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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
狂った街
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死なない恐怖

それは夢だったのではないか。歩夢がそんなことを胸に抱いて3日が経った。学園では相変わらず厳しい特訓を行なわれている。勇者はあの日から圭太以外は目が覚めた。


(何も変わらないのはいいことかもしれないけど、私は強くなってゼフ先生のようになれば、何も失わなくて済む)


歩夢はいつもより集中して特訓に励む。カイモンとデニーも最近は目に見えるほど上達しているのがわかる。それは、とても喜ばしいことであったが、何故か歩夢の心は何かに囚われているようなそんな感じがしていた。


「今日は終わりだ」


ゼフの終了の声がかかる。それと同時に3人が尻餅をつく。


「今日なんか…… きつくないですか?」


カイモンがゼフに問う。


「今日は少しばかりハードだ。 知ってると思うが1週間後に1回目の対抗戦が行われる」


「それのために上げているというわけですか?」


「そうだデニー、それに今日は誰が出るか決めなければならないから少し残ってくれ」


「わかりました」


カイモンがみんなを代表して答える。そして、3人は急いで用意をしてゼフの前に行くと座る。


「では、誰が出るかということだが俺が勝手に決めさせてもらった」


「でも、それじゃあ……」


デニーがゼフのやり方に反論する。その際に横目で歩夢を見ている。


「カイモンも反対か?」


「当たり前です。 この際だからはっきり言いますが、僕らは凡人です。 対抗戦にはより強い人が選ばれるというのが毎年の鉄則です。 これに基づけば歩夢が出るのは必然なのです」


「そんなことないよ…… みんなだって十分強いよ」


「歩夢は知らないと思うけど、勇者と呼ばれる人は普通の人よりも多く能力を持ってるから1番強くなるのは当たり前なんだよ」


「でも…… 私は公平に決めたい…… こんなことで仲を悪くしたくない」


歩夢の思いも伝わったのかカイモンとデニーも黙る。


「歩夢は出ない。 というか出さない」


「「「え?」」」


3人の声がハモる。


「お前らは聞かされていないから知らないと思うが今回は学園長から勇者を出してはいけないことになっている」


「そうなんですね」


「ああ、そうだ。 だから、今回出るのはデニーお前だ」


「え、ぼく?」


「ああ、そうだ」


「おめでとう、デニー」


歩夢は素直に賞賛を送る。


「ありがとう歩夢」


「絶対に勝てよ…… それに次は僕が出る」


カイモンは悔しそうに応援する。


「うん、ありがとうカイモン」


それぞれが別々の思いを抱き話し合う。


「今日はこれで終わりだ。 明日からはもっと厳しくするから覚悟しとけよ」


「はい!」


デニーは自分が選ばれると思ってなかったのか元気よく声をあげる。そして、解散した後は生徒達は仲良く話し合いながら出て行く。そんな光景を見てゼフは1人不気味に笑っていた。



✳︎✳︎✳︎



ゼフはやることを終えるといつもならシルヴィアの待つ宿に真っ先に帰るが、今日は違う。ゼフが向かったのはスライエルがいた酒場のようなところだった。


(あれから毎日のように来てるがここは飽きないな)


階段をゆっくり降り、扉を開ける。そこはガランとしており真ん中に椅子に手足縛られた人間が1人と近くに50cmほどの蜘蛛のような蟲がいた。


「大人しくしていたかレン」


「きょ、今日もやるのかい?」


「そうだ、簡単には死なないから安心しろ」


レンはそれを聞き疲れた顔色がさらにひどくなる。そして、もがき始める。


「頼む、頼むからやめてくれ…… 殺してくれ……」


レンはすでに限界だった。


「いい表情だ。 今日も楽しめそうだな」


ゼフは楽しそうに鼻歌を歌いながら準備に取り掛かる。


「いやだ! もう僕は死にたくない。 やめてくれ、頼む! もう、無理だ!」


「では、始めるぞ。 行け、レギニオン」


ゼフがそう言うとレギニオンがレンの体をよじ登っていく。

そして、穴という穴から中に入り始めた。


「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


レンは叫び助けを呼ぶが、目の前にはその光景を見て喜ぶ悪魔しかいなかった。そして、数分後糸が切れたように動かなくなる。


「ようやく1回目か。 出番だ、蘇生蟲」


蜘蛛のような蟲の体光り輝く。この蟲の名前は蘇生蟲といい、目に見えてる範囲で死んでいる生き物を1分以内なら無限に生き返らずことができるという素晴らしい能力を持った蟲である。レンはゆっくり目が醒める。


「いやだ…… いやだ…… いやだ……」


レンはカチカチ歯を鳴らし怯える。


「続きだ、レギニオン」


体内にいるレギニオン達が再び動きだす。


「いやだぁぁぁぁぁ! たのむ! 殺してくれ!」


ゼフはレンの髪を掴む。


「やっぱりお前のような精神が強い人間が1番楽しめる。 普通のやつならとっくに喋ることすら難しいぞ。 さあ、お前がいつ動かなくなるのか楽しみだ」


「いやだ……」


レンは恐怖のあまり涙が溢れてくる。この人間の皮を被った化け物には何を言っても意味ないと。そして、本日2回目のレンの意識が途絶えた。









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