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手習ひ  作者: MOCHA
第4章 平穏
18/50

山海の楽しみ方

 季節は秋-

 陽射しも柔らかくなり、三人で海岸に赴き、浜辺に打ち上げられた貝を集めている。気温が下がり、二人の姫も外出することが多くなった。浜辺には様々な物が打ち上げられている。貝殻も豊富だった。

 海岸沿いは風が強く三人の服を強くはためかせている。水に濡れても大丈夫な様に二人の姫は村人の服である直垂(ひたたれ)(もど)きの着物を祖母が(あつら)えてくれた。着物の(すそ)を少したくし上げ、動き易くしていた。風でたくし上げた(すそ)がはためくので、普段は見えない大腿(だいたい)の近くまでチラチラと見えた。(ひな)の君は目のやり場に困った。二人の姫が貝殻拾いに夢中になっているため、そんな(ひな)の君の視線にも気づいていない。

(ひな)の君、これなんかどう?」

 桜色の貝の片割れを拾い(ひな)の君に見せるニノ姫。

「色合いや形の美しさ、珍しさが物足りませぬ」

 (ひな)の君に駄目出しを食らったニノ姫はがっくりとする。

(いかんいかん。他に目が行って、つい口調が・・・)

 (ひな)の君は反省した。

(どうもこの姫君達は、無意識に私を惑わせるらしい)

 とは言え、注意する気もさらさらなかった。男の(さが)と言えば(さが)なのかもしれない。

 貝殻は貝合わせや装飾品、様々な用途がある。(つい)の貝殻が多くあれば、貝覆(かいおお)いもできる。美しいものであれば、それなりの値もつくし、(ひな)の海の村人もちょっとした小遣い稼ぎにしている様だ。村人の子供達が波打ち際で騒ぎながら貝殻集めをしている。長閑(のどか)な光景だった。

 

 日中、山や野を散策する時は、主に薬草や花が中心であった。

「あれは(よもぎ)止血(しけつ)、消炎・・・主に傷薬の材料となります」

 元医博士(いはかせ)が指差す。一ノ姫は紙に筆で名称や由来、草の形を記す。紙はこの時代高級品である。祖父母の家には元紙屋院(かみやいん)に勤めていた職人がおり、古くなった本の紙を()き直し再生紙として再利用していたため、紙には困らなかった。

「あれは蔔子(あけび)。白い果肉は甘くて美味ですが、(つた)は主に利尿作用があります」

「果肉があって、薬にもなるなんて蔔子(あけび)はいいわねえ」

 秋に食した蔔子(あけび)の果肉を思い出したのか二ノ姫が嬉しそうに言う。

「ここの山は薬草の宝庫です。京でも滅多にお目に掛からない貴重な物もあります。屋敷の畑で栽培できればいいのですが、どうも生育の条件に合わないところが残念です」

 元医博士は本当に残念そうに貴重な薬草を手にしながら見遣(みや)る。

「山と海沿いではそんなに気候が違うの?」

 一ノ姫は地続きなのにと不思議に思う。

「地面の高低差、風の強弱によって気候は変化します。山は風が強く、気温が低い。この薬草はそんな気候に適しているのでしょう。山より気温が高い海沿いでは育たない」

 元医博士(いはかせ)の説明に一ノ姫は成程(なるほど)と思った。

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