賭博
ゼフがギルドマスターの部屋に向かった後、奴隷達は静かに部屋の端で帰ってくるまで待機していた。
「何故こんなことになったすか……」
イチは不満を漏らすようにため息をつきながらぼやく。
「何言ってるんですか、この程度で音を上げていたら先が思いやられますよ」
「元は盗賊だったやつに言われても説得力皆無っす」
「そうですね、僕は好きなように生きてましたからね。 人を殺すのは楽しかったですから。 僕を異常というものもいましたけど、寧ろ感謝しています。 なんたって、それで幹部にまで上り詰めたのですから」
「今は奴隷のやつがよく言ったものっすね」
「そういうイチさんも奴隷じゃありませんか。 どんな輝かしい栄光や善行も奴隷になってしまっては意味がありませんよ?」
イチはその言葉に言い返すことができず、喉が詰まる。
「まあ、奴隷同士仲良くした方がいいですよ。 今回の主人は少し…… いや、かなり異常と思われますからね」
「それは俺も感じたっす。 長年いろんな人を見てきたっすけど、どれとも違う何か恐ろしい雰囲気を醸し出してるっす」
「曖昧ですね。 はっきり申すとあれはかなり人を殺してますよ」
「それぐらいはわかってるっす。 ただ、何かおかしいんっす。 今すぐ逃げ出せと警告を鳴らしてるっす」
「そういえば、イチさんは買われたのは何回目ですか?」
「初めてっすけど、何故そんなこと聞くっすか?」
「そうですが、ならイチさんは奴隷の扱われ方をご存じないのですね。 僕は今まで2回買われましたが、どちらも不運な事故で亡くなってしまいました。 主人からは暴力は日常茶飯事、飯も食えたものではなく、しまいには3日間暗闇に放置されたこともあります」
「そ、そんなにっすか……」
イチは初めて聞いた奴隷の扱いに自分もこれからそうなるのではと、恐怖が込み上げてくる。
「まあ、これは運が悪い場合ですね。 今回のご主人様は美味しいご飯を与えてくれ、ベッドで寝かせてくれて、理不尽な暴力もない。 寧ろ最初のことを入れたとしても最高ですね。 サンさんはどうですか?」
不意に話を振られたサンはあたふたしながら、ゆっくり口を開く。
「え、えっと…… はい、私は今まで誰も解けなかった呪いを解いてもらえて感謝しています。 たとえ何をされても我慢できます」
「そうですか、サンさんは今まで奴隷になったことは?」
「えっと…… 1回だけあります」
「主人からは一体何をされたんですか」
「さ、されたというよりかは私から…… お、お世話をしてあげました……」
ニはその言葉で察して、それ以上追求することはなかった。
「だそうですよ、イチさん。 今の話で少しはわかってもらえたんじゃないですか?」
「ここはいいとこなんすね、例えどんなことが待ってようと他のところよりマシだと言い聞かせて我慢するっす」
イチが決意を言葉にすると同時にゼフがこちらに向かってくる姿が見えた。
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「兄貴、こっちです」
ゼフと奴隷の3人はレオに賭博場を案内させていた。
「それにしてもレオ、あれから随分かかったな」
「すいません、兄貴。 少し情報を聞き出すのに時間がかかりまして……」
「まあ、いい。 後どれくらいで着く?」
「あと少しです」
人気の多い場所を通っているので、本当にそんな場所があるのか不安でならなかったが、ここまで怯えてるのだから大丈夫だろう。
「そういや、お前にやってもらいたいことがある」
「な、何でしょうか?」
「何、簡単なことだ。 新しく冒険者になったやつを脅して、冒険者になったことを後悔させろ。 手段は問わん」
「そ、それは…… 何か特別な理由があるんでしょうか……」
「ない、単なる暇つぶしだ。 もしかして断るのか?」
「いえ、そんなことないです。 やります! やらせてもらいます!」
「1人じゃ心細いだろう。 ニをパートナーとしてつけてやる。 だが、ニはサポートでやるのはお前だ。 いいな?」
「はい、わかりました」
(何故俺がこんな目に…… あの時声をかけられなければ…… 願うならあの時をやり直したい)
レオはそう嘆くが思いは届くことなく、目的地に着々と近づいていく。
「因みに俺が不在だからってやらないということはできないからな。 その為にニ達がいるのだからな」
「おっしゃる通りです。 ご主人様の言う通り全身全霊をかけてレオ様を見守らさしていただきます」
レオはもう自分は逃げられないのだと実感し、諦めることにする。気づくと目的地に着いたらしくレオは足を止める。
「ここが、兄貴の探していた奴隷を使った賭博場です。 おそらく規模的には1番と言ってもいいのではないでしょうか」
そこは少し豪華だが、普通の家に見える。 だが、たしかに探知の魔法を使えばこの先に大量の生き物の反応がある。
「随分と堂々としているな。 見つかったらどうするんだ?」
「これは予想になるんですが、使用してるのは貴族がほとんどなんで金に物を言わせている感じだと思われます」
「そんなとこか、確かに人を殺してるわけでもないから警備隊は出動できないしな。 よく考えてるじゃないか」
そうしてゼフはドアに手をかける。
「それじゃあ、レオとニはさっき言っていたことをやれ。 俺とイチとサンは少し遊んでくる」
「わかりました兄貴!」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
それを聞くと優雅に扉を開けゼフ達は中に入っていった。




