月の巡り、星の巡り
ある真夏の夜-
二人の姫と鄙の君は近くの海に繰り出し、月見をしていた。流石に夜に出掛けるのは不用心と思ったのか、いつもの衛士を付けたが、辺りは見晴らしが良く、夜盗でもいれば直ぐにわかる場所なので、ある程度の安全が確認されると、衛士は3人から少し離れた場所に座り、大欠伸をしていた。
「おおっ!」
二人の姫が歓声を上げる。月を見ていると、鄙の君の言う通り満月が端から欠けていくのが見えたからだ。
「凄い!」
鄙の君が注釈する。
「実は何故月が欠けるかは解明されておりません。しかし、このような事象が年に数回あることは確認されております」
宇宙や惑星の存在が認識されていない時代の事であり、鄙の君が知らないのも無理なからぬ事であった。
天体ショーは1時間程で終わり、再び満月が夜空を照らしていた。
(感無量だわ)
京に残っていたら、この様な素晴らしい景色は見られなかったと一ノ姫は思った。
鄙の君は満足そうに二人の姫を見ている。ちょっと、外着の二人の姫にときめいている鄙の君であった。
二人の姫と鄙の君は、隠居所近くの小高い山に来ていた。空は一面星が広がっていた。丘の端の切り株でいつもの様に衛士が居眠りをしている。
「今宵は月が見えぬ」
二ノ姫がぽつりと言う
「新月ですから」
鄙の君が注釈する。
「故に星は良く見えます」
と付け加える。
三人は空に向かって紙を翳し、大きな星を墨で落とす。数時間後、再び紙を翳す。
「あ・・・動いている」
二ノ姫が驚いた様に鄙の君を見る。
「星も動くのです。何故動くのかは分かっておりませぬが、恐らく月が動く事と同じ道理かと」
「星も明るさや大きさが違うのね」
京に居た頃は星など見上げたことのなかった一ノ姫は、鄙の君の注釈を聞きながら呟く。
「物語の中に竹取物語があります。かぐや姫は月から来たと言い伝えられています。月は日ノ本に一番近い星だと解釈する者もいます。もしかすると、この日ノ本のある地も月と同じ星なのかも知れませんね」
鄙の君は冗談めかして言う。
(あり得るのかも知れない)
一ノ姫は鄙の君に同調するように頷いた。