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手習ひ  作者: MOCHA
第5章 帰京
22/50

・父の文1

 

 父上、お久しう(さぶら)ふ。持国(もちくに)なり。この度、任官先より京に戻りき。父上、母上、姫達はご健勝(けんしょう)なられきや。4年振りの京屋敷は歳月の過ぎし分()ちにけり。家人も少なく、依然のごとき活気のあらぬ。(しか)れども、大工等を集め屋敷の改修を行ひ、人を雇ひ、徐々に(かつ)てのけしきを整ひつつあり。(しか)れば、京に伊織(いおり)(ひな)を呼び戻すいそぎもなづみなく進めたり。父に()かば、二人の姫を京に戻すいそぎを整えらればや。必要なる人・物があらば、やらばや。先ずは父にお借り給へし金品の一部を文に添ゆる故、前述の儀、何卒(なにとぞ)良しなに。


 若狭国(わかさのくに)(じょう) 高階(たかしな)持国(もちくに) 



・二ノ姫の文

  

 お父上、お久しう候ふ。伊織(いおり)に候ふ。二人の母上共々ご健勝(けんしょう)に何よりに(さぶら)ふ。摂津国(せっつのくに)に来てから4年の歳月の流れしかな、今となってはあっと言ふ間の出来事に様がる。

 幸い我も(ひな)も温暖な摂津国(せっつのくに)の生活にも慣れ、筒がなくふれり。(ひな)の病も完治し、今には外を出歩くべき様になりき。私も(ひな)もここの環境が合ふめり、日々健やかにふれり。せられ得らば、今とばかりこの地にてふらまほしきと考へたり。京の治安は安定せぬと風の消息に聞けり。屋敷に賊の入りし事は忘れ難く、私も(ひな)も震え上がれり。また、未だ(ひな)の身体が京の生活に忍ばらるるとは思へぬ。(しばら)くの養生必要なり。父上に二人の娘のいたづらなる様を少しでも考慮して給へらるれば、私達の我儘(わがまま)をどうか聞きやりて給へざらむや。祖父母との絆も深く、父上よりこの様なる文が届き、祖父母も別れ難く、あはれがれり。

 どうか良しなに。


 高階(たかしな)若狭国(わかさのくに)(じょう)



・祖父母の文1


 若狭国(わかさのくに)(じょう)よりこの様なる過分なる文を給へ、かたじけなく存ず。さるほどに、伊織(いおり)(ひな)のことなれど、二人からの文のとおりこなたに残らまほしきこころざしなり。我も美しき孫達を手放すはわりなし。もし、この老体の願ひを受け入れてもらへば、これに越しし事はなし。勉学につけども問題なし。この(ひな)でも過分なる文士(ぶんし)殿をつけ、学ばせたり。文士(ぶんし)殿のきははこの父の保証するうえ、何の問題もなし。(ひな)の養生も兼ねて今とばかり二人の姫を預からばや。


 高階(たかしな)(さきの)正八位上(しょうはちいじょう)


・父の文2


 再度の文をやるご容赦願はばや。伊織(いおり)の文、父上の文を拝見させて給へき。姫君の思いはしかと受け取りき。(しか)れども、賢き父上の行ひとも思へぬは、未だ未婚の姫君達に文士(ぶんし)(いえど)も男を遣わせるは許し難き。文を遣わしし衛士(えじ)によらば、文士(ぶんし)は妙齢の男と聞く。姫達と文士(ぶんし)に何かあらば、若狭国(わかさのくに)(じょう)としての立場なくなりぬ。どうか早とみに姫達を京に戻したまへ。


 若狭国(わかさのくに)(じょう) 高階(たかしな)持国(もちくに) 



・一ノ姫の文1


 父上、再度の文、許したまへ。前の文に綴りしとおり、(ひな)は京の暮らしには未だ忍ばられぬ。また、屋敷は()ちしままには(ひな)の病の悪化する懸念あり。今とばかりこなたで養生し、体力をつけさするが肝要と存ず。どうか幼き二人の姫の願ひをお聞きやりたまへ。


 高階(たかしな)若狭国(わかさのくに)(じょう)



・父の文3


 父上、幼き姫達へ。

 高階(たかしな)若狭国(わかさのくに)(じょう)が任地より京に戻りしはお上に報告済みなり。二人の妻の戻りしも雲居(くもい)でも話せり。(しか)れども、二人の姫が不在の事も知れ渡れり。このまま不在が続かば、他の方々より姫達の安否を問はれかねぬ。こなたにも立場といふものあり。前の文のとおり姫が一人でも(ひな)の海でお手付きにもならば、今の位を剥奪されかねぬ。さならば、姫達の生活も保障せられずなりぬ。また、懸念なりし屋敷の修理もなづみなく終はり、女房なども揃え、姫達の帰京に何の支障もあらぬ。また、内薬医師(ないやくいし)も雇ひ、(ひな)の受け入れにも問題はあらぬ。重ね重ねで申し訳あらぬが、火急に姫君を京にお戻し給へたく。


追伸

 (ひな)の海は不用心と案じ、勝手ながら文と共に衛士(えじ)を数名遣わすを許したまへ。


 若狭国(わかさのくに)(じょう) 高階(たかしな)持国(もちくに)



 若狭国(わかさのくに)(じょう)たる者が屋敷の主の許しなく衛士(えじ)を遣わしたるは忍び難き屈辱。高階(たかしな)(さきの)正八位上(しょうはちいじょう)の名に()きて、早々に衛士(えじ)の退去と姫君の養生を命ず。

 

 高階(たかしな)(さきの)正八位上(しょうはちいじょう)



 父上の怒りはご(もっと)も。されど父上や姫君の安否を想えばの事。お許しの願はばや。また、姫君の帰京につかば既に雲居(くもい)に報告済みの事。また、我が妻達もやむごとなき姫君を盾にする父上にご(がた)きけしき。されば隠居所は妻の父なりし右兵衛(うひょうえの)少志(しょうさかん)が別邸。よも忘れたるまじ。我が妻に別邸の返還を求められば、姫君は言ふに及ばず、父上の住処だに定かになくなる。どうか姫君の帰京を繰り返しお願ひ申す。

 なお、この御身(おんみ)散位(さんい)ながら正八位上(しょうはちいじょう)叙位(じょい)せれしも申し添えおく。


 高階(たかしな)正八位上(しょうはちいじょう)



・一ノ姫の文2

 お父上様。此度の仕打ちは余りに酷う候ふ。文士(ぶんし)にまねばせて給ふるをこの鄙には何よりの生き甲斐なりき。その上、外に出づるも(まま)ならぬ。(ひな)は哀しみの余り、床に()せたり。今一度ご再考を。


 高階(たかしな)若狭国(わかさのくに)(じょう)



 お父上、お母上並びに姫君達。〇月〇日に迎えの輦車(てぐるま)衛士(えじ)(ひな)に着くよう手配をせるついで。いそぎ(ばん)きはなづみなく。また、別邸の件は妻達を説得し、今まで通りといふになり申しき。お父上、お母上に()かば、引き続き隠居所にてごゆるりと暮らしあそばせ。


 高階(たかしな)正八位上(しょうはちいじょう)持国(もちくに)

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