貴族
ゼフは奴隷達と共に扉を開け入ると、そこには普通の家に似つかわしくない地下へ続く階段がこちらを招くように設置されていた。ゼフは警戒せずに、そのまま進んでいく。
「それにしても暗いな。 もう少し明かりを用意できなかったのか」
おそらくは人間が見えるギリギリの明るさに設定されており、それが不気味さを更に増長させていた。
「だが、この感じは皇都を思い出すな」
「ご主人様、皇都って何っすか」
「そうか、そういえば魔族がいるから向こうのことはよく知らないんだったな。 皇都とは魔族の街を越えた先にある人間の街だ」
「それは初耳っす。 もしかしてご主人様はそこに行ったんすか?」
「そうだ」
「ご主人様はすごいっすね」
「あまり小さなことを大きく褒めるのはやめた方がいい。もしやるならこれからやることに対して言うんだな」
「了解しました! 次からは気をつけるっす」
イチは慌てて訂正し、次は気をつけることを心に誓う。
「ここみたいだな。 どこもありきたりだな」
ゼフがそう呟くので見てみると豪華な扉がそこにはあった。はめられているのはおそらく鉱石の類いだろう。紫色に輝き、暗闇を照らしていた。そんなことはお構いなしにゼフは扉を開けると正面に受付の様なものがあり、そこに1人の女性が立っていた。ゼフはすぐに受付に向かい歩き始めたので、イチとサンはついていく。
「どうぞようこそおいでくださいました。 最初に確認をしますが、ここがどういう場所かご存知でしょうか?」
「もちろんだ、ここは賭博場だろ。 それも主に奴隷を使ってるな」
「そこまでわかっているなら大丈夫です。 ですが、貴方は見たところ冒険者のようですが、この場所で遊ぶのは薦めませんよ」
「大丈夫だ、ある程度はそういうことも考慮して来た」
「わかりました、では説明させてもらいます。 まず、軍資金は最低金貨500枚をお持ちの方のみ入ることを許されます。 失礼ですが、お持ちでしょうか?」
女性はゼフが何も持っていないのに疑わしい顔を浮かべるが、ゼフは収納魔法から金貨が入った袋を3つほど取り出すと、驚きの表情を浮かべる。
「これで問題ないだろ。 だいたい600枚くらいだ」
「確認致します」
ゼフから袋を受け取ると1枚ずつ高速で数えていく。それはもはや職人芸と言わざるを得なかった。袋から出して1分もしない内に数え終わり袋が帰ってくる。
「確認しましたところ問題ありません。 この賭博場に入る権利は達成しております」
「そうか、それでどうやって賭けるんだ?」
「それを今から説明させてもらいます。 まず、賭け金の最低額は金貨10枚からで構いません。 そして、上限は5000枚ですが、複数回賭けることができます」
「複数回とはどういうことだ?」
「例えば、1度5000枚でかけたとします。 その賭けた枚数は魔道具でこのように管理することができます 」
女性は自らの腕に腕輪が付いているのを見せる。そこには数字で500と書かれている。
「どういう原理なんだ?」
「この魔道具は収納魔法がインプットされ通り、その中でも金貨のみに絞ることで最大5000枚収納することができ、入っている枚数も表示できるということです」
(収納魔法か、なるほどな。 先程驚いていたのは収納魔法を使ったからではなく、俺が収納魔法を使っていたからか)
「なるほどな、つまりその腕輪を複数個所持することで複数回賭けることができるというわけか」
「その通りでございます。 他に何かございませんでしょうか?」
「ここでは自分奴隷を出場させることはできるのか?」
「はい、可能でございます。 後ろの方達ですね」
「そうだ」
「まずはこの紙に必要事項を書いていただければ問題ないです」
ゼフは羊皮紙とペンを受け取ると、サラサラと必要なことを書いていく。意外と書く量は多く、大変だった。進めていくとやはりというべきか、予想はしていたがある事が書いていた。
「この奴隷の生死は保証できないとあるが、これはなんだ?」
「簡単なことです。 死ぬ時があるんですよ。 奴隷は勝てば倍率分の金貨がもらえます。 負けるともらえませんが…… もし、奴隷を死なせたくなければやめた方がいいと思われますよ」
「いや、問題ない」
そういい、書き進める。 すると、先程ゼフ達が入ってきた扉が開かれる音が聞こえる。そこにはいかにもという貴族の中年男性が立っていた。その男はゆっくりこちらに近づいてくる。イチが少し殺気立ち、サンが少し怯えているのは今までのトラウマだろうか。
「アナくん、この者達はなんだね?」
「はい、今日初めて来られた客でして」
「随分質素な身なりだが、大丈夫なのかね?」
「はい、規定の金額には達しておりました」
「なんだお前は?」
「無礼なやつだ、私はこの賭博場の責任者であるクライエルという」
クライエルは自慢の髭をいじりながら話す。
「これは自己紹介をありがとう。 俺の名はゼフという」
「アナくん」
「はい、なんでしょうか?」
「この者も奴隷を出すのかね?」
「はい、今手続きをしております」
「なるほどなるほど、では私の奴隷達との対戦を組んでくれ」
「え? 先約がいますが、いいのですか?」
「所詮は私に何もできないから、奴隷だけでも勝とうという愚かな者たちだ。 構わん」
「俺も構わない」
「りょ、了解しました」
アナは急いでメッセージの入った見覚えのある魔道具を使って話し始めた。
「さて、ゼフくん。 せっかくだ、私と特等席で見ようじゃないか」
「いいだろう、少しは暇つぶしになる」
「その際私達個人でも賭けをしようじゃないか」
「賭けだと?」
「ああ、そうだよ。 何この賭けはもしかしたら遂行されないかもしれないものだよ。 その内容は自分の所有する2体の奴隷のうち片方でも死んでしまえば負けというのはどうかな?」
(なるほどな、これは確実に俺の奴隷を殺しにくるな)
「いいだろう」
そう答えるとクライエルは軽い笑みをこちらに浮かべた。




