疑い
「今日はここまでだ」
ゼフがそう指示すると、生徒達はやってることをやめて座り込みため息をつく。
「今日も疲れたわね」
歩夢がそう言うとカイモンとデニーも頷きながら話し始める。
「僕は疲れたけど、まだ足りないな」
「今日はなんだか早く終わった気がしたけど気のせいかな?」
「今日は少し連絡があって早く終わらせてもらった」
「そういうことでしたか」
「とりあえず集まって座れ」
歩夢達はその指示に従いゼフの近くに集まり座る。
「さて、それじゃあ連絡を始めるが、もしも何か質問があるようならその度にするようにしろ」
「わかりました」
カイモンは答え、他の2人は頷く。
「連絡としては1つだが、最近よく起こってる爆発事件のことだ」
「爆発……」
歩夢はつい口から言葉が漏れる。
「なんだ歩夢?」
「いえ、なんでもないです」
歩夢はそう言いながら手を使い違うことを表現している。
「そうか、話は戻るが爆発事件に関してだが今のところ狙いも何もわかっていないみたいだが、俺の予想になるがこいつらはアヴローラを殺した奴らと同じだと推測できる」
「どうしてそう思うのですか?」
「カイモン、お前魔力痕っていうのを知ってるか?」
「はい、一応知っています。 魔法を使った時に残る魔力ですよね?」
「そうだ、そしてその魔力を詳しく調べれば誰がやったのかわかるというのも知ってるか?」
「知ってますけど、それは不可能に近いです」
「それはなぜだ?」
「今ある魔法ではどのような魔法を使ったまでかはわかりますが、誰が使ったのかはわからないからです」
ゼフはそれを聞きながら歩夢を見ると、怯えているようだった。しかも、ただの怯えではない、なにかを隠している怯え。
「普通はそうだ、だがなそれを簡単に見分ける能力があるんだよ」
「それはどんな能力ですか⁉︎」
カイモンは驚きつい叫んでしまう。
「それは魔力眼という能力だ」
「魔力眼ですか? それはいったいどういう能力なんですか?」
「魔力眼というのは魔力の種類を見分けることができる」
「種類?」
そこにデニーが口を挟む。
「そうだデニー、似てることがあっても人によって魔力はどこかが必ず違う。 だからこの能力を使えばアヴローラの家に残った魔力を調べればいいということだ」
それを聞いた生徒たちは完全に理解しているように見える。そんな中カイモンが口を開く。
「そういうことですか。 つまり、ゼフ先生がその能力を持っているということですか?」
「そうだ、正確には俺の蟲だがな」
「それで僕達はその犯人を探すというわけですか?」
「いや、それは危険すぎる。 ただ、このことをお前達に話しておきたかっただけだ」
「ゼフ先生はこの犯人を追うのですか?」
「そうだ、こいつらは俺の生徒に手を出したから容赦はしない」
「もしかして1人でですか?」
「ほかに魔力眼を使う協力者がいればよかったんだが、この能力を持つ奴はなかなかいないからな」
歩夢は考え込む。ここで、圭太の能力を出すべきかということを。しかし、圭太にゼフが悪ということを聞かされてるので下手に話すことができなかった。
(確定だな)
ゼフは歩夢にゼフが悪という情報を教えられていると確信する。数日前からゼフの能力や蟲達について聞いたりしていたので疑惑はあった。しかし、確定的なものはなかった。だが、アヴローラの仇を討ちに行くと言ったのに協力者として魔力眼が使える圭太を出さなかった。これが確定要素となった。
(圭太という勇者は何を企んでいるんだ? 魔力眼は使えば少量だが魔力痕を残し、何の魔法や能力かわかるということも本当に知らなかったのか? 罠か? それとも……)
そもそもゼフは見慣れぬ魔力痕を見たとき魔力眼を使ったこと以外何もわからなかった。だが、学園でたまたま圭太を見て、魔力の種類が同じだった時、もしかすると良からぬことを考えていると思いこうしてはじめに歩夢を調べたのだ。
「歩夢どうした? もしかして何か俺に隠しているのか?」
それを聞いた歩夢は一瞬体がビクッとなる。
(どうして私が何か隠しているのがわかったの?)
歩夢は考えるが出てこない。その間にゼフが再び言葉を放つ。
「どうしても言いたくなければ言わなくていい。 だが、後悔するまえに俺に相談しろ。 俺なら力になれる」
「大丈夫です…… もしも何かあれば言います」
歩夢は今作れる最高の笑顔を向ける。その笑顔には圭太の作戦がゼフにバレることを恐れたものだった。
「そうか、それならいい。 とりあえずは俺からの連絡は以上だ。 何か質問はあるか?」
「大丈夫です」
「カイモンと一緒です」
その問いにカイモンとデニーが答える。
「私も大丈夫です」
それに続き歩夢も答える。
「長くなったが今日はこれで終わりにする」
ゼフがそう言うと生徒達は立ち上がり扉に荷物を取り扉に向かって歩き始める。
「歩夢」
ゼフは出て行こうとしている歩夢を呼び止める
歩夢は振り向きゼフを見据える。
「なんでも信じすぎるなよ。 たとえ信頼できるものだとしてもだ」
「私なら大丈夫です。 ご忠告ありがとうございます」
そう言うとカイモン達に続き出て行く。
(さて、これで歩夢はたとえ真実だとしても疑うことになるだろうな。 だが、まだ俺の疑いを晴らすには程遠いな)
だが、ゼフには歩夢の疑いを払拭する方法をすでに持っていた。今のところ思い通りに行っていることを感じ笑みがこぼれてしまう。




