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帰京(握り潰した桔梗の花)の文
京の高階屋敷に戻った二人の姫。懐かしさを感じる間もなく、一ノ姫は鄙の君に文を認める。
鄙の君様。
あれだけの御恩を受けしにも関わらず、お別れの挨拶もせず京へ戻りにけるかな、さぞやお怒りならむ。父の命とは言へ、抗へぬ己の弱さに恥じ入るばかりなり。せめてもの救ひは、最後に一目のみでも邂逅でこしかな。鄙の海での想ひ出は一生忘れぬ。
高階若狭国掾娘
文は信頼できる女房に託したが返事はなかった。恐らく、父によって握り潰されてしまったのだろう。文にこの手で握り潰した桔梗の花を添えたのを、父はどう感じているのだろうか。今となっては詮無いことであった。




