四季折々
「そう言えば、3日前位から雨が降らなくなりましたね」
会話の合間に一ノ姫が何気なく呟く。正綱は暫し思考した後、
「梅雨が明けたのかも知れませぬ」
と宣う。
「梅雨、明け・・・ですか?」
「日ノ本では四季があります。冬・春・夏・秋・・・梅雨は春と夏の間にあります。梅雨が明けると本格的な夏が始まります。気温が高くなり、この地方では凪が多くなり、とても暑くなる」
正綱の申す通り、ここ数日は暑く蒸す様な天気が続いている。
「我慢できん」
二ノ姫が御簾を上げてしまう。余程暑さに耐えきれなかったようだ。正綱と一ノ姫はぎょっとする。この時代、女性が未婚の男と御簾もなく顔を合わすことがなかったため、二ノ姫の行動は大胆だった。一ノ姫も負けじと御簾を上げる。ぽつんと座っていた正綱は二人の姫の顔をまじまじと見てしまう。二ノ姫の容姿を見るのは初めてだった。一ノ姫は祖父殿と囲碁を嗜んでいた時に見たことがあるのでそれほど驚かなかった。美しき一ノ姫と可愛らしき二ノ姫。見目は違うものの、異母姉妹の割にはよく似通ったところがあると正綱は思う。
(父親似なのかな)
正綱はふと思う。
「私と妹の母達は姉妹なのです」
正綱の思いを察した一ノ姫は、二人の母は姉妹であることを告げる。
正綱は合点がいったように手に持った扇子を手で叩く。
それ以後、二人の姫は御簾を上げたままで対面するようになり、正綱も屈託のない二人の姫に慣れていく。




