調べ
あの悲惨な事件が起こってから5日が経とうとしていた。歩夢は次の日からゼフに能力についてなどについて聞き、勉強すると言い聞き出すことに成功していた。
「今日はこれで終わりだ。 帰っていいぞ」
ゼフは生徒達にそう言うとぐったりしながら荷物をまとめて出て行く。そんな中歩夢だけは出て行かずにゼフに近づいてくる。
「さて歩夢、今日も何かあるのか?」
「はい」
「それで今日はどんなことについて教えて欲しいんだ?」
「今日はゼフ先生の召喚士としての能力について教えて欲しいです」
「わかった、できる限り話そう」
歩夢は4日間で魔法について聞けるとこまで聞いだが、蟲を使えばこの世界にある魔法なら大抵は使用可能ということを歩夢に教えていた。その時は非常に驚いたが、今はもうそれが普通だと自分に言い聞かせている。
「ありがとうございます。 まずは、一体どれくらいの種類の蟲を召喚できるんですか?」
「数か…… そうだな、俺が把握してる限り1000万というところだな」
「1000万ですか⁉︎」
歩夢は驚きのあまり声を上げてしまう。歩夢自身は召喚できても7種類が今のところ限界である。正直これまでもありえないことを聞き耐性はついたと思っていたが、甘かったようだ。
「驚くことじゃない。 召喚士という職を極めれば極めるほど召喚可能な種類は増えるからな。 この数ははっきり言って少ないからな」
「そうなんですか……」
歩夢は魔法ですらゼフが規格外の存在であり、それが召喚士の事となると想像もつかないということは分かっていたので、ある程度覚悟はしていたがそれでも頭が痛くなるほどである。
「それで他に何かあるのか?」
「はい、あります。 ゼフ先生が前に言っていた全てが終わるという蟲とは一体どういう蟲何ですか?」
「どういうか…… それは難しい質問だな……」
ゼフは困ったように頭を抱える。
「難しいですか?」
「そうだ、そもそもその蟲は1体じゃないからな」
「1体じゃない……」
歩夢は前に言っていた全てを終わらすことができる蟲は1体だけだと勘違いしていた。しかし、実際には複数召喚できるというのがわかり、好奇心と恐怖で支配される。
「次の授業までの時間的に1体しか話すことができないが、どうする?」
歩夢は少し考え口を開く。
「今日のところはその1体をお願いします」
「わかった、まず種族は終焉種の蟲だ」
「終焉種?」
「ああ、こいつらはそもそも存在するだけで全てに影響が出る。 強さははっきり言って俺が今まで見てきたどんな化け物でも勝てない相手だろうな」
「なるほど、それでその名前はなんて言うんですか?」
「名前はコア・クリムゾン。 能力は熱を操る」
「熱ですか? 炎とかじゃなくて?」
「ああ、こいつは熱気で生き物を殺すからな。 最高温度の上限はない。 範囲はこの星ぐらいなら余裕でいけるだろうな」
歩夢は平常を保ちながら聞いてるが、もしもこの蟲が放たれたと考えると恐ろしくて仕方がなかった。
「それを召喚したらゼフ先生自身も危ないんじゃないですか?」
「それは大丈夫だ、コア・クリムゾンは能力を皇都くらいの範囲まで抑えることができるし、 温度も500℃まで落とすことができるからな」
「そうなんですか。それで詠唱時間は一体どれくらいなんですか?」
「だいたい1日といったところだ」
「1日ですか…… わかりました」
歩夢はメモ帳に今行ったことを書き終えるとそれをバックにしまい、バックを肩にかける。
「今日はありがとうございました。 私はそろそろ授業なんで行きます」
「ああ、わかった。 気をつけろよ」
歩夢は扉の前で礼をするとそのまま戦闘場から出ていく。
「それにしてもまさか勇者に警戒されているとは思わなかったな」
ゼフは1人で呟き不気味な笑いを浮かべる。
「だが、俺の能力を知ったところで奴らはもう詰んでるんだからいいだろう」
ゼフはそう言いながら自分も帰る準備を始めるのだった。
✳︎✳︎✳︎
皇都の夜は長い。賭け事をして楽しむもの、食事や酒などで話しながら盛り上がるもの、娼館に入って夜を共にするものなど様々である。
「夜の街は初めてだが、なかなか賑わってるじゃないか」
ゼフが夜の街に出てきたのはあることをするためである。それは魔晶石を管理している者達のところへ尋ねることである。
(それにしても魔晶石に関しては徹底しているな。 まさか管理しているのが娼館の人間だとはな)
ゼフはここまで情報が出なかったので皇城に実物があると思っていた。だから、探知蟲を何匹か侵入させていたのだが、それらしき反応は見られなかったので不思議に思っていた。
(それのおかげでわざわざ学園長を寄生させなければならなくなったが、そこは俺の力不足だな)
沢山の人混みの中ゼフは目的の人物を見つける。それはロングヘアーの美しさが一際目立つ娼婦である。ゼフは近寄ると話しかける。
「すまないが、スライエルさんが営む店はここかな?」
「そうですよ」
「ゼフというものだが会うことはできるか?」
この娼婦にスライエルという名前を出し会うことができるか聞くと娼館とは別の場所に連れて行かれると予め学園長から聞いていた。
「あなたはそっちの客ね。 いいわ、ついてきて」
そう言うと娼婦は誰も寄り付かないような薄暗い道に入っていく。ゼフもそれに続いてついていく。
「そういえばあなた、誰からこのこと聞いたの?」
「この事は学園長から聞いた」
「ふーん、なるほど。 それだと一応安心ね」
しばらくすると、古い木の扉の前につ辿り着く。
「ここから先が貴方が欲しいものが手に入る場所よ」
そう言うとゆっくり娼婦は扉を開ける。
「しっかり私について来なさいよ」
「ああ、わかった」
ゼフは不気味にも静かについていくのだった。




