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文士
梅雨も半月も過ぎると、二人の姫は祖父母の屋敷の離れの部屋で横になっているか、うとうとと微睡んでいた。気温が高くなったせいか、夜も眠れぬ日々が続いていたのだ。
「何か面白きものはないか」
が二人の姫の口癖になっていた。
ある日、祖父がそんな二人の姫を見兼ねて、文士を呼んでみないかと言う。
二人の姫は、
「文士?」
と首を傾げる。聞き慣れぬ言葉だった。祖父が文士とは物語や随筆を書くことを生業にしている者だと説明する。物語や随筆を書くのはてっきり女官だと思っていた一ノ姫は意外に思う。祖父は祖母に意味ありげに睨まれ、コホンと咳払いをする。
「もし、お前たちがよければ、だな」
と取ってつけたような言い種をする。二人の姫は顔を見合わせる。
「まあ、無聊を慰めてくれるのでしたら」
と祖母も同調する。
祖父はこんな雨続きでも足繁く外に出掛けていた。祖母に行く先を聞くと、
「また、打ちに行ったのでしょう」
と溜め息交じりの返答しか返ってこない。二人の姫は首を傾げるばかりだった。
(この様な鄙に文士などと教養ある人がいるとは)
一ノ姫は不思議に思う。