組合
新しく冒険者になった男はいとも簡単にあの悪名高きビリーズ3兄弟を殺し、それを召喚した蟲に喰わせた。その後は特に何事もなく依頼を受けて出て行ったのでその場にいた冒険者は一安心していた。
「いや〜 流石にあれはおっかねぇぜ」
1人の冒険者が呟くと、それによって溜め込んだものを吐き出すように元のように騒がしくなる。
「まさかビリーズ3兄弟が殺されるとはな……」
「ああ、俺はまたビリーズ3兄弟に絡まれて最初は可愛そうなぐらいしか思ってなかったが、あんな恐ろしいやつとはな……」
「それにしてもあの時間は苦痛以外の何者でもなかった」
「それは俺も同感だ」
「俺は最初召喚士が召喚できる魔物だから大したことないと思っていた。 実際召喚士なんて簡単なクエストなら役にたつかもしれねぇが、魔力消費が多い。 だから、召喚できてもオーガぐらいだからな。なのに奴はそれすらを上回る魔物をいとも容易く召喚していた」
オーガはC級冒険者が狩ることができる魔物であるが、あの小さな体の蟲はその程度とは思えなかった。
「あれほど強いならあそこまで傲慢になるのも当たり前かもな」
「まぁ、ビリーズ3兄弟もいつかは自分達に返ってくるとわかっていてやっていたのだから同情はしねぇ。 運がなかったのさ」
「そういやあいつが召喚したビリーズ兄弟を殺した魔物はなんて言うんだ? それに後から入ってきた魔物も何だろうな……」
「後者はわからねぇが、前者は奴が言う限りでは嘘だとは思うが、ガシガシという魔物みたいだな 」
「なぜ嘘だと思うんだ?」
「見たことはないが、俺が知る限りでは、ガシガシはデスワームと同じぐらい強いと言われている。 普通だったら1体倒すのにも骨が折れる。 だが、奴は簡単に召喚していた。 召喚するときの魔力の消費量から考えて、もしもガシガシだったらありえない。 だから、あれはガシガシという名の別の魔物だ」
「なるほど、確かにそうかもしれんな。 それが嘘だとしても、あれが簡単に召喚できると印象付けれるのか」
「ああ、実際ビリーズ3兄弟が手も足も出ない魔物だからな。 俺達には手が負えないだろうな」
「そうだな、問題は奴の性格もだな」
「ああ、奴はビリーズ3兄弟を躊躇なく殺し、それを見て楽しんでいるように見えた。 はっきり言って異常だ」
「あれにはこちらから関わらない方がいい。 一体何されるか分からん」
「そうだな、だけどよ流石に無知すぎやしなかったか? お金やゴブリンのことなんて村人でも知っていることだ。なぜあんなことを聞くんだと思ったぜ」
「それは俺も思った。 もしかしたら俺達が知らない世界から来たのかもしれないな。 まあ、冗談はよしといて正直な話分からねぇ、だが奴は恐ろしく強い」
「仕方がない、奴には召喚士としての才能があり選ばれた人間なんだから。 俺達が敵うはずないんだよ」
もし、この会話をゼフが聞いていたならこの者達の命は無かっただろう。ゼフは才能があるわけでも選ばれたわけでも無い。努力に努力を重ね圧倒的な強さを求めたが、周りの評価は普通だった。
運がなく、生まれる世界が悪かった。そういうしかなかった。
「よし、俺はそろそろ行くかな」
「 どこ行くんだ?」
そう問うと男は渋々こう答えた
「こんなことはあんま言いたく無いけどよ、俺はこの街を出る。 あんな危険な奴がいる街は流石にごめんだぜ。 ここはいいとこだけどよすまねぇな。 悪いことは言わねえから、あんたもこの街から出たほうがいいぜ」
「そうか、忠告ありがとな。だが、俺はここに残らしてもらうぜ」
「そうか、それじゃあな」
「ああ、生きていたらまた会おう。 その時は酒をおごらしてもらうぜ」
そう言うと男は笑みを浮かべ組合を出て行った。
「おそらく2割くらいは出て行くだろう。 決めるのは早い方がいいぜ」
その数はあの惨劇を見ていた冒険者が街を出る数である。残りは冒険者をやめるのが大半だろう。
(あくまで予想だがな、案外もっと多いかもな。できればもっと長く居たかったな……)
そう思うと男は机に置かれた酒を一気に飲みほした。