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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
思いと傲慢
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雇い

ゼフはカズトとスズネを連れてあるところに来ていた。そこは華やかな帝都には似つかわしくない人が誰1人といない場所である。2人は暴れ疲れたのか大人しくなっている。


「兄貴ここはやめたほうが……」


「何故やめる? これほど人がいない場所などなかなかないぞ」


「いえ、実は…… この場所は信じないかもしれないですけど、幽霊が出るんです」


「バカバカしいことを言うなと言いたいが、この惨状を見る限りかなりやばいみたいだな」


「そうですよ! かなりヤバイです。 だから、別の場所にしませんか……」


「今更遅い、アイアンG2人を下ろせ」


ゼフがそう命令すると、今までビクともしなかったアイアアンGの腕が解かれるように離れる。急に離されたからか尻を思いっきり打ち、それを撫でている。


「あなたこんなことしてタダで済むと思うの?」


「確かにあれだけ人に見られたのだから、警備隊が来るかもな。 だが、残りの日数の暇つぶしは出来るな」


スズネはゼフという男に常識が通じないと悟る。そして、考えてしまう。自分達が一体何をされるのかを。


「お、俺達をどうする気だ!」


恐怖からかカズトが叫んでしまう。ゼフはそれを見て笑いながら口を開く。


「簡単な話だ、ゲームをしよう」


「「ゲーム?」」


「ああ、そうだ。 やり方は簡単だ、お前達は逃げるだけでいい。 それを俺が追いかける。 簡単だろ?」


「どこまで逃げればいいのかしら?」


「随分とやる気だな、場所は冒険者組合までだ」


「わかったわ、カズト立って」


「う、うん」


カズトとスズネはゆっくりと立ち上がるのを確認するとゼフは再び口を開く。


「始める前に1つ疑問を解消してやろう。 お前が使った鑑定は使えない魔法として知られている。 俺の全てを知りたければ最上級の鑑定魔法か能力の神眼しか使うことしかできない」


「鑑定はゴミ魔法だと?」


「それには逃げ切ったら答えてやろう。 では、スタートだ」


ゼフがそういった瞬間カズトとスズネが走り出す。しかし、開始直後アイアンG達から拳が振りかぶられ、辛うじて避ける。


「なんだよこれ……」


「は、反則じゃない!」


カズトとスズネは目の前に立ちふさがる2体のアイアンGを見据えながら叫ぶ。その間にもジリジリとこちらに寄ってきている。


「何が反則だ。 俺はスタートと言ったんだ。 別に最初から襲わないというルールはない。 確認しなかったことを悔いるんだな」


「カズト! やるわよ」


「そうだな…… よし! やるぞ!」


やる気を入れたカズトは剣を構える。スズネは後ろから魔法を詠唱しているようだ。まず、最初に攻撃を仕掛けたのはカズトでその剣捌きは熟練冒険者をはるかに超えてるように思えた。しかし、アイアンGの硬い甲殻に弾かれる。そして、予想はしていたが、初心者冒険者ということでいい剣が買えなかったのだろう。刃がたった1発で欠けてしまっている。


「スズネ! 頼む!」


「任せなさい! ――アイス・レイン――」


スズネが魔法を食べ発動させると、氷柱のようなものが雨の如くアイアンGに降りかかる。しかし、その攻撃は全く効いておらず、未だにこちらに向かってきている。


「う、嘘……」


スズネは自分の魔法が全くの無傷であることを確認すると、絶望からか膝をつく。


「スズネ立て! まだ終わってないぞ!」


カズトはそう言うが内心勝てないと思っていた。そもそも掴まった時から物理系の攻撃は効かないと思っていた。だから、この魔法はスズネの頼みだったのだが、その魔法も無傷ときたら為すすべがない。


「残念だが、終わりだ。 短い時間だったが楽しかったぞ」


「まだだ!」


カズトは拳を振るいながら突っ込んでいく。しかし、あっという間にアイアンGに抱きつかれ、そのまま背骨を折られる。その時の叫び声は今までにないほど大きかった。残りのスズネもアイアンGの握撃によって声を出す暇さえ与えられず顔を潰された。そんな2人の死体を見ながらゼフは呟く。


「面白いと思ったが、あんまりだな。 もう少し逃すべきだったか……」


レオとイチとニはそんな言葉を発するゼフに恐怖し、何も言えなかった。



✳︎✳︎✳︎



時は遡り1日前、クライエルは自分が所有する中で最も大きな屋敷でとある人物を待っていた。豪華な椅子に座っているが、落ち着かないように見えた。しばらくして扉が開く。そこには白髪の少し大柄な顔に刺青がある男が立っていた。


「久しぶりだなジン」


「あんたこそまた依頼してくれて嬉しいぜ」


「まあ、まずはそこに座れ」


ジンはクライエルの言う通り対面に座る。そして、ゆっくりと口を開く。


「それで、今回は誰を殺す?」


「ゼフという冒険者だ。 私が知っている情報としては金髪の奴隷と少女の奴隷を従えていることぐらいだ」


「その程度しかわからんのか。 まあ、そこは大丈夫だ」


「それはありがたい、報酬だが金貨5万枚でどうだ?」


「随分羽振りがいいな。 そんな大金出せるのか?」


「勿論だ、約束しよう」


「そういえば、何故ゼフというこの男を殺す?」


「お前には話そう…… こいつは私に2500万枚の借金を負わせようとしている。 だから、殺す」


ジンはそのありえない金額に驚くが、顔には出さず瞬時に返答する。


「嵌められたのか?」


「そうだ」


「期限はいつまでがいい?」


「3日のうちに頼む」


ジンはその言葉を聞き、少し考える。


(こいつからもっと引き出せるな……)


「3日のうちにやるとするなら10万は出してもらわないと困る」


「10万だと⁉︎ す、少し待て……」


クライエルは頭を下げ、考えるが2500万枚よりはましだと判断し口を開く。


「それで頼む」


「交渉成立だ。 3日後楽しみにしてくれ」


「ああ、勿論だ」


その日、屋敷には不気味な笑い声が2つ響いた。



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