間違い
魔晶石と思われるものが置いてある部屋は広く、パーティを行った部屋よりも少し狭いぐらいある。扉は鉄のようなものでできており、硬く閉じている。更にはレンが階段の入り口を閉めたことにより、勇者達は逃げることができなくなっていた。
「 何を言ってるんですか? レンさん」
圭太は戸惑いながらも問いかける。
「圭太、君はもう少し物分かりがいい男だと思っていたが、違ったのかい?」
もちろん圭太は分かっている。レンは勇者達の敵であるということを。しかし、簡単には認められてない。
「 僕は間違っていたというのか? そんなはずは……」
「圭太、大丈夫?」
「ここは俺が相手する。 少し休んでろ」
翔太はレンから目を離さないで警戒してる間、真里亞が混乱してる圭太を部屋の隅に連れて行く。
「翔太だったかな? 何か聞きたいことがあるなら答える
けど?」
「なぜ、圭太はお前の本性に気づけなかった?」
「なんだそんなことか。 それは、君達の元の世界が原因
だね」
「元の世界だと?」
翔太はその言葉に驚く。勇者達は誰1人としてレンに元の世界の話をしたことはない。しかし、レンの口ぶりからその世界のことを知っているようだった。
「そういえば、君達が何人目の勇者か知ってるかい?」
「何人目だと……」
翔太を含め勇者達は自分達が初めての召喚された勇者だと思い込んでいた。だから、それを聞くことはなかった。
「やっぱり知らないみたいだね。 翔太、君はね425回目の勇者召喚で1075人目の勇者なんだよ」
「1075人だと……」
「そうだよ、知らなかっただろう? 思い込んでただろう?」
「たしかに思い込んでたが、それが圭太がお前の本性を見分けなかったのと、どう関係があるんだ」
「翔太、君は圭太が信用している人物だから、悪い人物ではない。 信用できる仲間だ。 そう思い込んだんじゃないか?」
「たしかに思い込んだ……」
翔太はそれを聞いて、恐怖を覚える。元の世界では、疑うことを知らない翔太は圭太の言葉を簡単に信じてしまった。1度信じてしまえば、そこから再び疑うことは難しい。 それが、レンのような人物なら尚更だ。
「君達の世界は少し平和すぎなんだ。 人を疑うことを知らなさすぎる。 それに、不安だっただろ? 訳も分からないまま転移してきた場所が狂ったように皇帝を肯定する人々たちに」
「まさか…… お前がすべての元凶なのか……」
「そうだよ、圭太もまさか自分と同じ意見言う安全と思われる人物が最も関わってはいけない人物とは思わないだろう?」
レンがいつもどおりの優しい笑みを浮かべる。だが、その笑みは今の翔太にとっては悪魔の笑みにしか見えない。
「圭太が信用するのもわかっていたのか?」
「遅かれ早かれこの街の状態に気づく者が出ることはわかっていた。 そして、皇帝が元凶であると気づくことも。 後は不安なその心を癒すようにしていけば、信用は得られるというわけだ」
「もし、気づかなかった場合はどうするつもりだったんだ?」
「この程度にも気づかない奴は別の方法を取るつもりだったさ。 有能で助かったよ」
翔太は1つ重要なことを思い出す。それは、地下に残っている者達とトイレに行ったまま帰ってこなかったグレイヴとアリア、そして歩夢のことである。翔太は恐る恐る口を開く。
「レン、まさか…… 地下で残ったダリ達やトイレに行ったまま帰ってこなかったグレイヴやアリアや集合できなかった歩夢達は……」
「歩夢は知らないけど、他の者達は君が思っているとおりだよ」
「まさか…… 本当に……」
「殺したよ」
その言葉は翔太にとって冷酷で残酷なものだった。そもそも、ダリがいついなくなったのか分からなかったが、特に気にしていなかった。それが、このような結果を招いたと自分を責める。
「どうして…… どうして…… 俺は気づかなかったんだ!」
「魔晶石」
「え?」
「魔晶石のせいだと言ったら?」
「なん…… だと……」
「疑っているのかい? 僕は君達に嘘は1回しかついてないから安心してよ」
レンはその1回以外は真実を言っている。だから、誰も疑うことはない。それ故にタチが悪い。
「歩夢は…… 知らないと言ったな? あのメッセージはどういう意味だ?」
「ああ、あれか。 あれは単に仲間に襲撃の合図を送っただけだよ。 ダリへのメッセージもだいたい同じさ。 できれば僕がやりたかったけど、残念だよ」
「この…… クソ野郎が!」
「でも、1つ気がかりなのはどうして結界維持施設に護衛する者がいなかったということだけかな。 まあ、これが成功すれば気にすることではないけどね」
「真里亞!」
「⁉︎」
真里亞は翔太のあまりの声量に驚く。
「翔太は頼む。 このクズ野郎は俺がやる」
翔太は手に剣をとる。その目つきは今にも襲い掛かりそうなほど鋭いものである。
「わかったわ。 こっちは任しなさい。 無理すんじゃない
わよ……」
「ああ、任しとけ!」
「別れの挨拶は終わったかい? 聞くが、僕に勝てると思ってるのかい?」
レンも腰から剣を抜き構える。翔太はレンのその問いには答えない。
「無視か…… 悲しいな。 さっきまで話してたじゃないかい。 でも、1人で戦うのは賢明な判断だ。 もし全員が一緒に戦っていた場合君の戦闘力は落ちていただろうからね」
その言葉を言った直後、翔太は飛び出す。その姿勢は低い。レンの足元付近から剣を下から上に流すように斬りかかる。
それを、レンは軽く避け、受け流す。そうして、戦いの火蓋は切って落とされた。




