囲碁三昧
暑い日が続き、体調が回復した二ノ姫も連日の暑さに耐えきれず、臥せる時があった。眠っている二ノ姫の邪魔をしない様、二ノ姫と正綱は祖母の部屋を借り、囲碁を打っていた。石を打つ度に凛とした音が響き、二人の集中力が増した。
対局の最中、二人は局面に集中しているため、本当に他愛のない会話に終始する。
「姫は祖父殿とも打たれるのですか?」
「ええ・・・最も、祖父の期待に応えられる様な相手ではありませぬが」
「戦績は?」
「そう・・・3分7分位ですか」
「えっ」
正綱は思わず石を落としそうになった。
「?」
二ノ姫は不思議そうに正綱を見る。直視するのは相手に失礼と思ったのか、二ノ姫は頬を染める。
「いえ・・・何でも」
正綱は言葉を濁す。実際、姫の祖父と正綱の棋力は差がありすぎ、平手では祖父がよっぽどの失敗を犯さぬ限り、勝つことはなかった。最初は置き石も増える一方で、全く勝てる気がしなかった。棋力に差がある場合、置き石と言って碁を始める前に石を予め差に応じて置けるのだ。将棋で言う駒落ちと同じである。ただ、同じ相手に同じ置き石では飽いてしまうので、たまに平手で打つ事もするのだ。正綱は祖父殿が孫娘に対して手加減しているのかと思った。
二ノ姫が石を打つ音がする。
(!)
厳しい手だった。受けを失敗すれば右隅の黒石は全滅する。
(3分7分・・・か)
二ノ姫の言葉が偽りでないことを正綱は身を以って知った。