最高の時
ゼフは部屋に入るとそこには歩夢以外の勇者が全員床に倒れており、奥には巨大な水晶のようなもがある。その近くにレンがこちらを嘲笑うかのように見ていた。
「来るとは思ったけど、少し遅かったね」
「遅いだと? そんなことはない。 勇者達全員が生きてるからな」
「そうかそうか。 それでこれからどうするつもりだい?」
「そうだな、お前は少しやりすぎた。 次は俺達が相手になろう」
「たとえ強くても、召喚士である君がこの場所で戦えると思ってるの?」
ゼフはため息をつく。この世界に来て何回聞いたであろうセリフである。
「どいつもこいつも召喚士をバカにして…… 」
「そんなに嫌なら僕に分からせてよ。 召喚士の強さというものを」
「ああ、いいだろう。 だが、その前にこっち来い」
ゼフは振り返り手招きをする。レンはゼフが被っていて気がつかなかったが2人の人間が姿を現わす。それは歩夢とケインだった。
「大丈夫みんな!」
部屋の中を見た歩夢は驚き叫ぶ。何故なら全員が倒れ動けない状態だったからだ。
「うそ…… どうして……」
歩夢はレンを見据える。それは仲間を傷つけたという怒りからか、悪を許さないという信念からかわからないが、確実に今彼女は怒っていた。
「生きててよかったよ歩夢」
そんなことも知らずにレンは呑気に歩夢に話しかける。
「どうして…… 私は許さない。 あなたのような人を」
「別にそう思って貰って構わないけどけど、案外悪は近くにいるんじゃないかな」
レンはそれを言うとゼフの方を見る。
「歩夢、ケインを連れて翔太と真里亞を部屋の端に寄っていろ」
「わかりました、ケイン行くよ」
「お、おう」
そう言うと2人は倒れている勇者に駆け寄る。
「それにしても、よく歩夢達を守りながらここに来れたね」
「ククク、雑魚を配置しても意味ない。 それに、歩夢達は連れてくるつもりはなかった。 一緒に来たのは偶々だ」
「偶々ね……」
レンとゼフは睨み合う。
「さて、お前の足元の圭太を返して貰おうか」
「それはできない相談だな。 返して欲しかったから力づくでやるといい」
「そうか、手加減はしないぞ」
ゼフはゆっくり歩みを進める。手には何も持っていない。レンはそれが不気味に感じた。
(どうして魔物を召喚しない? 召喚しないメリットはあるのか?)
今までゼフにいろんな者を当ててきたが、確定的な戦闘情報を手に入れることはできていなかった。だから、レンは闘技場の情報を頼りに戦うことになっていた。
「どうした? かかってこないのか?」
(何がしたいんだこいつは……)
レンはゼフの言葉で更に困惑する。
「かかってこないなら、こちらからやらせて貰うぞ」
そう言うとゼフの足元に魔法陣が現れる。それは一瞬で割れ人の手の半分くらいのゴキブリのような蟲が現れた。
「行け、レギニオン」
ゼフが命令すると、レギニオンはレンに飛びかかる。その動きはあまりにも遅い。
(遅い…… 一体何がしたいんだ)
レンは軽く剣を振るとレギニオンは真っ二つになり、絶命する。
「これで終わりかい?」
レンはゼフに問う。
「ああ、終わりだ」
レンは背後に何か気配を感じた。すぐに前転し、避ける。立ち上がり元いた場所を見ると、アイアンGが直立不動の姿勢で立っていた。
「なるほど、今までのやつらはこれにやられたってわけか。 それに、さっきの召喚魔法を使うことでバレにくくするということか」
「今までの奴らとは違うな。 付け加えるならお前はこれで圭太から離れたというわけだ」
「そうかそうか。 僕が気づかなかったレベルだからこの魔物も相当強いだろうね……」
レンはゼフを見据える。そして、次の瞬間にはゼフの目の前にまで詰める。
(残念だよゼフ。 君の誤算は僕の速さが今までの奴らの比ではないということさ)
レンはゼフの横腹付近に狙いを定めて剣を振るう。
(これで終わりだゼフ)
これは圧倒的に強さを持つレンからすればここから負けることなど考えられなかった。だが、レンの想定していなかったことは相手がこの世界のモノではなかったことだった。キィンと鉄を叩いたような音が響く。
「どういうことなんだ……」
レンの剣は弾かれその勢いで尻餅をついてしまっていた。
「知らないことがあるとそれは弱点になる」
ゼフが静かに呟く。
「何を言ってるんだ?」
「お前はアイアンGの能力を知らないからそうなるんだ。 アイアンGの能力は一定範囲内にいるとすべての攻撃を身代わりになるという能力だ。 その間はさっきのように俺への攻撃は効かないということだ」
「へぇ、そうかよ」
レンはゆっくりと立ち上がる。そして、アイアンG詰め寄り、斬りかかる。しかし、何度攻撃しようともさっきと同じ感触が伝わってくる。
「なるほどな、俺は勝てないというわけか」
レンにとって全力を出して斬れなかったものはなかった。
剣だって最高峰の素材を使用している。だが、アイアンGにはその傷1つ付いていなかった。
「これでわかったか?」
「ああ、わかったよ。 これはたしかに魔王が言っていた通り勝てないわ」
「やはり、お前が通じていたか。 なぜ、俺のことを知っていて学園長などに話さなかった」
「そんなことをすれば僕が魔族に通じていることがバレる。 そうなれば、楽しいこともやりたいこともできなくなるじゃないか」
「そういうことか。 だが、結果は結果だ。 諦めろ」
「そうだな、僕は勝てないな」
「僕はだと?」
レンがそう言った瞬間部屋にある巨大な魔晶石のようなものが激しく光りだす。レンは不気味に微笑む。
「仕方ない、少し早いけど僕が全てを終わらせてやるよ」
こうして、レンにとって完全とまではいかないが計画が次の段階に進んだのだった。




