冒険者
ゼフはあれからゆっくりと歩みを進め、王都の検問所に到着する。幸いにも人が並んでおらず、すぐに自分の番になった。しかし、衛兵に何か変なものを見る視線を向けられる。
「そこのお前! 止まれ!」
衛兵に大声で叫び、止める。ゼフがいた元の世界では衛兵という職業がなく、街にも自由に出入りすることができた。しかし、初めてだからかゼフはなぜ止められたかわからなかった。
(こんな職業もあるのか。 それで俺は何故止められたんだ?)
衛兵は近づいてくるとゆっくり口を開く。
「まずは名前を名乗ってもらおうか」
「俺の名はゼフという」
ゼフは衛兵の視線が横のビートルウォリアに行ってることから全てを察する。
「ではゼフ、その後ろにいる魔物はなんだ?」
「護衛だが? 何か問題でもあるのか?」
すると、もう一人の衛兵が叫び出した。
「何が護衛だ! ふざけるのもいい加減にしろ! 魔物は街に入る時原則禁止だ!」
ゼフは弱者は護衛をつけるとアリシアから聞いていた。だから、護衛をつけていた。しかし、ゼフはこの世界の召喚士やサモナーの扱いを知らなかったのがこのような事態を招いていた。
(何かやってしまったか?)
「はっきり言わしてもらうが、君を王都に入れることはできない。 君の職業が召喚士かサモナーなのはわかっている。その魔物をしまうか王都の外で待機させるなら入れてあげよう」
「そうか、なら面倒だしお前らも弱いみたいだから1番楽な方法を使わせてもらおう」
解析魔法などを使い、弱さを知ったゼフは命令する。すると、ビートルウォリアーは衛兵が気づく時間すら与えず同時に手刀で首を刈り取る。
「――デ・ヘル――」
隠蔽魔法を使うと衛兵たちの死体などの痕跡は綺麗さっぱり無くなる。ここまでにかかった時間は約6秒である。周りにはこの2人以外人がいなかったことは不幸中の幸いだったかもしれない
「さてと、行くか」
ゼフはそのまま気にせず街に進んでいく。街を歩いているとやはりというべきかビートルウォリアーに怯えて避ける人々や凝視する人々が多数いた。ここである程度はこの世界の魔物に対する認識がわかった。ゼフは足早に目的地に向かう。しばらくして目的地の冒険者組合に着くと建物の前で深く考える。
(やっぱり冒険者だな。 この世界の弱さだと俺はBランクなど余裕だろうな)
ゼフはここまで盗賊、王族、衛兵と殺していたが魔法を使い周りに人がいないことは確認したし、念のため痕跡は消してきた。それは、もしそれが原因で冒険者になれないという不安と自分よりも強い者がおり、追われる可能性があるからである。できれば我慢はしたくないが、これからはバレない範囲で人を殺そうと誓う。
ゼフは人間を殺すことは嫌いではないむしろ死は色々な感情の変化が見れて好きの部類に入からだ。だが、自分の蟲を殺すのはできるだけ避けたい。ただ、殺されたり能力を使うなら仕方がないと割り切っていた。
「さて、2回目の冒険の始まりだ」
そう言うと冒険者組合の扉を開ける。そこには殆どがならず者のような男達で埋め尽くされており、ニヤニヤしながらこちらを見ている。ビートルウォリアーは外に待機さているが、させない方が良かったかもしれない。ゼフは受付嬢の方へゆっくり歩いて近づいて行く。
「ようこそ冒険者組合へ。 今日は何の御用でしょうか?」
「冒険者になりたいのだが大丈夫か?」
「大丈夫でございます。 では、こちらの紙に記入をお願いします」
ゼフは羊皮紙を受け取ると、必要な年齢や名前や職業などを記入していき、書き終えたところで受付嬢に紙を渡した。
「ありがとうございます。 ご記入に間違いはありませんか?」
「ああ」
「あら?」
「どうした?」
「いえ、ゼフ様は随分と珍しい職業にお着きになっていると思いまして……」
そう言うと受付嬢は蔑むような目でゼフを見てきた。
「そんなに召喚士は珍しいか?」
「はい珍しいです。 まず冒険者になる人で着く人はいないと思われます。」
「なんだと……」
ゼフが元いた世界ではゼフ以外にも10人ほど見かけていた。そして何よりアリシアに職業を答えたが、何も言ってこなかったから普通の職業だと思っていた。だからゼフはこの世界では召喚士は不遇な職だと聞き驚く。
「ゼフ様、大丈夫で御座いますか?」
「ああ、大丈夫だ。 それより説明を頼む」
「わかりました、冒険者にはランクがEからSSであり、一定数の依頼をこなすことで上がっていきます。 ランクを示すには冒険者カードをお渡ししますが、そこに書かれていますのでそこをご確認ください」
(SSか、目指すならここだな)
「そして冒険者同士の争いに関しましてはギルドは関知しませんのでご了承お願いします」
「ああ、わかった」
「これで説明を終わらせていただきますが、他にわからないことはありますでしょうか?」
「いや、特にはない」
「それではこちらをどうぞ」
そう言うと受付嬢は冒険者カードをゼフに渡した。
(懐かしい、元の世界にいた時もこんな気持ちだったのかもな。 唯一違うのはこの世界では俺の相手になるやつが誰もいないかもしれないってことだけだな)
ガタッと音が聴こえたので振り向くと、ガタイの良い3人の男がこちらに向かってニヤニヤとしながら歩いてきた。