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手習ひ  作者: MOCHA
第6章 時は移れり
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移り行く時

 京に戻った二人の姫。(ひな)の海での楽しい思い出が心に(あふ)れ、(しばら)くは部屋に(こも)りきりであった。ニノ姫は旅の疲れからか、一度は()せったものの、直ぐに元気を取り戻す。(ひな)の海で(つちか)った健康の賜物(たまもの)であった。京ではお付きの女房がおり、以前より生活が改善していた。最も、右京(うきょう)の西部にある高階(たかしな)屋敷は周りを湿地帯に囲まれ、屋敷に仕える女房の(ほとん)どは住み込みであった。買い出しに行くのも一苦労であり、ましてや御用聞きの商人等もいるはずもない。()ぐに辞めてしまう女房も多かった。自然、他に身寄りがない下級貴族の末裔(まつえい)だとか、困窮(こんきゅう)のため地方から京へやって来た豪族の娘の構成が多くなるのは成り行きであった。勿論、賊の手引きになる者も紛れているため、素性については厳しく審査され、合格した者だけが雇われた。

  

 二人の姫を京に戻ったことを一番喜んだのは、生粋(きっすい)の姫様であった二人の母であった。地方の生活に飽き飽きしていた二人の母は、京に戻れたことを誰よりも喜んでいた。女房が何人か雇えるようになっても古参の者が少なく、二人の姫が戻ってきたことで話相手が増え、はしゃいでいた。

  

 京ではここ数年表立った政変もなく、比較的安定期に入っていた。しかし、政治の裏では駆け引きや足の引っ張り合いが続いていた。目に見えない故、突然(ぼう)貴族邸が焼き討ちにあったりと、予測不可能な事態に京の貴族達は恐れおののいていた。

 その余波で、高階(たかしな)邸も衛士(えじ)に守られ、二人の姫はなかなか外に出ることも覚束(おぼつか)なかった。

 

 (ひな)の海から帰京した二人の姫は、山海を散策していたせいか、肌は小麦色に焼け、髪も陽射しで赤茶けていた。折角容姿が整っているのに、当時の美人とは程遠い見目形に嘆く二人の母。でも、二人の姫は全く気にしていなかった。誇りにすら感じていた。男除けにちょうどいいと一ノ姫は思っていた。京には好き者の貴族が多い。だが、湿地帯にある右京(うきょう)の西はずれの高階(たかしな)邸に出掛けるような酔狂(すいきょう)な貴族も少なかった。

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