後宮十二司
葛城右兵衛の話によれば、毎年畿内より13歳から30歳までの女で後宮に出仕を願う者を推挙していると言う。勿論、それなりの後ろ盾がないと推挙はされず、初め二人の姫はなかった。ところが是非にと言う声が挙がり、急遽二人の姫が追加されたと言う。
後に届いた葛城右兵衛の文によれば、推挙したのは図書寮の図書頭と言うことだった。
(図書頭・・・氏も知らぬ)
持国は首を傾げた。それは二人の姫も同様であった。確かに後宮の女房に文は送ったが、後宮十二司は事務方である。同じ後宮内でも全くの畑違いの組織なのだ。件の右近衛少将が宮中で騒ぎ立てたのが発端なのか、後宮の女房に文を送ったのが目に留まったのか、持国や二人の姫にも分からなかった。
これはまたとない機会であることを理解していた。客人が帰った後、二人の姫は早速持国の部屋に赴く。
だが、当の持国は中々話を切り出そうとしなかった。彼の心の中でも、今回の推挙の話をどう判断していいのか決め兼ねていたのだ。
「葛城右兵衛様・・・昔お会いした時の様子はもう朧気ですが、再びご尊顔を拝する日が来ようとは」
「誠に・・・今や後宮の重責を担っておいでとは」
一ノ妻、二ノ妻は懐かしそうに言葉を紡ぐ。
「で、葛城右兵衛様は何と?」
二の姫が待ちきれないように先を促す。
「おお、そうであった。そなた達二人が後宮十二司に推挙された事を伝えに参ったのじゃ」
「名誉な事よのう」
二人の母は自分の事のように自慢気に話す。
二人の姫は歓喜する。
「もし誠であれば、わざわざお知らせ頂いた葛城右兵衛様のお顔を立てるためにも、一度は後宮に参らなければ、義理が立たないでしょう」
一ノ姫は冷静に言葉を紡ぐ。
二人の母は顔を見合わせる。
「そうよのう・・・口実とは言え、妾姪のご機嫌伺いに来たのじゃし」
「宮仕えを受けるかどうかは差し置いても、ご挨拶ぐらいせねばの。のう持国殿」
「・・・・・」
傍らで、父・持国が苦々しい顔をしていた。本来なら、妻達に言葉を慎めと言いたいところではあるが、久々に機嫌の良い妻と娘に水を差す気にもなれなかった。それと言うのも、妻の申す通り、名誉である事は間違いでないのだから。
「ならば尚更の事、推挙を受けた我らが後宮に行くのが筋と言うものでしょう。ねえ父上?」
一ノ姫はここぞとばかり打って出た。持国の渋い顔が更に渋くなった。ただ、妻や娘の問いに、持国は態度を保留にした。




