死を顕現せし者
目の前には広がる光景に恐怖で叫び、混乱している。歩夢達はその場で立ち尽くすことしかできない。そんな中、ケインが恐怖のあまり尻餅をつく。
「う、嘘だろ……」
「い、いや…… 助けて……」
ナラは恐怖からかその場でうずくまり恐怖を言葉にし、震えている。
(どうしてこの場所にこんなに死体があるの?)
しかし、そんな2人とは違い歩夢はすぐに落ち着きを取り戻し、この場所に死体がある理由を考え始めていた。すぐに落ち着けたのは、悪を絶対に倒すために失敗は許されないという強い思いが恐怖を上回ったからである。
(まずは、死体をしっかり見てみないと)
そう思いながら歩夢は、ズカズカと部屋に入って行く。歩夢自身、この場所は言葉に表現できないくらい怖い。だけど、2人が機能していない今、自分がなんとかしなければいけないと考えていた。
(近くに来たけど、見るに耐えないわね……)
少し目をそらしながら死体を見渡していると、皮鎧を着ている死体を見つけた。その皮鎧は、突入する前施設の周辺を徘徊していた者が着ていたものに酷似している。
(おそらく、この死体は施設を護っていた者達。 問題は、誰が殺したのか……)
もう一度死体を見ると、あることに気づく。それは死体には損傷などがあるものの腐っていなかった。まるで、数分前に殺されたかのような……。 それは、この状況なら誰もが思いつく考え。そして、歩夢は背筋が凍るような感じに襲われる。
「もしも…… 数分前に殺された者達だったら、まだこの施設に護衛の者達を殺した人がいる可能性がある……」
歩夢は小声でそう言うと、すぐに振り向き部屋の中にいるナラに駆け寄る。
「ナラさん! 立って!」
「な……なに?」
「ここは危ないから、早く出よ」
「え、どういうこと……」
ナラはふらふらになりながらも立ち上がり部屋の惨状を見ないようにして、部屋を出る。部屋を出ると、ケインが口から吐瀉物を吐き出していた。
「ケイン、大丈夫?」
「歩夢、ナラ。 俺少しきついわ……」
「少し休憩するけど、2人共これだけ聞いて。 恐らくこの施設にはさっきの部屋の惨状を作り出した奴がいる。 だから、一刻も早くここから出るつもりよ」
「ま、まじかよ……」
ナラはそれを聞き再び屈み込み震えだす。
「私、もういや…… どうして……」
「ナラ、大丈夫か?」
歩夢にそう言われたナラは涙を見せながら、引きつった笑顔を見せていた。
「わたし、もう無理。 あれは人間のできることじゃない」
あの部屋の死体は、ほぼ全て皮が剥がされており、中には殆ど原型を保っていない死体も転がっていた。ナラはそれを平然とやってのける人物が、まだこの施設に居ることに絶望していた。
「歩夢、ごめんなさい…… わたし、私は強さだけで決めていると思っていたけど、違った。 あなたのこういう時の心の強さを圭太は見抜いてたのね……」
「そのことは、もう気にしてないから。 今はゆっくり落ち着いて」
「ありがと…… ありがとう歩夢」
ナラはその言葉を聞くとその場に泣き崩れる。
「はは、まさかこんなことになるなんてな……」
「無理もないわ、誰も予想はできないことだもの」
「そうだな…… まぁ、なんだすまなかったな」
「さっきナラにも言ったけど別に気にしてないから大丈夫」
「そうか…… でも俺が気にするから何かやらして欲しい」
「そう…… それなら、ここから生きて出る。 今はそれに努めて」
ケインは驚く。まさか、そんなことを言うとは思わなかったからである。そして、人差し指で鼻を掻く。
「ああ、そうだな」
ケインはそう言いながら立ち上がる。
「俺はもう大丈夫だから、ナラを慰めてやってくれ」
「わかった、ありがとう」
歩夢はケインが言った通りにナラの傍に付き、慰める。その間、ケインとヘヴィードラゴンで警戒に当たっていたが、特に何かがこちらに来てる様子はなかった。
「ありがと、大分楽になった」
「よかった。 けど、無理しちゃダメだよ」
「うん、わかってる。 それじゃあ行きましょう」
「うん、わかった。 ケイン、行こ」
「了解、扉の向こうには何もいないのを確認してるから大丈夫だ」
「わかった、ありがとう」
そう言うと歩夢達はゆっくり入ってきた扉に近づく。だが、途中でナラがその歩みを止める。その顔は何かに怯えているかのように真っ青であった。
「どうしたのナラ?」
歩夢がそう問うが返事はない。
「う…… 嘘、どうして……」
あるのはこの上ない絶望である。なぜ、再びそのようなことが起こったのか?それは、目の前に佇む化け物を見てしまったからである。その見た目はフンコロガシを二足歩行にした見た目であり、その顎は人の2倍ほど開き鋭い牙が並んでいる。手は鎌状の形態をしており、腹には大きな2つ目の口があり、鋭い牙をチラつかせながら開閉している。
「歩夢、ケイン 逃げて! そこから離れて!」
ナラは危険を知らせるために大声で2人に知らせる。
「どうしたの?」
「どうしたんだナラ」
ここが暗くて見えないと言っても、すぐそこにいるので普通はわかるはずである。なのに、2人は気づいてないようだった。
「ケ………… ケ…………」
すると、怪物は何かを喋ろうとしている。ナラはそれに不気味さを覚え後ずさる。
「とにかく、2人もこっちきて!」
その尋常じゃない焦りから何を察し、自分達には見えない何かいると思い、ナラの方に急いで近づく。
「タ……… タス……… タス……… タスケテ………」
それはナラが言っていた言葉である。それを聞き、さらに恐怖が増長される。この生物は知性があると……
「2人共聞こえないの……?」
「何も聞こえないぞ」
ケインのその言葉にさらに絶望する。2人にはこの化け物が見えてないし、声も聞こえない。それがさらに恐怖を増長させる。
「ウ……… ウ……… ウ……… ウマ…… ソ……… ニン…………… ゲン」
2人には、見えていないから実質1人の状況で怪物から人間を喰う様な発言が出てしまえば、あの部屋の人間達のことを思い出してしまうだろう。
「どうしたの? 何が見えるの?」
「め、目の前に……」
それを言い切る前に目の前の怪物は鎌をチラつかせながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。その歩きは、怪物の見た目をより一層不気味に見せた。
「いや、来ないで…… いや!」
ナラは近づいてくる怪物に恐怖を感じ、来た扉とは別の扉にすごい勢いで向かう。
「「ナラ!」」
2人は名前を呼んで引き止めようとしたが、既に扉を開けて出て行ってしまっていた。歩夢とケインはナラの後を追いかけるように出て行く。化け物は決して遅くないスピードで奇怪な言葉を発しながらナラの後を追いかけていくのだった。




