魔力
ゼフは驚き、すぐさま奴隷の少女が入っている檻に近づく。少女は顔を下げ、目を合わそうとしない。
「お客様如何なさいましたか?」
「この奴隷が少し気になってな」
「この奴隷ですか…… 失礼ながらこの奴隷はお客様に合わないと思われます」
「何か理由でもあるのか?」
グレイドルフはゆっくり笑顔を見せ、ゆっくりと口を開く。
「はい、この奴隷は魔導士でありながら魔法の類が全くと言っていいほど使えないのです。 それでいて魔力は高いので、まさに宝の持ち腐れと言えます」
「なるほどな、確かにそれだと戦闘で肉壁にしかならないな」
「仰る通りでございます」
「だが、それだけではないはずだ。 この見た目だ、別の使い道をするために買おうという奴がいてもおかしくないんじゃないか?」
グレイドルフの表情が普通の人ならわからないレベルで崩れるのをゼフは確認する。
「別に言いたくなければいいが、俺はこれを買うつもりでいる」
「呪いです」
「呪い?」
「はい、奴隷の右手の甲を見てください。 そこに黒い紋様が浮かんでおりますが、それが呪いの証です」
ゼフがグレイドルフに言われた通り少女の右手の甲を見ると、確かに黒い紋様が浮かんでいた。
「なんの類の呪いだ?」
「それは分かっておりません。 ただ、魔法を使えないことに関係があると考えております」
「そうか、わからないから何が起こるかわからないというわけか」
「仰る通りであります」
(呪いか…… やはりこの世界では解くことができないのか。 これは掘り出し物だな)
ゼフは不気味な笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「この奴隷買おう」
「本当で御座いますか⁉︎」
「ああ、呪いのことも全て理解した上で買おう」
「あ、ありがとうございます」
グレイドルフは深々とお辞儀をする。
「では、先程言った通り別室に案内します」
「ああ、頼む」
そう言うと少女の視線を横目に歩き始めた。
✳︎✳︎✳︎
ゼフは奴隷契約というものをすると、3人の奴隷と共に店を後にした。どうやらこれを行うことによって奴隷が命令に完全服従し、逆らわないらしい。
「さて、とりあえず宿に戻るがお前達の名前はなんて言うんだ?」
ゼフがそう問うと金髪の奴隷が口を開く。
「自分達は奴隷なので名前はないっす」
「奴隷になる前に名前くらいあっただろ」
「ルールで前の名前を使うのは禁止されてるっす」
「そうか、面倒だな。 じゃあお前の名前はイチだ」
「はい」
ゼフは金髪の奴隷が返事をするのを確認すると、黒髪の奴隷に目を向ける。
「お前はニだ」
「了解しました」
そして、最後におどおどしている少女に目を向けた。
「お前はサンだ」
「はい…… ご主人様……」
「取り敢えず今日は宿に戻る。 ついてこい」
「「「はい」」」
3人の奴隷は息ぴったりに返事をすると、ゆっくりとゼフの後ろについて行く。宿までの道のりが暇だったゼフは1番話せそうな金髪の奴隷に声をかけ始める。
「おいイチ、お前凄腕の剣士だったらしいな」
「いえ、そんなことないっす」
「謙遜するな。 それで、一般人を殺したんだってな」
「こ…… 殺したっす……」
イチは明らかに暗い表情を表に出しているのがわかった。
「それで奴隷落ちか。 今までの努力が水の泡だな。 それで、何故殺したんだ?」
「ムカついたからっす。 この街の貴族は俺をバカにしたっす。 なによりも努力して得た剣術を馬鹿にして黙ってられなかったからっす」
「なるほどな、それはお前が合ってる。 それに、俺に買われたことを幸せに思うだろう」
「ありがとうございますっす」
ゼフはすれ違う人達がこちらを凝視しているのに気づく。どうやら、奴隷を見ているようだった。
(奴隷は目立つのか。 まあ仕方ない、今はこれしか移動手段がないのだから)
ゼフは人々の目を気にしないことにすると、黒髪の奴隷に声をかける。
「ニは何故奴隷になった?」
ニはにっこりと微笑むとゆっくり口を開く。
「僕は今は壊滅して無くなっていますが、ある盗賊団の幹部でした。 しかし、冒険者に潰され囚われの身となった僕はそのまま奴隷となったわけです」
「なるほどな、今までどれくらい殺したんだ?」
「おそらくですが、50人は殺しているかと。 ご命令とあらばいつでも首を持って来ますよ」
「それは頼もしい限りだな。 だが、今はそういうのは遠慮しておこう。 それじゃあ最後にサン、お前が奴隷になった理由を聞せてもらおう」
「は…… はい。 私は…… 親に売られて奴隷になりました……」
その言葉を聞き、他の2人の奴隷は違いはあれども驚いているのがわかった。ゼフは続けて問いかける。
「何故売られた?」
「それは…… 私が呪いで魔法が使えないからです……」
「貴族か」
「はい…… 最初は保有魔力が多いことで期待されていました。 しかし、魔法が使えない呪いにかかっているとわかるとそこからはすぐでした……」
「そうか、貴族とは大体そういうものなのか?」
ゼフはニの方を見やる。
「僕が知る限りでは、大半がクズばっかりですね」
「なるほどな、じゃあ居なくなっても問題ないな」
「案外そんな簡単ではないですよ。 ご主人様は貴族に恨みでもあるんでしょうか?」
「いや、クズのおもちゃが欲しいだけだ」
3人の奴隷はその言葉に異様を感じた。おもちゃとは何かと聞く前にゼフ達は宿に着いてしまい、聞きそびれてしまった。




