表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
狂った街
59/114

悪い空気

作戦当日、勇者達はこれまで感じたことのない緊張に襲われていた。勇者達は元々日本に住んでいたので経験することのないことなので、無理もないと言えばそれまでだが……


「確かこっちであってるはずよね」


歩夢は小声で仲間に囁く。


「ああ、大丈夫だ」


今答えた青年の名前はケイン。真里亞のクラスから引き抜いた非常に優秀な弓士である。そして、隣黙っている少女とも思えるほど小柄の女性はナラと言い、圭太のクラスの高成績の魔道士である。


「今日は警備の数が少ないらしいけど、それでも多い

わね……」


「だけど、もう少し近づいたほうがいいと思う」


ナラのその言葉に歩夢は軽く頷く。


「ええ、わかってるわ。 少しここで待機してあの2人がここからいなくなったら移動するわ」


歩夢は結界維持施設から少し離れているところで話している2人の男を路地裏から見えないように指を指し、それが護衛であることを伝える。


「おう」


「わかった」


歩夢は2人が納得したのを確認すると、すぐに2人の男に視線をやる。警戒は怠らない。誰か1人でも失敗すれば魔晶石の破壊は叶わない。そんな事態は避けなければならない。


「私、やっぱり納得しません」


不意に後ろから言葉がかけられる。振り向くと、ナラが不満そうな表情でこちらを見ていた。


「どうしたの?」


歩夢がそう問うと、ナラは口を開く。


「私、歩夢がリーダーであることにやっぱり納得できません。 状況判断力や決断力などは私と歩夢では同じくらいだと思うの。 だから、最後に決めるのは強さな筈なのに、どうして召喚士である歩夢がリーダーなの?」


歩夢はこの言葉でこの世界の召喚士という存在について、思い出す。召喚士は所詮他の職業のサポートであり、決して戦闘で役に立つことはないとされている。さらに、この学園の召喚士以外の職業の生徒は自分がより強いと信じており、召喚士は負け組と認識している。


(昔の私だったら、何を言われても我慢していたかもしれないけど、今は違う!)


歩夢はナラの方を向き口を開く。


「ナラさん、その理由を教えてあげるわ。 それはね、私があなたより強いからよ」


「な⁉︎」


まさか、自分より強いと言われると思わず、ナラは驚く。


「別にこのチームが嫌なら別行動してもいいけど、圭太にどう言うつもり?」


「そ、それは…… でも、貴方が私より強いなんて納得できない」


「さっきも言った通り嫌なら別行動すればいい。 今はそんなことよりもやることがあるんじゃない?」


「はい、そこまで」


言いあってると、ケインが間に入る。


「ケインは邪魔よ。 この女は私よりも強いと言った。 それは、納得できない」


「黙れ、ナラ」


「え⁉︎」


「はっきり言うと俺も納得してない。 だけど、今は仮初めでも協力しなければならないんだ」


それを言われるとナラは不服そうな顔をしながらも頭を縦に振る。


「わかった、今は納得しておく。 でも、今だけだから」


「すまないな、歩夢。 君のクラスはどうか知らないけどサポート組にはわからないプライドというものがあるんだ。そこは納得してほしい」


ケインは素直に謝ってるつもりだろうが、サポート組という言葉に引っかかる。だけど、これ以上言い争っている訳にもいかず、その言葉を飲み込む。


「納得するけど、サポート組っていうのはすぐに勘違いだとわかると思うわ」


「ああ、期待してるよ」


それが嘘だというのはすぐにわかった。ケインやナラ以外でもこの街の人達は全員がこのような態度を取るだろう。それは、仕方がないことである。なぜなら、それがこの世界の召喚士なのであるから。


(私は悪である皇帝を討てるなら、自分が傷つくぐらい構わない。 逆にそれぐらいしないと叶わない望みなのだから)


歩夢は再び覚悟を決める。その時男2人が離れ始めた。それを見た歩夢は、ケインとナラにそのことを指示して更に施設の近くの建物に移動することができ、そこでレンからのメッセージが来るのを待機しながら待つのだった。



✳︎✳︎✳︎



あれから1時間経たないぐらい経っただろう。結界維持施設のすぐ近くの建物に歩夢達は待機していた。チームの雰囲気は相変わらずが悪い。このままでは敵にバレると思っていたが、そこまでの心配はいらないようだった。


(そろそろ、メッセージが来てもいい頃なんだけどな……)


歩夢はもしかすると、失敗したのではと不安になる。だが、次の瞬間メッセージの魔法が繋がる感覚に襲われる。


(こちらレン。 準備が整ったところからメッセージを送ってくれ)


歩夢はそのメッセージを聞くと、腰の鞄から手のひらサイズの球型の水晶玉を取り出す。これには、メッセージの魔法を入れており、各チームのリーダーが使うことができるのだ。魔力を軽くこめると少しだけ光りだす。


「こちら歩夢。 準備完了です」


それから数十秒後再び、メッセージが繋がる感覚に襲わ

れる。歩夢はメッセージは一度に何人にでも同時に送ることができるが、その度に返信を待ったりするのを不便に感じていた。


(こちらレン。 それじゃあ、これから始める。 各場所の人数が減ったと思った段階で各々の判断で突入してくれ)


「了解です」


歩夢はすぐにメッセージを送ると、視線を結界維持施設にやる。


「では、作戦開始」


そうして、勇者達の魔晶石破壊作戦は始まった。それぞれの思いを胸に抱いて……


(これが私の悪を倒す第1歩なんだ。 もう2度とアヴローラのようなことは起こさせない。 悪には慈悲はない)


歩夢がそう考えていると、結界維持施設から少しずつだが、人数が減っていってるのがわかった。これもレンが暴れて人を殺しまくってるおかげである。口では簡単に言えるが、これを聞いた時最初は戸惑った。だけど、必要なことと分かれば、勇者達は全員納得した。そして、勇者達にとって初めて人を自らの手で殺すことになることも理解していた。


「ケイン、ナラ。 そろそろ突入する。 準備はいい?」


それを聞いた二人は息を飲む。召喚士を見下しているこの世界の人達でも、人を殺すことには慣れていない。それが不安として顔に出ているのである。そして、覚悟を決め口を開く。


「大丈夫だ」


「いつでもいい」


2人のその言葉を聞くと、歩夢は動き出す。


「それじゃあ、ついてきて」


そう言いながらバレないように行動を開始し始めたのだった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ