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手習ひ  作者: MOCHA
第7章 書司見習い
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書司

 後宮十二司(じゅうにし)内侍司(ないしのつかさ)を頂点に12の部署に分かれ、後宮の運営に携わる機関である。その中で書司(ふみつかさ)は、書物・紙・筆・墨・楽器などを司った。

 見習い初日は10人の仕女(しじょ)に付き、仕事を覚えることからだった。外仕女(げのしじょ)は雑用が主な仕事であり、女官(にょかん)の中でも13歳から17歳位までの若い見習いで構成されていた。仕女(しじょ)に指示により不足備品を取りに行ったり、後宮の指定された部屋に物を渡しに行ったりと、後宮内と大内裏(だいだいり)を行き来した。大内裏(だいだいり)では貴族が通れば、通り過ぎるまで控えておらねばならず、後宮でも妃や女御(にょうご)が通った際は同様であった。仕事は迅速にこなしたいが、(まま)ならぬ事が多かった。最も、書司(ふみつかさ)がある校書殿(きょうしょでん)に一番近い陰明門(おんめいもん)は帝の妃や女御(にょうご)が住まう七殿五舎(しちでんごしゃ)から離れた所にあり、余程の事がない限り出食わすことはなかった。無論、後宮を出ればやんごとなき貴族が闊歩(かっぽ)していたため、状況は変わらなかった。貴族が通る度に付き添いの仕女(しじょ)が小声でどこの誰それかを教えてくれるため、うっかり控えることなくすれ違う無礼は避けられた。

(いい上司が付いてくれた)

 高階(たかしな)姉姫は部下思いの仕女(しじょ)に好印象を受けた。最初の大部屋で他の見習いの噂話によれば、仕える上司によっては意地の悪い女官(にょかん)もおり、わざと見習いを困られる事に生き甲斐を感じている様な輩もいるらしいということだった。高階(たかしな)姉姫は今日の仕女(しじょ)の名前と顔はしっかりと覚えた。

 

 高階(たかしな)の姫達は、比較的に単純作業が多かったので特に問題なく仕事をこなした。雑用と言うだけあって、荷物運びとか書類の整理、何々(りょう)の誰それへの使い等、仕事は多岐に(わた)った。元々は女嬬(めのわらわ)の仕事であったようだが、時代が降ると共に仕事の量が増え、仕女(しじょ)に回された仕事が更に見習いである外仕女(げのしじょ)に回ってきたらしい。高階(たかしな)の姫達に付いてくれた仕女(しじょ)はさり気なく説明してくれた。

「聞けば図書寮(ずしょのりょう)図書頭(ずしょのかみ)様に推挙されたとか?」

 折を見てその仕女(しじょ)高階(たかしな)姉姫に問うた。

「その様です」

 高階(たかしな)姉姫は曖昧に答えた。

「?」

図書寮(ずしょのりょう)図書頭(ずしょのかみ)様とは面識がないので・・・」

「ほう・・・知己(ちき)がないか、面妖な」

 その仕女(しじょ)は首を傾げた。どうやらそれが知りたくて、この仕女(しじょ)は世話役を買って出たようだ。

 (ひな)の海で(つちか)った体力は他の女官(にょかん)とは比べ物にならず、荷物運びも苦にならなかった。初日は(ほとん)どの外仕女(げのしじょ)が精神的にも肉体的にもへとへとになっていたが、高階(たかしな)の姫達は余力を残していた。

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