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手習ひ  作者: MOCHA
第6章 時は移れり
30/50

後宮十二司

 葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)の話によれば、毎年畿内(きない)より13歳から30歳までの女で後宮に出仕を願う者を推挙していると言う。勿論、それなりの後ろ盾がないと推挙はされず、初め二人の姫はなかった。ところが是非にと言う声が挙がり、急遽(きゅうきょ)二人の姫が追加されたと言う。

 

 後に届いた葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)の文によれば、推挙したのは図書寮(ずしょのりょう)図書頭(ずしょのかみ)と言うことだった。

図書頭(ずしょのかみ)・・・(うじ)も知らぬ)

 持国(もちくに)は首を傾げた。それは二人の姫も同様であった。確かに後宮の女房に文は送ったが、後宮十二司(じゅうにし)は事務方である。同じ後宮内でも全くの畑違いの組織なのだ。(くだん)右近衛(うこんえの)少将(しょうしょう)が宮中で騒ぎ立てたのが発端なのか、後宮の女房に文を送ったのが目に留まったのか、持国(もちくに)や二人の姫にも分からなかった。


 これはまたとない機会であることを理解していた。客人が帰った後、二人の姫は早速持国(もちくに)の部屋に赴く。

 だが、当の持国(もちくに)は中々話を切り出そうとしなかった。彼の心の中でも、今回の推挙の話をどう判断していいのか決め兼ねていたのだ。

葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)様・・・昔お会いした時の様子はもう朧気(おぼろげ)ですが、再びご尊顔を拝する日が来ようとは」

「誠に・・・今や後宮の重責を(にな)っておいでとは」

 一ノ妻、二ノ妻は懐かしそうに言葉を紡ぐ。

「で、葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)様は何と?」

 二の姫が待ちきれないように先を促す。

「おお、そうであった。そなた達二人が後宮十二司(じゅうにし)に推挙された事を伝えに参ったのじゃ」

「名誉な事よのう」

 二人の母は自分の事のように自慢気に話す。

 二人の姫は歓喜する。

「もし誠であれば、わざわざお知らせ頂いた葛城(かつらぎ)右兵衛(うひょうえ)様のお顔を立てるためにも、一度は後宮に参らなければ、義理が立たないでしょう」

 一ノ姫は冷静に言葉を紡ぐ。

 二人の母は顔を見合わせる。

「そうよのう・・・口実とは言え、(わらわ)(めい)のご機嫌伺いに来たのじゃし」

「宮仕えを受けるかどうかは差し置いても、ご挨拶ぐらいせねばの。のう持国(もちくに)殿」

「・・・・・」

 傍らで、父・持国(もちくに)が苦々しい顔をしていた。本来なら、妻達に言葉を慎めと言いたいところではあるが、久々に機嫌の良い妻と娘に水を差す気にもなれなかった。それと言うのも、妻の申す通り、名誉である事は間違いでないのだから。

「ならば尚更(なおさら)の事、推挙を受けた我らが後宮に行くのが筋と言うものでしょう。ねえ父上?」

 一ノ姫はここぞとばかり打って出た。持国(もちくに)の渋い顔が更に渋くなった。ただ、妻や娘の問いに、持国(もちくに)は態度を保留にした。




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