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手習ひ  作者: MOCHA
第7章 書司見習い
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書の海

 書司(ふみつかさ)は書物・紙・筆・墨・楽器を扱う部署であり、後宮と呼ばれる特別な場所に於いて、特に書物は扱う量は多く、高貴な女性や女房達が好んで読むため、常に不足気味であった。主に物語の需要が高く、用意しても()ぐに貸し出し中になってしまう。基本1ケ月以内の返却が義務付けられていたが、帝の(おぼ)し召しと称して、中々返却されないのが日常茶飯事だった。外仕女(げのしじょ)(見習い)の仕事も主に書籍は図書寮(ずしょのりょう)に保管されているため、上から指定された書籍(主に物語)を運ぶ事であった。

「○○物語の五巻から七巻がないと梨壺(なしつぼ)様の女房が催促されております」

 高階(たかしな)姉妹姫と同時期に宮仕えを始めた同僚の一人が困り顔で仕女(しじょ)に話した。

「元々○○物語のその巻は先々代の梅壺(うめつぼ)様の姫宮が破いてしまったのよね。梨壺(なしつぼ)の女房であればご存知のはず。来たばかりの外仕女(げのしじょ)揶揄(からか)っていらっしゃるのね」

 話を聞いた最年長の仕女(しじょ)嘆息(たんそく)していた。

(女は怖いわ)

 高階(たかしな)姉姫は肩を(すく)めた。


 最初の一週間で外仕女(げのしじょ)の3割が脱落した。元々実家では姫やそれに遇する扱いを受けていた娘ばかりである。宮仕えと言っても、妃付きの女房に選ばれなければ、事務方の見習いをやるしかない。それが雑務で力仕事もあるので、慣れぬ仕事に音を上げる娘も多かった。書司(ふみつかさ)もいつものことなので、宮仕えの辞退を希望を受ければすんなりと通った。それ故、どこの後宮十二司(じゅうにし)は人手不足なのだ。外仕女(げのしじょ)の臨時の補充はあるものの、時期外れに入る子女は他の仕事にあぶれた口なので、余り期待は持てなかった。

 日頃から身体を鍛錬(たんれん)し、多くの書を(たし)んできた二人の姫は、片手間だった。特に高階(たかしな)姉姫は(ひな)の海時代に野山や海岸を歩き、暇を見ては書に多く触れてきたため、正に天職と言っても過言ではなかった。

 仕事を片付けたら、後は書庫に(こも)り、新しい書を読み耽っていた。

(漢籍も多い・・・漢文も覚えた方がいいかしら)

 図書寮(ずしょのりょう)の書庫には誰も読んだ様子もない漢籍が山積みにされていた。

 本に熱中するあまり、図書寮(ずしょのりょう)の官吏が書庫に来て女官(にょかん)がいるのに驚くこともしばしばだった。そんな時は官吏から声を掛けられる事も多い。身分も低く、女の居る屋敷に通う事も(まま)ならぬ官吏にとって、職場は絶好の異性との交流の場でもあった。殊に、後宮と交流のある図書寮(ずしょのりょう)は別の意味で就職先として人気があった。

 高階(たかしな)姉姫は婚活には(ほとん)ど興味がなかったので、相手が声を掛けて来ない限り相手が書庫を出ていくまで本を読み続けるか、明らかに軟派してきた官吏には素気無く袖にしていた。噂では、男女の分け隔てなく話掛ける高階(たかしな)妹姫は引く手数多(あまた)のようだ。

 高階(たかしな)家に戻った後、高階(たかしな)妹姫に何某(なにがし)寮の大允(たいじょう)に声を掛けられたとか言われるが、その手の事に興味のない高階(たかしな)姉姫は相槌を打つだけだった。高階(たかしな)妹姫も会話が続かないので、それ以降は二人の母に今日の出来事を語るようになる。二人の母は後宮での会話を喜んで聞きたがるのだ

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