とは組織上(つな)がりはない。ただ、宮仕えを始めてから、書司(ふみつかさ)図書寮(ずしょのりょう)が密接に関連したことは理解したし、図書頭(ずしょのかみ)内侍司(ないしのつかさ)掌侍(ないしのじょう)である大叔母の葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)知己(ちき)であった。様々な縁が重なって宮仕えが叶ったのだなと不思議な思いがした。やんごとなき貴族からの推挙であれば、一も二もなく通るのであろうが・・・

(でも・・・出来過ぎよね)

 それでも高階(たかしな)姉姫の疑念は晴れない。

 書司(ふみつかさ)に宮仕えできたこと、図書寮(ずしょのりょう)図書頭(ずしょのかみ)が推挙したこと、図書寮(ずしょのりょう)(ひな)の君がいたこと。偶然にしては余りにも都合の良い事ばかりだと思った。実は、(ひな)の君は帰京する前から自分達の素性を知っていたのではないかと疑っていた。

(祖父母と昵懇(じっこん)だった(ひな)の君が私達の素性を全く知らなかったとは思えぬ。ましてや、素性も知らぬ姫君達の元に来るのも・・・)

 今にして思えば、元貴族とは言え下級貴族であった祖父母があそこまで誰の援助も受ける事もなく悠々自適(ゆうゆうじてき)に過ごしているのもおかしい。屋敷はともかく、自分達だけの畑だけで屋敷の維持や治安が守れるのだろうか。(ひな)の君の素性は未だにわからぬが、(ひな)の君を(かくま)う見返りに庇護(ひご)を受けていたと考えると合点がいく。確かに(ひな)の海は人口も少なく近くの集落とも離れていたが、このご時世である。夜盗や賊の類を4年間見なかったのも明らかに不自然だ。

 京に戻ってから間もないのに、既に(ひな)の君は権図書助(ごんずしょのすけ)という官職にいる。(ひな)の君も図書頭(ずしょのかみ)に推挙されたのだろうか、それとも(ひな)の君の持って生まれた才覚なのか。

 解せぬことばかりだった。

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