最悪の選択
次の日、召喚士のクラスではいつもどおり特訓を終え、各々が準備をして帰ろうとしていた。歩夢はそんな中ゼフに近づき話し始める。
「ゼフ先生1つお話いいですか?」
「どうした?」
それは、カイモンとデニーにも聞こえており、こちらをじっと見ている。
「どうしても相談したいことが…… できれば2人きりで……」
それを聞いたゼフはすぐに理解し、聞いていた2人に指示をする。
「カイモンとデニーはもう帰れ」
「わかりました」
「さようなら、ゼフ先生」
2人も何かを察したのかゼフの言うことを聞き、直ぐに出て行く。
「さて、相談とは何かな?」
「実は…… 勇者達のことで相談したいんです」
「勇者?」
「はい、今私達はある計画をしてるんです」
「計画か…… その計画とはなんだ?」
歩夢はそれを聞かれると少しずつ口を開く。
「この街を救う計画です」
「この街を救うか.…… 難しいことだな……」
「はい、それはみんな承知の上です。 それで…… もしかすると勇者達の中に裏切ってる人がいるかもしれないということです」
「裏切り者か…… なぜそのように思ったんだ?」
「別に思っているわけじゃないです。 ただ、単純にその可能性も捨てきれないってだけで……」
歩夢自身は圭太が裏切っているとは到底思えない。それと同じで、ゼフもここまで自分達に尽くしてくれる人はいないと思い信用していた。だから、街中にあるゼフの魔力のことが本当だとしても、それは街の人を守るための監視だと考えているのだ。
「その考えは間違ってないぞ。 もっとも疑われないのは長い間近くにいた、友と呼ばれる信頼できる存在だからな。 だから、裏切っていた場合1番気づかないだろうからな」
「それで、私達は魔晶石を破壊することで街の人達の洗脳を解こうと考えてるんです」
「街の様子はおかしいと思っていたが、そういうことか」
「はい、その魔晶石を破壊する作戦なんですが、みんなには内緒で参加して欲しいんです」
ゼフは少し考えて口を開く。
「そうか、参加してやりたいがそうすると歩夢がかなり危険な状況になるが大丈夫か?」
「危険?」
歩夢はその意味がわからなかった。だから、素直に問う。
「そうだ、もしも裏切っている訳ではなかった場合、仲間達の信用は地に落ちる」
「それが危険なんですか?」
「そうだ、皇城に仲間がいなくなれば周りは敵だらけになるからな」
歩夢はそれを聞き納得する。
「それを含めて覚悟しています」
「いい覚悟だが、お前が良くても俺が困る。 だから、別の方法を提案させてもらう」
「別の方法ですか?」
「そうだ、この方法の場合仲間からの信用は落ちない。 何故なら俺が自分自身で情報を掴み、動いてるだけだからな」
「つまり、私は何も知らないというわけですか?」
ゼフは軽く縦に頷く。
「そうだ、近くには居れないがすぐに駆けつけることができ、そのような距離で勇者達に悟られないように参加できる。 この方法なら歩夢と俺のどちらにとっても悪くないと思わないか?」
歩夢は少し考え、納得すると顔を上げる。
「確かにそうですね。 その方法でお願いしていいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
歩夢はゼフが本来の形とは違ったものの、それよりもさらに良い形で引き受けてもらえたことに安堵する。
「それで、その作戦はいつやるんだ?」
「はい、確か昨日で5日だったんで…… 4日後ですね」
「わかった、その時に参加しよう。 それで、最後にいいか?」
「はい、何でしょう?」
「今まで、頑なに話そうとしなかったが、何故俺にこのことを話してくれたんだ?」
歩夢はどう話すか考える。
「最初はもちろん疑っていました。 圭太がゼフ先生は危険人物であり、絶対に仲間にしてはいけないと言ってたので…… ですが、時間が経つにつれそう思えなくなりました。 この人なら信じても大丈夫だと」
歩夢は今の気持ちを素直に告白する。今までの会話で何か引っかかるところがあっが、さほど大したことないと思い気にしてはいない。それよりも自分の判断を信じることにしたのだ。
「そうか、それだけ聞ければ十分だ。 後は俺に任せて自分にやれることだけやっておけ」
「はい、わかりました。今日はありがとうございます」
そう言い、扉付近に近寄ると振り向き軽く礼をして出て行久野だった。
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歩夢が出て行った後の静まった戦闘場でゼフは自らの失敗が歩夢にバレていないことを安堵していた。
(そんなまさかだったな。 警戒する必要もなかったな)
ゼフは不気味な笑みを浮かべる。
「やはり、召喚石の洗脳の力は便利だな」
今回、召喚石で洗脳したのは歩夢であり、内容はゼフに対しての疑いを無くさせるというものだった。ゼフの手持ちの中で精神干渉能力を持つソイックなどの蟲は、強引に干渉するので、もしかすると不自然に感じるかもしれない。
だが、洗脳などの魔法はそれを不自然と感じずに自然と認識するようになる。だからこそ、洗脳の魔法は便利であり、使用が難しいのである。
「それじゃあ準備に取り掛かるか」
そう言うとメッセージの上位互換の魔法のコネクトを発動させ、とある人物に繋ぐ。
「聞こえるか? グリンガム」
「うお! なんじゃゼフか」
「ああ、そうだ。 お前に頼みがあって魔法で繋いでる」
「そうなのか…… 別にいいんじゃが、その前にこの魔法はなんじゃ? わしはメッセージという魔法しか知らぬぞ」
グリンガムの言うメッセージという魔法は会話をすることができず、一方的に送ることしか出きないので、返信を待たなくてはならない。だから、グリンガムは会話ができるこの魔法に疑問を抱くのは普通のことなのだ。
「この魔法はコネクトという。 簡単に言えばメッセージの上位互換に当たる魔法だ」
「そういうことか…… 便利な魔法を持っておるの。 それで、頼みとはなんじゃ?」
「頼みとは簡単な話だ。 魔族達で軍を編成してほしい」
「軍か…… じゃが、ゼフが思っている程事は簡単ではないぞ」
「反乱が起きてるのか」
「やはり、わかっていたのか。 念のため反乱を起こした魔族の首謀者を捕まえてはいるが、次から次へと現れるから対処に困っておったところじゃ」
「そうか」
ゼフはその問題について最終手段を使うか考える。魔族の街の蟲達には魔族達を殺さないように命令していた。その理由としては、魔族の街は出来るだけ綺麗に保っておきたかったからである。魔族には興味がないが、ゼフもゼフの召喚する蟲達もあれほどの街を作ることはできない。だが、それもできればの話である。
「仕方がないが、グリンガム。 逆らう魔族は殺せ」
その言葉に魔法越しでもわかるグリンガムの緊張が
伝わる。
「それしかないのか……」
「そうだ、蟲達にも魔族を殺すことを解禁するように命令しておく」
「了解じゃ、その方法で魔族達を抑えて、軍を編成しておく。 人数はどれくらいにすればいいのじゃ?」
「そうだな、戦えるものは全員だ。 後はお前に任せる」
「了解じゃ」
「5日後ほどしたら、コネクトを使って繋げる。 それまでに編成しておけ」
グリンガムはそれは無茶だと思ったが、逆らわず従うことにした。
「了解じゃ」
それを聞いたゼフはコネクトを解除した。
(さて、まずは俺を殺そうとしたレンに最大限の絶望を与えながら殺してやろう)
ゼフはスライエルから得た情報を元に動き始める。その笑みは今までにないくらい喜びに満ち溢れたものだった。




