作戦
圭太は学園に入学する3日前危険であろう人物を予め3人に話していた。それが皇帝とゼフである。それを踏まえたうえで話を始める。
「これから言うことはかなり大事なことだからしっかり聞いて欲しい」
歩夢と翔太は無言で頷く。しかし、真里亞は何か疑問に思ったのか圭太に話しかけてくる。
「圭太、1ついいかしら?」
「いいよ、なんでも答えるよ」
「さっきの話から察するに皇帝のことは私達が学園に入学する前に推測できていたはずよ。それなのに皇帝とゼフは危険だから注意しろって言っただけで、どうしてもっとしっかり話してくれなかったの?」
「みんな本当ごめん。 僕が話さなかったのはバレると思ったからなんだ」
「バレる?」
「うん、今言ったことを入学前に話せば真里亞は大丈夫だったと思うけど、翔太と歩夢はいつもと違う行動や言動になると思ったんだ」
「でも、俺達言われたとしてもそういうことはなかったと思うけどな。 なぁ歩夢」
「うん、大丈夫だったと思うよ」
「いや、翔太や歩夢を信じていなかったわけじゃないよ。 2人のクラスは相手が悪い」
「相手?」
「ああ、そうだ。 翔太の剣士クラスにはこの城を守る剣士見習いが沢山いるし、歩夢の召喚士クラスにはゼフがいるからね」
「ゼフ先生ですか……」
歩夢はゼフの名前を呟く。今の段階で歩夢の中でゼフという人物をそこまで悪い人物とは思えなくなってきていた。
「俺の剣士クラスではそういう行動すらも皇帝の耳に入ってる可能性があると言うわけか……」
「そういうこと。2人とも理解してくれたかい?」
圭太が2人に問うと歩夢は答える。
「私はゼフ先生がそこまで悪い人物とは思えないんです。 寧ろ少しですが良い方に傾いていると思うんです」
「そうか…… これは言っておくべきだな。 実は僕は以前にも特別な能力の1つとして魔力を見ることができるって言ったよね」
「うん」
歩夢は返事し、残りの2人は無言で頷く。
「僕は魔力を見る以外にもその魔力が誰のものなのかわかるんだ」
「え⁉︎ それってかなりすごい能力なんじゃないの?」
真里亞は驚き叫ぶ。圭太は頷き、話を続ける。
「そうだよ、真里亞が思っている通りの能力だよ」
しかし、翔太と歩夢にはその能力の凄さがわからずポカーンとしている。
「なぁ、その能力の何がすごいんだ? たかだか相手の残りの魔力の量を見れるだけじゃないのか?」
「うんうん」
歩夢は翔太に同意するように頭を縦に振っている。
「2人共違うわよ。 確かにそれもあるかもしれないけどこの能力は残った魔力を見ることが出来るのが本来の使い方なのよ」
「残りの魔力?」
「そう、例えば魔法を何かしら使ったとした場合その場所に必ず魔力が残るのよ。 長くても5日だけどね」
「真里亞が言った通り、僕の能力は誰の魔力がわかる。 つまり、魔法を使うもので僕が誰の魔法かを割り出せないものはいないというわけなんだ」
歩夢はそれを聞いてとんでもない能力だと知り驚く。だが、それではゼフがなぜ危険な人物なのかわからなかった。
「圭太の能力はわかりました。 けれどなぜゼフ先生が危険なんですか?」
「歩夢1つ聞くが召喚士は魔物を召喚した後の行動はどうする?」
歩夢は圭太からの質問に少し考え口を開く。
「もし魔物を召喚し続けた場合維持魔力もかかりますし、何より街中を歩くとき邪魔になると思うので魔力を使って戻します」
「そう、普通はそうなんだ。 だけど、ゼフは魔物を戻していないんだ」
「え?」
歩夢は困惑する。何故ならゼフが召喚した魔物を戻すのは自分の目でたしかに見ていたからである。
「その反応からして魔物を戻すところを見ていたんだね」
「うん」
「ゼフは本当に抜かりがない。 ゼフは魔物を戻したんじゃないよ」
「じゃあ一体どうやってやったんですか?」
「それはほぼ確実に透明化の魔法を使っているだろうね。 現に街にはゼフの魔力を帯びた透明化を受けた蟲達がいろんなところで徘徊してるみたいだよ。」
「え? それは本当なんですか?」
「ああ、そうだよ。 それをやっているということはまだ具体的にはわからないけど良からぬことを考えているだろうね」
「でも、そんなことじゃまだわからないじゃないですか」
歩夢は信じたくなかった。あんなに悪を倒そうと誓った人が悪だと言うことを。
「そうだね、でも確証が持てたのは今日だね。 歩夢の友達のアヴローラの家に行ってみたんだけど、そこには明らかに魔法を行使した後魔力が残っていた。 それもゼフと一致する魔力がね」
「つまりゼフ先生は悪ということですか?」
「そういうことになるだろうね」
「わかりました……」
歩夢はそれ以上口を開かなかった。先程まで信じて特訓を共にしてきた人に裏切られるのはなんとも言えない気分だった。
「それにしても圭太の能力はすげぇな。 魔力の残りだけでなく蟲達の魔力まで分かるとはな」
「蟲達は多分維持魔力の関係で見えると思うんだ」
「へぇ〜そうなんだ。 私はてっきり透明化の魔法をかけてるから見えてると思ってたわ」
「それもあるかもしれないけどそのことは後にして、本題に入るけどもう他にはないね」
「ああ、大丈夫だ」
「大丈夫よ」
歩夢は頷いて圭太に示していた。
「オッケー、それじゃあまずは全体の作戦を伝えるよ。 まず、みんなにやってもらいたいのは仲間を探すことだよ」
「仲間を探す?」
「うん、そうだよ。 今はいないからまた次集まる時にでも紹介するけど信頼できる仲間を見つけておいたんだ。 その人が言うにはこの街はとある鉱石の力によって支配されているようなんだ」
「それは圭太がさっき話していた魔晶石ね」
圭太は真里亞の方を見ながら頷く。
「おそらくそれだろうね。 そして、それを壊すためには4つの結界維持施設という城にある魔晶石を守る結界を維持する施設があるんだけど、その施設はこの街の東西南北にあってそれを4つとも破壊したら結界が解けるらしい」
「4つの施設は離れている。 だから、仲間がいるというわけか」
「そういうこと、今はまだ決めていないけど少なくても5つのグループに分けなきゃいけない。 そのために仲間を集めるんだけどその役割を歩夢以外の3人でやろうと思う」
「え…… どうして…… 私は……」
歩夢は自分が役に立たないと思い泣きそうな声を出すが、グッとこらえる。
「歩夢心配しないで、歩夢には別のことをしておいて欲しいんだ」
「別のこと?」
「ああ、それはゼフの能力とかを調べて欲しいんだ」
「どうしてそんなことするの?」
「これは僕の予想でしかないけど恐らくこの作戦はゼフが鬼門になる可能性がある。 もしかしたらないかもしれないけど念には念をね」
歩夢は涙を拭き頷く。
「わかった、私やるわ」
「ありがとう、他の2人もそれで大丈夫かい?」
「大丈夫だ」
「ええ、大丈夫だけど一体どうやって仲間を見つけるつもり?この街には洗脳されてる人ばっかりなのよ」
「ああ、ほとんどいないと思う。 けど、一定数はいると思うんだ。 やり方としては趣味を聞く感じで殺し合い見るの好きって聞くといいと思うよ」
「え…… そんなの聞くのかよ」
「大丈夫だよ翔太。 ちなみに僕は実践したが成功したから安心していい。 それを聞いた時の反応で否定的なら仲間にする。 そして、肯定的なら少し話すだけにしたらいいんだ」
「ふーん、そんなことでいけるのね」
「殺し合いを見るのは僕達の世界で言うサッカーや野球を観るのと変わらないよう洗脳されてるみたいだしね」
「了解、それなら大丈夫よ」
「ありがとう、それじゃあ次集まるまでにやることは僕達は仲間集め、歩夢はゼフを調べる。 そして全員の課題として鍛錬を怠らないこと。わかったかい?」
全員それを聞いて頷く。
「それじゃあ次集まる場所は仲間を連れてこないでいいからこの部屋に集まることでいい?」
全員が頷くのを確認すると口を開く。
「それじゃあ解散」
そう言うとみんな各々好きなことを話しながら部屋を出ていく。しかし、圭太には1つ不安なことがあった。
(さて、結界維持施設を守る奴は強いって聞いているからそれだけ気がかりだな)
そう思うと圭太はベッドに入っていくのだった。




