救世主
剣が折られた翔太は失意に溺れる。基本的に剣士は剣がなくなれば戦うことはできない。もちろんそれは絶対というわけではない。今は剣を持った状態でも勝てなかった相手が目の前にいるので、何をやっても無理だと感じていた。
(ここまで…… ここまで差があるのか……)
翔太はレンとの実力の差を感じる。
(見えなかった…… こいつはやろうと思えば最初から……)
戦いは翔太の負けで終わった。だが、翔太にはもっと大事なことがあると感じており、今できる最大限のことを行動に移す。
「相手との力の差をしっかりと認識しないとこういうことになるってわかったかい?」
「ああ、確かにそうだな。 武器をなくした剣士は案山子も同然だ。 だけど、俺には命を賭けて守らなければならないものがある」
「真里亞と圭太のことかい? そうか…… 面白いね」
レンは不気味な笑みを浮かべる。翔太はそれに危険を察知してレンと真里亞の間に入るようにして塞ぐ。
「どうしたんだい? そんな慌てて」
「ふざけるなよ。 お前に圭太と真里亞は殺させない」
「流石にわかるか…… でも、君達はどうせここから逃げれないんだから意味ないよ」
「黙れ、俺は俺のできることをやるだけだ」
そう言うと翔太は深く息を吸う。
「真里亞! ここは俺が時間を稼ぐ! なんとしても
逃げろ!」
「いやよ! 翔太! わたし…… わたし……」
「わがまま言うな!」
「翔太…… でも……」
「俺も後で追いつく。 それまで逃げ続けろ」
「あははははは、 君達面白いね。 逃げる? 無理に決まってるだろ?」
この部屋は閉ざされ、来た道もレンによって塞がれている。
仮にレンが塞いだ地下への階段を開けようとしても、女である真里亞が男であるレンですら苦労したものを持ち上げることはできない。
(いや、まだだ。 考えろ、奴はどうやってここから出る? おそらく奴も綺麗にハマったものを持ち上げることは骨が折れるはず。 だったら他に通路があってもおかしくない)
翔太は今までのレンの行動を思い出すが、わからない。
(こんな時に圭太が正常な状態なら良かったんだが……)
「圭太があんな状態じゃなければと思ってるよね?」
「⁉︎」
「そんな驚くようなことじゃないよ。 こういう時圭太は邪魔だと思ったからね」
翔太は圭太のあの状態は流石におかしいと感じ始める。
「君には縁がないと思うけど、魔法というのはねちょっとしたショックでも再起不能になるほどの絶望状態にすることができるものがあるんだよ」
「まさか…… お前……」
「残念だけど、もう圭太は助からないよ」
「お前は…… どこまで…… クズ野郎なんだ」
翔太はもう我慢の限界だった。まだ魔法で治る可能性もあると信じており、拳を強く握りしめる
「ふざけないで!」
真里亞が立ち上がり叫ぶ。
「どうしてそんなことができるの? 短い間だったけど、仲間だったじゃない」
「仲間か…… そんなものに価値を見出してるのか。 くだらないな……」
「くだらない? くだらなくないわ。 私は仲間に何度救われたかわからない。 あなたにはそれがわからないの?」
「仲間などいたところで最後は裏切る。 そんなことをされるなら作らないほうがマシだ」
「そんなこと……」
「あったから言ってるんだ。 お前らが考えてるほどこの世界は甘くない。 そうだ、圭太をこちらに渡したらここから逃がしてやってもいいぞ」
「話はそれで終わりか? お前とはもう話すことはない」
翔太はレンを鋭く睨み付ける。
「そうか、残念だ」
レンはゆっくり歩みを進める。翔太は拳を振りかぶるが、避けられ腹に蹴りを入れられる。翔太はそのまま壁の方まで飛ばされてしまう。
「ガハッ」
それは今まで感じたことのない痛みだった。痛みのせいか立つことも話すことができない。
「お前はそこで寝てろ」
レンは真里亞の方へと歩みを進める。
「動かないで! 動いたら撃つわ!」
真里亞はレンに対して弓を構える。その手は恐怖からか震えている。
「怖いか? 安心しろお前の攻撃はたとえゼロ距離だとしても当たらないから。 さあ、そこを退くんだ」
「嫌よ! 私は仲間を見捨てるくらいなら自分が死んだほうがマシよ!」
翔太はその言葉を聞き立ち上がろうとする。だが、立ち上がることができない。
(俺は…… 俺は守れないのか…… どうして……どうして俺はこんなにも……弱いんだ)
真里亞が矢を放つ。しかし、レンはそれを軽く避ける。真里亞はは次の矢を装填しようとするが、その間にレンに詰められてしまう。
「君達はこの限られた場所で戦った時点で前衛の職の者しか有利に戦えないことはわかってるだろ? だったら唯一の剣士である翔太が負けた時点でわかるよね?」
レンは剣を大きく振り上げる。
「いや…… いや……」
真里亞は恐怖からか動くことができない。
「望み通り仲間のために死ね」
「や…… め…… ろ………」
翔太が必死に訴えるもレンの剣は大きく振りかぶられた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「やめろ!」
その剣は真里亞を切り裂くことはなく、ギリギリの距離で剣を止めていた。真里亞は気絶しその場所に倒れこむ。
「え……?」
「君達は生きたままじゃないと使えないから殺したらダメなんだよね」
そう言いレンは圭太を軽く持ち上げる。圭太は既に廃人のようになっており、身動き1つ取らない
「やめろ」
翔太は小さな声で呟く。それに反応したのか、レンは翔太の近くで歩みを止める。
「よくその程度で僕に勝てると思ったね? 仲間を守れると思ったね? 君は弱い、その程度では何も守れないよ」
レンはそう言うと再び歩みを進める。翔太は真実を言われ自分を責めていた。もう、抵抗することはない。
(さて、これで揃ったかな。 後少しなんだ。 僕の願いが叶うのは)
レンは魔晶石のような物付近に圭太を下ろす。
「これで、この街ともおさらばだ。 僕が全てを変えるのだから」
レンは喜びを表すように笑う。最後の最後に予想外のことが多く起こったが、特に問題はなかった。レンが予想もしてないということと言えば、バレることではない負けることである。すると、タイミングを見計ったかのように鉄の扉の1つが大きく音を立てる。
「やっぱり、来るか。 それもそれでいいけどね」
鉄の扉は少しずつ歪んでくいく。そして、ミシミシという音を立てて外れ、誰かがゆっくりとこちらに歩いてくる。
「久しぶりだな、レン」
「君こそ元気だったかい? ゼフ」
ゼフはゆっくりと入ってくると、状況を確認する。翔太にとってたとえそれが危険な相手だったとしても今は救世主か何かと勘違いしてしまうほど、彼にとって救いの一手だった。




