知らなくてもいい
今まで人間の扱いをされなかった。奴隷というのは全員そうかもしれない。私は物心ついた時からそのような扱いを受け、命令されればどんなことでもしてきた。そして、自分は誰にも必要されていない人形だと理解するのに時間はかからなかった。朝日が照らしてくる。ふかふかのベッドから起きると、ご主人様が起きるのを待つ。
「おっ、サンは今日も早いっすね」
「いえ、普通のことなので……」
「なんか、少し変わったすか?」
「え…… いや、そんなことないです」
「そうっすかね、最初よりもハキハキと喋るようになったっす」
「自分ではわからないです」
「そういうものなんすね。 そろそろ起きたみたいっすよ」
隣を見るとご主人様が起き上がる。自分は必要とされていないと思っていたが、そんなことはない。少し酷いことをされたけど、必ず生き返らせてくれる。それに呪いも解いてくれた。ご主人様は普通ではないのかもしれない。だけど、これまでのことを考えれば、私にここまでのことをしてくれるご主人様を信じたい、そう願うのだった。
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ゼフ達は宿を出ると、一直線に宿屋に向かう。奴隷のイチとニは昨日の賭博場のことを聞かれたので、特に問題ないと思い話した。その時の顔は少し引きつっていた。
(まあ、あれが普通の反応だよな。 確かに従順な奴隷が欲しいとは思ったが、こいつずっと側にいて離れない。 それに、ニコニコ笑ってやがる。 よくわからないな)
そんなことを考えていると、イチが思い出したかのように口を開く。
「そういやご主人様、昨日最後の試合をサンに勝たせたっていましたけど、どうやったんすか?」
「前に話した透明化の魔法を使った」
「透明化っすか。 でも、宿で透明化は物理攻撃又は何かしらの魔法を使うか、何か生き物に触れたら解けるって話したっすよね?」
「ああ、そう話した。 確かに1番低位の透明化魔法だから利便性が悪い。 だが、重複してかければ問題ない」
「重複できるんすか⁉︎」
「できる、だから蘇生蟲には俺が100回ほどかけてやり、 最後にフォースを倒したアザメロウは自分自身で50回ほどかけさせた」
「それで倒したっす訳っすね」
「ご主人様1つよろしいでしょうか?」
横からニが質問を挟んでくる。
「なんだ?」
「もし、アザメロウが透明化の魔法を使えるなら、ご主人様はどうして同じ魔法を覚えてらっしゃるのですか?」
「なんだ、そんなことか。 アザメロウは見えてる範囲にしか透明化の魔法をかけれないが、俺は蟲の居場所さえわかればどこにでもかけれるからな。 攻撃魔法ならいらないが、こういうのはかなり必要ないものだったりする」
「なるほど、そんなことができるのですか。 ありがとうございます」
ニは頭を下げると、イチの後ろに再び戻る。目の前には冒険者組合が見えたので入る。中は朝が早いからか冒険者で溢れている。辺りを見渡し、テーブルに座っているレオを見つけると近づいていく。
「あ、兄貴! 昨日はすいません……」
「気にするな、それでどいつだ?」
「いえ、今日はまだ来てません」
「そうか、ならどんな奴らか教えろ」
ゼフにそう言われると、レオは顎に手を当て考える。
「特徴ですか…… すいません、あんまり覚えていない感じなんですけど、男女2人組で男の方は剣士、女の方は魔導士ということは覚えてます」
「剣士に魔導士か…… お前はどっちにやられた?」
「剣士の方です……」
「瞬殺されたと聞いたが、仮にもB級冒険者を倒すとはな……」
「あれは1つの化け物っす」
「そうか化け物か。 レオお前もう1回挑め」
「兄貴勘弁してくださいよ…… 軽傷で済んだとはいえ、まだ痛むんですよ……」
「なら選べ、その2人組と戦うか俺の召喚する蟲の1匹であるデスGと戦うか」
レオはゼフにそう言われると、念のためにと口を開く。
「と、ところで…… デスGとは一体どんなので……」
「そうだな、性格は俺の召喚する蟲の中では大したことないが、よく遊びながら殺すな。 この前見たアイアンGの見た目をグロくして、攻撃型に変えた感じだな」
「このレオ、その男女に一矢報いる為頑張らさせてもらいます」
「1つ面倒な死体が増えなくてよかったよ」
自分がした選択が間違っていないことを確認し、心の中で喜ぶ。そんなことをしていると入口の方にいかにも初心者冒険者と言える服装の2人組が入ってきた。
「あ…… 兄貴、あいつらです」
レオがそう言うと、ゼフが2人組を見据え軽く笑うのだった。




