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手習ひ  作者: MOCHA
第6章 時は移れり
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宮仕え

 葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)が参られてから数日後、二人の姫は父・持国(もちくに)に呼び出される。勿論宮仕えの件であろう。自然二人の姫の緊張は高まる。父の部屋に向かう間、手を(せわ)しなげに動かす二の姫。一ノ姫が大丈夫と言いたげに二の姫の手をそっと取る。安心したのか、二の姫は落ち着く。

(仮に、父が拒否しても勝算あり)

 一の姫は自分に言い聞かせるように心の中で反芻(はんすう)した。

伊織(いおり)(ひな)、参りました」

 二人の姫は父の部屋の前で座って床に手を付く。

「うむ、入れ」

 部屋に入ると御簾(みす)は上げられ、父・持国(もちくに)とその左右に二人の母が並んで座っていた。

 二人の姫が座ると同時に父が核心から話す。

「先だって葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)様から伝えられた宮仕えの件、伊織(いおり)(ひな)とも正式な沙汰があり次第許す」

 二人の姫は手に手を取って喜び合う。その対面で、二人の母は不満げに父を見る。 

「まだある」

 父が二人の姫を座らせる。

「宮仕えは許すが、それなりの身分になるまでは屋敷から通ってもらう」

 父の言葉に二人の姫は顔を見合わせる。

「屋敷から後宮までは(いささ)(とお)うございます。通いとは・・・」

輦車(てぐるま)を使うのを許す。また、衛士(えじ)を付ける」

「我が高階(たかしな)家は五位(ごい)以上の殿上人(てんじょうびと)ではありませぬ。輦車(てぐるま)を使用を許されておりませぬが・・・」

 一の姫が指摘する。

「以前に譲り受けた輦車(てぐるま)をそのまま使う事を許す旨のお墨付きを得ている」

 後宮と言うと、女房等は部屋付きで住み込みの様な印象を受けるが、実家から通いの女官(にょかん)もいたと言う。更級(さらしな)日記で有名な菅原孝標(すがわらのたかすえの)(むすめ)も通いの女官(にょかん)であった。

(今は仕方ないにしても、後々良い縁でもあれば、宮仕えを辞めさせ、婿取りもできる。せめて、伊織(いおり)だけでも婿を迎えてもらわねば・・・)

 それが父の心積もりであった。

「・・・わかりました」

 一ノ姫が渋々頷いた。

「ではこちらからも条件が」

「何!?」

 持国(もちくに)は一ノ姫を(にら)みつけた。

「宮仕えの件はお上が決めた事。高階(たかしな)家-父上にそもそも決定権はありませぬ。帝がお認めになられ、太政官(だいじょうかん)からの判授(はんじゅ)(辞令)が発行される-()わば、帝からの勅命(ちょくめい)です。父上が拒否できるものではありませぬ」

「それは・・・」

 持国(もちくに)は一ノ姫の正論に言葉を(きゅう)した。

「故に宮仕えの件と輦車(てぐるま)の件は交換条件にはなりませぬ。輦車(てぐるま)の件は父上の一方的な条件。ならば、こちらからも条件をつけるのは当然でありましょう」

 そう言って一ノ姫は持国(もちくに)を見返す。持国(もちくに)は相手の意図が読めず(もく)している。二人の母も一ノ姫の物言いに微妙な顔をしている。

「して、条件とは?」

「別に難しい話ではありませぬ。婿取りの話はなかった事にして頂きます」

「なっ・・・」

 持国(もちくに)は思わず立ち上がりかけた。

「無論、父上が輦車(てぐるま)の件をなかった事にして頂ければ、こちらも条件を取り下げますが・・・」

 一ノ姫は含みを持たせる様に父に別の案を提示した。どっちに転んでも、二人の姫的には問題はなかった。 

(宮仕えとは言え、それなりの身分にならなければ実家に戻されるなんて御免(こうむ)るわ)

 一ノ姫は父の思惑(おもわく)を看破していたのだ。

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