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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
狂った街
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狂気の彼方

この施設に配属されている護衛者は基本、対魔物のエキスパートである。魔族などは皇都隊という者達が基本相手にする。だが、稀に護衛者や皇都隊にも人間を殺したことがあり、その快感を覚えた人の皮を被った化け物が存在するのだ。


「もっとゆっくり歩いてくれよ」


アーノルドはナラに小声で話しかける。


「今は私の仲間の安否が大切なの。 黙ってついて来て」


ナラはそう言いながら歩みを進む。そして、探知魔法を使い辺りにいる生きた生物の反応を調べる。結果は自分とアーノルド以外の反応はなかった。


「それは探知魔法か?」


「そうよ」


「やっぱりか…… その魔法はあんまり使わない方がいいぞ」


「なんで? こうやって進まないと危険だと思うけど」


「魔力を温存するためだ。 そんな頻繁に使っていたら、いざという時に使えんからな」


ナラはそれを聞き、一理あると納得する。だが、使わないで進むとどこに何がいるかわからない可能性と歩夢とケインを見つけ出すのが難しいと判断した。


「それは出来ない相談。 私は仲間を一刻も早く探さなければならないのだから」


「仲間か……」


「そういえば、あなたは怯えてる様子もないのにどうして逃げて、あんなところにいたの?」


「簡単なことだ。 俺はお前が見たのと同じ化け物に襲われ逃げた。 その時仲間が死んでいく叫びを聞いた。 だから、あの場所で俺は己の覚悟を決めていた」


それを聞いたナラは幻覚である可能性がなくなったと知り、恐怖が再びやってくるが態度には出さない。そして、ゆっくりと口を開く。


「……覚悟?」


「ああ、そうさ。 俺はあの化け物に挑むのは怖かったからな」


「あなたみたいな人でも覚悟を決めるのに時間がかかるのね」


「1ついいことを教えてやる。 人は見た目で判断しないほうがいい。 現に俺はすげぇ怖いし、あいつが出てきたら覚悟が揺らぐかもしれねぇ」


ナラはその話を一応頭に入れることにする。


「わかった、一応頭の隅に置いといてあげる」


「それは良かった、それでさっきの魔法のことなんだが……」


「曲げるつもりはないし、危険を冒すこともしない。 けど、あなたが危惧している魔力の枯渇は起きないわ。 私は魔力だけには自信があるから」


「そうかよ…… まあ、それなら信じるぜ」


アーノルドは若干心配な部分もあるが、その言葉を信用することにする。


「そういえばあなた、その腰のものは何?」


ナラはアーノルドの腰から出てる石のような黒い物体を指す。


「ん? ああ、これか。これは、緊急用のメッセージの魔法が入った1回限りの魔道具だ」


「え⁉︎ どうしてそれがあることを先に言わなかったの?」


ナラは声が少し興奮気味になる。


「そんなの決まってるだろ。 この魔道具に魔力を込めるがその時に出る魔力であの化け物が近づいてくる可能性があるからだ」


「そうなの?」


「ああ、そうだ。 どうにもあの化け物は魔力を感知して攻撃するみたいだからな」


「そう……」


ナラは助けが来ることを諦めることにする。だが、何かがおかしいと思った。どうして、アーノルドはあの化け物のことを詳しく知っているのか。


「……ねぇ、アーノルド」


「なんだ?」


「どうしてあなた、あの化け物が魔力を探知するって知ってるの?」


「どうしてか…… それは、知っていたからだ」


アーノルドは不気味な笑みを浮かべる。


「知っていた⁉︎」


ナラは自分がしたことの過ちにすぐに気づくが、遅かった。暗闇の中から足音が聞こえてくる。あんなことを言われたからか探知魔法を渋ってしまい、ここまで気づかなかった。


「タ……… タ…… タべ…………… タ……… タベ……… ル」


暗闇から現れたのはあの化け物だった。すぐに、逃げようとするが、アーノルドに羽交い締めにされてしまう。


「いや、やめて!アーノルド ! どうして!」


「ククク、どうしてだと? お前は馬鹿か? こっちのほうが安全だからに決まってるだからだろ」


「どういうこと! いや! 離して!」


その間にも化け物はゆっくりとこちらに近づいてくる。ナラは暴れて抜け出そうとするが、ビクともしない。それもそうである、アーノルドは見た目が筋肉で包まれたと言ってもいい程の体である。それに対して、ナラは鍛えているにしてもアーノルドに圧倒的に劣る。絶対に力では勝てないのだ。


「残念だったな。 それよりも、あの方はどこにいるんだ?」


アーノルドは辺りを見渡すがその人物を見つけることができない。


「ウ……… ウ………… ウマソ……… ソ………… ウ」


化け物は言葉を発し、お腹と顔にある口をパクパクさせながら近づく。


「いないなら、しょうがないか。 とりあえずやることはやったから死ぬことはないだろうな」


「いや…… いや……」


ナラはもう助かることもないと思い、力を入れることはない。その顔は涙で濡れている。


「早くやってくださいよ。 デスGさん」


「ウ……… ウマ…… ソ………… マ…… ソ」


デスGは手についている鋭い鎌のようなものを上に上げる。ここで、流石のアーノルドもおかしいことに気づく。このままだとナラと一緒にアーノルドも鎌で貫いてしまうではないかと。


「そんなに振りかぶったら、俺も死ぬんじゃ……」


デスGはそれに答えるように口を開く。


「ニ……… ニン……… ゲン…………… ク…… ク…………ウ………… ゼ……… ン……… イン」


それを聞いたアーノルドは全てを理解し、恐怖を感る。 そして、羽交い締めをしているナラをその場に放り出し、一目散に逃げる。


「やばいやばいやばい、逃げなきゃ…… やられる」


そのまま、アーノルドは振り返ることなくもの凄いスピードで暗闇に消えていく。


「え…… いや……」


残されたナラは恐怖に怯える。体は震え、立つこともできない。静寂がしばらく続いた後、振り上げられた釜がナラに向かって振り下ろされる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


その叫びは施設中に響く。グシャリと肉が裂けて血飛沫が舞い散り、その叫びはやがて止み、元の静寂が戻ってくる。








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