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手習ひ  作者: MOCHA
第8章 再会
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図書頭との邂逅

 それは偶然と言うか、いずれは起きる事であったから、必然と呼ぶべきかも知れない。 

 書司(ふみつかさ)図書寮(ずしょのりょう)の行き来している時、(くらい)の高き貴族が向こうからやって来た。作法に(のっと)り頭を下げると、その貴族が立ち止まる気配を感じた。尚も(かしこ)まっていると、

図書頭(ずしょのかみ)である。(おもて)を上げなさい」

 と声を掛けられる。内心、驚きを感じながらも高階(たかしな)姉妹姫は顔を上げる。福々しい穏やかな表情の好々爺然(こうこうやぜん)とした身なりの整った貴族が微笑んでいた。

高階(たかしな)家の姫君達であるな?」

 その貴族は確認する様に聞いてくる。

「左様にございます」

 高階(たかしな)姉姫はすかさず答える。

「うむうむ・・・中々に利発であるな」

 図書頭(ずしょのかみ)は満足気に頷く。

「かような場所で申す事ではありませぬが、此度(こたび)の後宮十二司(じゅうにし)への推挙、誠にありがとうございます」

 高階(たかしな)姉妹姫は再度伏した。

 「いやいや・・・是非にという依頼があってな」

 図書頭(ずしょのかみ)は意味ありげに言う。その彼が(おもむ)に後ろを見た。

 「図書頭(ずしょのかみ)殿」

 少し非難めいた声を上げる者があった。供を従えていた事に今更(いまさら)ながら気づいた。

(!)

 高階(たかしな)姉姫は声を失った。高階(たかしな)妹姫も同様だった。そう、その供とは、忘れもしない(ひな)の海で毎日を過ごした(ひな)の君であった。

 3人の視線が濃密に絡み合う。

 高階(たかしな)姉妹姫の心に様々な思いが(あふ)れた。

 「・・・積もる話もあるだろう」

 図書頭(ずしょのかみ)はそう言って、図書寮(ずしょのりょう)の一室を貸してくれた。外仕女(げのしじょ)の二人は恐縮したが、図書頭(ずしょのかみ)は「構わぬ」と押し切られた。


 とある部屋に入り、高階(たかしな)姉妹姫が落ち着くのを待って声を掛ける(ひな)の君。

「息災でありましたか?」

「・・・はい」

 高階(たかしな)姉姫は声を詰まらす。高階(たかしな)妹姫は既に涙ぐんでいた。久しぶりの邂逅(かいこう)に心震わす三人。

「ご壮健のようで何より」

 (ひな)の君は静かに微笑んだ。

「京にはいつ?」

「あれからしばらくして京からお召しがあった。色々思う(ところ)はあったが、帰京することにした」

 (ひな)の君は京に戻ってからすぐに二人の行方を捜したが、どこの家の者かもしれぬ姫を探すのは並大抵(たいてい)ではなかった。(ひな)の海では二人の姫の素性を余り聞いてなかったのだ。そこで(ひな)の海で暮らす二人の姫の祖父母に文を出し、(ようや)高階(たかしな)家の姫である事がわかったのが最近だと言う。

「それに・・・宮中では近頃噂になっていたからな」

「噂・・・ですか」

 高階(たかしな)姉姫は首を傾げた。

「宮中一の好き者を袖にしたとか」

「・・・・・」

 高階(たかしな)妹姫は恥ずかしさの余り(うつむ)いた。

 少しいじり過ぎたかと(ひな)の君は咳払いをする。

「二ノ姫もご壮健で」

「いえ・・・京に戻ってから何度か床に()しましたが、屋敷には内薬医師(ないやくいし)がおり、姉上も薬草の心得がありました故、その後は筒がなく」

「それは何より」

 (ひな)の君は嬉しそうに笑った。(しばら)くは思い出話に花を咲かせた。この一瞬、僅かな間だけ、(ひな)の海での生活が戻ってきたような気がした。今まで心の奥底に溜まっていた(おり)が氷解していく様だった。

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