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未完  作者: こえだめ
一章
3/3

2

 そして、私はやっとこの世界がおかしいことに気づく。皮や荒い布でできた、しかし清潔そうな服。窓のない石造りの歪んだ家々。なによりも、太陽のない明るい空。ここがいわゆる異世界だということにね。(もっとも、異世界という単語に思い至ったのはこちらに帰ってきてからだ。)

 最初はありえないと否定したよ。私の知らないどこかの国だとか部族だとか、そう思おうとした。けれど、光源のよく分からない光は建物の下に不可思議な影を作り出していた。様々な長さで全方向に伸びる、真上から太陽が差してきたとも考えられない形の影さ。それは自分の足元にもできていたっていうのに、どうしてそれまで気づかなかったのか。

 一気に混乱が押し寄せてきた。信じてきた全てが壊れるような感じがした。大袈裟だと思うかい? たかだかそれぐらいで、って。私も影がなければ冷静に考えることができたように思う。私の足元の影は、もとの世界の私を否定している気がした‥‥と言うと少し詩的すぎるか。とにかく私もこの異常な世界の存在であることがさらに混乱を呼び起こした。私は目の前の彼女に、通じるはずもない日本語で捲し立てた。喋らなければ狂ってしまいそうだった。これが「もとの世界」だったなら警察を呼ばれて連行されていただろう。それぐらい理不尽で暴力的な当たりかたをした。勘違いしないもらいたいのは、私は決して暴力は振るっていない。ただ言葉選びと声量がクソッタレだったんだ。

 彼女は当然驚き怯えた。言葉が通じなくとも雰囲気は伝わるものだ。だが勇敢だった。武器をもっていたことも大きな要因だろう。彼女は肩にかけられた、服と同様の荒い布でできた分厚い袋の紐をといて剣の柄に手をかけた。思えば、刃物としてではなく鈍器として使おうとしてたのだろう。袋を被せ、できるだけ殺傷沙汰にしないようにして、本当に危なくなったら袋を引き裂くか袋から抜くかして、刃を露出させるのだ。言語がなくとも良心があるというのは、実に興味深い事象だ。ほとんど個人の判断に委ねられた道徳っていうのは、ある意味人間としてあるべき姿だと思うよ。もちろん、彼女や周りが素晴らしい人々で、「キチガイだ、殺せ」とはならなかった、ただそれだけだと言ってしまえばそれまでなんだが。いや、それは私の思想が野蛮すぎるだけか?

 彼女は、訳のわからない声をだしている不審者丸出しの私を追い出そうとしなかった。護身用に武器を手にすれども振るう気はなく、意思疏通を試みて、私の目をみつめていた。なんだか野性動物になった気分だったよ。向こうからみたら変な動物のくくりに入っていたかもしれないから、あながち間違いとも言えない。

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