書司
後宮十二司-内侍司を頂点に12の部署に分かれ、後宮の運営に携わる機関である。その中で書司は、書物・紙・筆・墨・楽器などを司った。
見習い初日は10人の仕女に付き、仕事を覚えることからだった。外仕女は雑用が主な仕事であり、女官の中でも13歳から17歳位までの若い見習いで構成されていた。仕女に指示により不足備品を取りに行ったり、後宮の指定された部屋に物を渡しに行ったりと、後宮内と大内裏を行き来した。大内裏では貴族が通れば、通り過ぎるまで控えておらねばならず、後宮でも妃や女御が通った際は同様であった。仕事は迅速にこなしたいが、儘ならぬ事が多かった。最も、書司がある校書殿に一番近い陰明門は帝の妃や女御が住まう七殿五舎から離れた所にあり、余程の事がない限り出食わすことはなかった。無論、後宮を出ればやんごとなき貴族が闊歩していたため、状況は変わらなかった。貴族が通る度に付き添いの仕女が小声でどこの誰それかを教えてくれるため、うっかり控えることなくすれ違う無礼は避けられた。
(いい上司が付いてくれた)
高階姉姫は部下思いの仕女に好印象を受けた。最初の大部屋で他の見習いの噂話によれば、仕える上司によっては意地の悪い女官もおり、わざと見習いを困られる事に生き甲斐を感じている様な輩もいるらしいということだった。高階姉姫は今日の仕女の名前と顔はしっかりと覚えた。
高階の姫達は、比較的に単純作業が多かったので特に問題なく仕事をこなした。雑用と言うだけあって、荷物運びとか書類の整理、何々寮の誰それへの使い等、仕事は多岐に亘った。元々は女嬬の仕事であったようだが、時代が降ると共に仕事の量が増え、仕女に回された仕事が更に見習いである外仕女に回ってきたらしい。高階の姫達に付いてくれた仕女はさり気なく説明してくれた。
「聞けば図書寮の図書頭様に推挙されたとか?」
折を見てその仕女は高階姉姫に問うた。
「その様です」
高階姉姫は曖昧に答えた。
「?」
「図書寮の図書頭様とは面識がないので・・・」
「ほう・・・知己がないか、面妖な」
その仕女は首を傾げた。どうやらそれが知りたくて、この仕女は世話役を買って出たようだ。
鄙の海で培った体力は他の女官とは比べ物にならず、荷物運びも苦にならなかった。初日は殆どの外仕女が精神的にも肉体的にもへとへとになっていたが、高階の姫達は余力を残していた。




