強者
男達3人はゼフの前に立ち止まると、こちらを見て不気味な笑顔を向けてくる。
「何の用だ? まさか何もないって言うんじゃないだろうな?」
「ヘッヘッヘ新入り。 ちらっと聞こえたがお前さん職業召喚士らしいな」
まず初めに一番大柄な男が口を開いた。
「そうだぜ、新入り。 召喚士が冒険者になるなんて難しいだろう。 だから俺たちが稽古つけてやるよ」
次に二番目に体が大きな男が話し、小柄な男は笑いながら頷くだけである。
「それで、断った場合どうなるんだ?」
「まぁ、それはそれで痛い目を見ることになるが、B級冒険者の俺たちの話断ることはないよな?」
(洗礼か、やはりと言うべきか解析魔法が通る。この程度でB級冒険者か。 探知魔法、防御魔法、念のために隠蔽魔法を使ったが何もしてこないか。 まぁ、冒険者になった最初の戦闘にしては物足りないが仕方ないだろう)
ゼフはため息をつきながら口を開く。
「来いガシガシ」
ゼフがそう言うと、3つの小さな魔法陣が現れ割れる。すると、先程魔法陣があった場所にノミをそのまま大きくしたような50cmほどの蟲が牙をチラつかせながら足元に3体現れた。
「「「キシキシキシキシ」」」
ガシガシは牙を擦り合わせて3人の男を威嚇する。だが、男達の表情は余裕そのもので未だ危機感すら覚えていないようだった。
「そうか、それは断るっていうことか。 仕方ねぇ、何の魔物かしらねぇが、召喚士の使う魔物なんて大したことねぇだろ。 やるぞ」
1番大柄な男が命令すると、ニヤつきながら剣を構える 。他の2人も斧と短剣を構えていた。それを見ていた周りの冒険者は楽しそうに歓声を上げながら見ているようだった。
「観客は多い方がいいが、これから起こるのは戦いではないから残念に思うだろうな」
「謝るなら最後だぞ?」
「雑魚はお膳立てがうまいな」
「お前らこいつをボコボコにして一生動けない体にするぞ」
「もう戯言は飽きた。 行けガシガシ」
ゼフが命令すると、今まで我慢していたものが解き放たれたかのようにすごい跳躍力で飛びかかり男達の別々の場所を鋭い牙で噛みつこうとする。男3人は避けることも、反応すらできずにそのままガシガシの牙が食い込んだ。
「ぎゃあああああああああ!!!」
悲鳴が組合に響く。先程まで元気にしていた周りの冒険者も異常事態に全員が全員黙り込んでしまった。
「やめろ! この糞蟲が! 俺の腕を離しやがれ!」
「がぁぁぁぁぁぁ!、肩がぁぁぁぁぁぁ!」
男達はそれぞれ別々の箇所をガシガシに噛まれており、大量の血が吹き出していた。ある者は腕を、あるものは肩を。そして、ある者は首を噛まれて息絶えていた。
(予想通りガシガシの動きに反応すらできないか。この程度でB級なら俺の召喚するガシガシを殺すことはできる奴はこの中にはいないな。 なんたって簡単に召喚できる蟲の中で一番殺傷力が高いからな。 それに俺が召喚することによって、通常よりも桁違いに強い)
周りを見ると観客は黙りこみ、身動き1つできずにいるようだ。受付嬢もただ傍観しているだけで何もしない。どうやらこれほどの騒ぎを起こしてもギルドは関与しないようだ。3人の男達に目をやると、もがき苦しんでいる。
血があらゆるところに飛散し、もはや虫の息である。そして、ゼフはそんなもがき苦しむ男達を見てつい笑みがこぼれる。
「どうした? B級冒険者も大したことないな」
ゼフがそう投げかけるが、返事はない。どうやら、既に3人とも息絶えてしまっているようだった。
「死者への手向けだ。 死体は綺麗に残さないようにしてやる」
周りの冒険者はあまりの出来事に頭が追いついてないようだった。ゼフは冒険者達の表情を1人1人見ながら口を開く。
「お前らもやるか?」
そう言うと、冒険者達は頭を振って、次々とその集まりから解散していく。結局彼らは何も言えずただ見ているだけだった。
「ビートルウォリア来い」
ゼフがそう口にすると入り口から新たな蟲の化け物が入ってきた。それを見た冒険者や受付嬢は顔の色が青くなる。
「この人間共を喰え。 喰い終わったらそこで待機していろ」
そう言うと、ガシガシ達とビートルウォリア3人の冒険者を食べ始めた。その光景は恐ろしく、見ていられないものだった。そして、早速沢山の人々に気づかれる形で殺してしまったことを後悔するが、これほどの恐怖を植え付けておけば大丈夫だと思い掲示板の方へ向かって行った。
✳︎✳︎✳︎
「あの男死んだな」
今冒険者になったばかりの男がこの組合で最も悪名高いと言われているビリーズ3兄弟に絡まれていた。ビリーズ3兄弟に絡まれた者達は少なからず動ける体になって帰ってことで有名であった。
だから、他の冒険者もおいそれと口が出せなかった。
「まぁ、俺たちはただあいつらが機嫌を損なわないないために盛り上げる役をするだけだ」
それを1人の冒険者は小声で言った。すると、新しく冒険者になった男は魔物を召喚していた。どうやら召喚士のようだ。
(なんだあの魔物は?)
「何の魔物かわかるか?」
他の冒険者に聞いてみるが顔を横に振られる。
「いや分からん、ただ蟲の魔物みたいだがな……」
「そうか……」
(少しだけ気になるな)
だが次の瞬間その魔物はビリーズ3兄弟に飛びかかっていた。その動きは全く見えなかった。
「なっ⁉︎」
周りの冒険者も同じことを思ったのか驚いた表情をしている。そして、先程まで元気だった奴らが急に静かになった。その理由は簡単であった。
(まさか死んでる? 嘘だろ?)
ビリーズ3兄弟の1人が首を噛まれ、大量の血を流しながら死んでいることを確認したからである。さらに、他の2人も苦痛に顔を歪ませ蟲の魔物を必死に剥がそうとしている。しかし、剥がすことができず、他の2人も時間差で息絶えていく。ふと、新入りの顔を見ると薄ら笑いを浮かべている。
(なぜだこいつ…… なぜ今のを見て笑ってやがる)
冒険者は次は自分かもしれないそう思うと体が震えてきた。あの光景を見て動ける奴はいなかった。
「お前らもやるか?」
そう聞こえると冒険者は生存本能が働いたのか、その言葉を察し頭を横に振り次々と解散していく。そして、男が何か口にすると、蟲の化け物が入り口が入ってきて、恐怖以外の何も思い浮かばなかった。
(あれは絶対に逆らってはいけない。もし生きてここから出たらすぐに別の街へ移動しよう)
それを心に誓い、ただ男が出ていくのを端で震えながら待つしかできなかった。