一撃
カイモンの死体を斬り裂き大量の血を浴びてしまった翔太は構わずゼフに斬りかかる。しかし、それは操蟲に簡単に弾かれてしまう。
「仲間以外を捨てることで覚悟はレンとやった時よりも強いかもしれないが、実力がその程度なら守るものも守れないな」
「そんなにベラベラと喋ってて余裕だな? それにお前から攻撃が来ていない。 どうした? かかってこいよ」
「かかってこいだと? それは、まず1撃入れてから言うべきだな」
「お前もしかしてビビってるのか?」
「なんだと?」
ゼフは翔太の煽りからだんだんとイラついてくる。しかし、ゼフは攻めてこない。それを見て翔太は確信する。
(ゼフは自分から攻めるのをやけに嫌っている。 その理由は一体なんだ?)
翔太は頭を回転させ、考える。しかし、答えが中々出てこない。
「仕方ない、お前がそれを望むのなら攻めてやろう」
ゼフはゆっくりと歩いてくる。翔太は一旦考えることをやめて防御の体勢に入る。ゼフは4、5歩みを進めたところで立ち止まる。
(どこからでも来い。 俺は仲間を失いたくない。 たとえ相手がどんな強大なやつでも決して屈しない)
翔太はゼフの背中でウネウネと動いている操蟲を警戒する。
次の瞬間、ゼフの背中から新たな操蟲が出てきて、翔太に攻撃をしてくる。翔太は少し驚いたが、軽くそれを躱す。
「避けるか…… それならこれはどうだ」
そう言うと新たな操蟲が更に2体ゼフの腰から出てくると、翔太を襲う。その攻撃は1体は避けることに成功する。しかし、もう1体は避けることができず、剣で防ぐことになってしまった。防ぐことには成功したが、操蟲の力は強くその場から少しずつ後ずさるように押されて行く。
(なんだこの力は…… まずいこのままじゃ……)
翔太は力一杯押し返そうとするがビクともしない。地面には踏ん張っているからか2つの小さな溝ができている。そんな状況の中、目の前にいる蟲使いは口を開く。
「頑張ってるところ悪いが、これで終わりだ」
ゼフは避けられた操蟲を自分のところに戻と、腰からは更に2体の操蟲が出し、全部で6体となる。それぞれが意思を持っているからかウネウネと触手のように動いている。
(俺は終わりなのか……ここで誰も守れず、俺は死ぬのか……)
翔太は攻防を続けている操蟲の力が更に強くなるのを感じる。
「さあ、追撃の一手を始めようか」
ゼフはそう言うと5体の操蟲が翔太に攻撃をしようと見据えてくる。そして、一気に飛び出し槍のようにこちらに向かってくる。
(俺は死なない。 いや、まだ死ねないんだ)
翔太は剣を手放し横に転がる。辛うじて避けることに成功する。後ろを向くと操蟲は壁まで伸びており、ぶつかった壁にめり込んでいた。
(助かった…… 奇跡的に避けられた)
翔太は安堵する。しかし、すぐに立ち上がりゼフを見据える。
「避けたか、いい判断だ。 お前は俺が元いた世界でも少しはやれるんじゃないか?」
「はぁ…… はぁ…… 元の世界だと? まさか、お前……」
「この際だから言うが、俺はお前らと同じ異世界転移者だ」
「異世界転移者⁉︎」
翔太は驚きを隠せなかった。
なんたって目の前にいる人間は自分と同じ異世界転移者と言うのだからだ。ゼフは翔太が驚いてる間に操蟲達をゆっくりと引き戻す。
「そうだ、まあお前らがいた世界とは比にならないレベル戦いに染まった世界だ。 俺も何回戦ったかわからないがな」
「お前の召喚士としての規格外の強さはそういうことか」
「そうだ、話はこれぐらいにして続きをやろうか。 剣を取れ」
「何を企んでる」
ゼフが再び剣を取るように指示したことによって何か企んでるのではないかと考えるのは自然だろう。
「何も企んでないさ。 ただ、俺は楽しみたいだけだ」
「そうかよ」
翔太は剣を取るように動く。無事に剣を取ることに成功すると構える。
「さあ、始めようか」
翔太は警戒するゼフに近づくのは難しいと感じていた。だが、今のゼフは無警戒である。さらに、召喚士は本体に1撃でも与えることができれば勝機が見出せると考えていた。
(1撃だ、1撃入れるだけでいい)
翔太は心にそう決め、剣を握る手に力を入れる。
「お前は仲間を守りたい一心で戦ってるみたいだが、なぜそこまで仲間にこだわる」
「当たり前だろ、それが人間というものだ」
「そうか…… では、こういうのはどうだ? 俺が今から歩夢と真里亞を攻撃する。 それでお前はどういう行動に出る」
「何を言って……」
操蟲は翔太が全て言う前に歩夢に向かって飛び出す。それに続いて翔太が飛び出すが、追いつけない。
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
しかし、無残にもその願いは届かない。操蟲は歩夢を貫く。
返り血が真里亞にかかる。
「歩夢…… どうして……」
それを倒れながら見ていた真里亞が呻き声を上げながらもがく。真里亞は歩夢が殺されたことにより精神が崩壊していく。
「反応が薄いな。 もっと面白い反応をしてくれると思ったんだがな」
「クソやろうが!!!」
翔太は何も考えず、怒りに任せてゼフに突っ込んでいく。
「怒りで我を忘れたか。 所詮は勇者か」
ゼフは操蟲で翔太を攻撃する。翔太はそれを受け流すが、そのまま膝をついてしまう。
「最後の力を振り絞ったか。 だが、これで終わりだな」
翔太は無念に駆られる。
(俺に力があれば、歩夢を守れた。 力があれば、真里亞を守れる。 力があれば、仲間を守り続けることができる。 なのに、どうして俺はこんなに弱いんだ……)
――力が欲しいかい?――
どこからともなく声が聞こえる。
(ああ、欲しい)
――どうして欲しいんだい?――
(仲間を守るためだ)
――その為なら何を犠牲にするんだい?――
(全てだ! 俺の体も命も全て!)
――君の心意気はわかった、君に最強の力を授けるよ――
翔太は自分の体に力がみなぎるのを感じる。ゼフはこちらに歩いてきてるようだ。翔太はゆっくりと立ち上がる。
「まだ立つか。 だが、今度こそ本当に終わりだ」
「ああ、そうだな」
翔太は剣を鞘にしまい、腰を低くする。
「何をしようと言うんだ。 お前にできることはもうない」
「剣技・居合い」
そう言うと翔太はとてつもないスピードでゼフに迫り鞘から剣を抜く。それに、ゼフは反応できず胴体を2つに斬られるだけだった。




