破滅への道
ゼフが娼婦の後に続いて入ると、そこには地下に続く階段があり、まるでこちらを混沌に誘うかのように先が見えない。
(階段か…… しかもかなり長いな)
だが、ゼフはそんなことを思うと、次にはこの場所なら人目につかないので最悪殺しても問題ないのではないかと考え始めていた。
「何故こんな場所に階段がある? それとこの先には何がある?」
ゼフが問うと娼婦は振り向き答える。
「この階段はスライエル様の裏稼業に使われる部屋に続いているわ。 階段がここにあるのは外部に漏れない為よ。 貴方だって嫌でしょ?」
「そうだな、確かによく考えられてるな」
ゼフが階段を少し下ると入ってきた扉の鍵が閉まる音が聞こえる。
(鍵を閉めて逃げれないようにするか。 徹底しているな)
ゼフは薄々感じていたがここは普通の人間がくるような場所ではない。ただ、ゼフは普通とは大きくかけ離れているからこそとてもわくわくしている。
(最近は雑魚をいたぶってなかったからな。 少しここでストレス発散でもしようか)
聞こえるのは階段を降りる娼婦とゼフの足音だけで他は何も聞こえない。しばらくすと、また扉が姿を現す。しかし、先程は木に対してその扉は鉄で作られている。
「ここがあなたの望むものがあるわ」
そう言い娼婦が扉を開ける。暗闇に光が差し込み眩しいので、目を閉じてしまう。 ようやく慣れ、ゆっくりと目を開くとそこは酒場だった。普通すぎてそれ以外の言葉は思い浮かばない。数えた所人数は大体50人はいるようだ。
(酒場か…… まさかこんな所でお目にかかるとは思わなかった。)
再び娼婦についてくるよう手で指示をされたのでゼフはついていく。その間に周りを見るが職業は違えど弱くはない、そこそこの実力者ばかりが酒を飲みながら話している。そいつらはこちらをチラチラと見ながら警戒している。
(今まであってきた中ではかなりレベルが高いな)
ゼフは感心しつつ、元の世界の癖で隠蔽魔法や阻害魔法などを無詠唱で100個程唱えたところで気づきやめる。未だに癖が治らないことを悩んではいるが別にこれが悪いわけではない。
(もう癖は別に直さなくていいな。 仕方ない、諦めよう)
ゼフがまだ元の世界の癖が直らないのを諦めると、娼婦は止まりこちらに向く。
「少しここで待っといてもらえる? 今からスライエル様に話してくるから」
「ああ、わかった」
そう言うと娼婦は酒場の奥の部屋に入っていく。周りの者達は依然としてこちらの警戒を怠っていないようだ。
(それにしてもどうやってこれほどの者達を集めたんだ?)
この者達は自分に比べれば雑魚だが、ここにいる者達は闘技場の奴らにすらひ匹敵するんじゃないかと思うほどの強さを秘めていると感じている。
(聖都の勇者まではいかないが、最低でもSランク冒険者の実力はありそうだな)
そうこう考えているうちに娼婦が身なりが綺麗な1人男を連れて戻ってくる。年齢は推定だが、40後半だろう。ゼフの目の前に立つと娼婦は口を開く。
「こちらがスライエル様です」
「私がスライエルという、君は?」
「俺はゼフという。 ここには学園長から教えてもらった」
「なるほど、あのジジイか。 それでゼフ君だったかな? ここには表で得ることができない情報。 本来出回ることがない武具などあるが、君は一体何を求めてここに来たのかね?」
そう言われるとゼフは一呼吸置いて口を開く。
「俺はここにある魔晶石を買いに来た」
ゼフがそう言うと、その場の空気が一瞬凍ったかのように思えた。
「そうか…… 君は魔晶石を買いに来たのかね。 だったらついてきたまえ」
ゼフは言われるがままにスライエルについていくと、カウンターの前で足を止める。
「そこに座りたまえ」
ゼフはそれに対し相槌を打ちカウンターの席に座る。スライエルは目の前に立ちニコニコしながら話し始める。
「さて、君は魔晶石を求めてここに来たというわけだが、はっきり言うと私は君を信用できないのだよ」
「最もの意見だな」
「魔晶石はとても貴重な上その効果は絶大だ。 もしもこれが公になれば暴動が起きるか可能性がある。 君はどこまで魔晶石のことを知っているのかね?」
「一応は全て知ってるよ。 食べれば全能力向上、武具や武器などに使えば効果が飛躍的に上がる。 そして、他の者を洗脳できるということも」
スライエルはそれに頷く。
「そこまでわかっているなら実際に見てもらったら早いだろう」
スライエルはカウンターの下から手ぐらいの大きさの水晶クラスターのような青白い鉱石を取り出した。
「これが魔晶石だ」
「なるほど、これが魔晶石という訳か」
ゼフは今まで魔晶石というものを見たことがなかった。それに、ゼフが聞いたことのない効果を持っていたため期待はしていたが……
(まさか魔晶石の正体が召喚石とは思いもしなかった……)
召喚石、それは召喚した魔物を封じることができ、魔力をこめることで解放することが可能な召喚士が使うアイテムである。
「まさか…… 召喚石にそんな能力があるとはな……」
「召喚石?」
「いや、気にしないでくれ。 こっちの話だ」
ゼフは驚きのあまりつい声が漏れる。そして、召喚石の能力に気づかなかったのも無理はない。元の世界では全てが役に立たないとされ、いつしかその能力は忘れ去られたからである。
「それで、魔晶石のことなんだが……」
「いや、すまないがもういい。 それにうまく隠しているか知らないがその手に持ってるものはなんだ?」
ゼフがそう言うとスライエルは召喚石を持っている別の手を掲げる。 それは見たことのある玉のような水晶だった。
「そうか、気づいていたか。 お前を魔晶石の洗脳する能力を使って洗脳しようとしたが、君には意味が無いようだね。 仕方ないから死んでくれないかい?」
「なるほど、俺がここに来ることを知っていたな? いや、来てもいいように準備をしていたというとこか。 洗脳もしようとするとは根っからの悪人だな」
「気づいても遅い。 ゼフ君、君は愚かだよ。 こんな嗅ぎ回る事をしなければよかったのに」
「始めたのはお前たちからだからな。 魔晶石に関しては本物だろうが、偽物だろうが、もう興味ない」
「状況がわかってないみたいだね。 興味がないんじゃ意味ないんだよ。 これを知っていることがダメなんだよ」
スライエルがそう言うと酒を飲んでいた男どもが各々の武器を持ち立ち上がる。
「なるほど、ここなら騒ぎにもならないし、逃げることもできないということか」
「わかってるじゃないか。それじゃあ大人しく首を差し出すかい?」
その言葉にゼフを除く者達が笑う。いつぶりだろうこんなにもバカにしてきた者達は。いつぶりだろうこんなにも清々しいほどのクズは。
「笑ってないでさっさとかかってきたらどうだ? 人間」
そう言うと1人の剣士の男がゼフに斬りかかったのであった。




