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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
狂った街
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それぞれ

次の日ゼフはここに来る途中アヴローラの屋敷が消えて無くなっているのを確認した後、戦闘場にやって来ていた。


(ククク、これで余計な奴がいなくなってやりやすくなった)


ゼフは生徒たちがこの事件をきっかけに彼女のことを考えるだろう。その時にある蟲が非常に効果的なのである。


「さて、そろそろ生徒達が来るはずだ。 一体どんな反応をするのか楽しみだ」


生徒達が昨日のことで来ないということはわかっていた。もちろんその理由もある。それは召喚士という職業は学園を卒業しないと活かすことができない職業であったからである。なので、どんなに嫌でも来なければならないというのが今の状況である。


(そろそろ鉱石の情報も手に入れるはずだ。 おそらくあいつが持ってるだろうな。 手に入れた後どうするかを考えとかないとな)


ゼフはどうすればいいかを考えていると、戦闘場の扉が開かれる。視線をそちらに向けると歩夢が来たらしくとぼとぼと中に入ってくる。


「こんにちは…… ゼフ先生」


「やっと来たか…… 次からはもっと早く来い」」


歩夢はゼフに近き、そのまま無言でゼフを見る。おそらく昨日のことが原因なのだろう。


「やはり嫌か?」


「え?」


「人を痛めつけたり、殺したりすることをだ」


歩夢は質問の意味を理解すると少し考える素振りをし答え始める。


「私は異世界から来たので価値観が違います。 ゼフ先生が言ってるようにもしかしたら正しいことなのかもしれません。 でも…… やっぱり今は無理としかお答えできないです……」


「そうか、たしかに最初は慣れないかもしれない。 だがな最後には俺に感謝するぐらいには役立ってると思うぞ」


「どうですかね……」


歩夢のゼフを疑う目はより一層強くなる気がした。そうこうしているとゼフデニーとカイモンも暗い顔をしながら入ってくる。


「どうしたの2人とも、何かあったの?」


歩夢が彼等に問うと、ゆっくりとカイモンが口を開く。


「やぁ歩夢…… 実はアヴローラのことで……」


「まだ来てないけどアヴローラがどうしたの?」


「彼女は亡くなったよ……」


「え?」


歩夢はあまりのことに理解が追いついていなかい。そんな彼女を見ながら、続けてデニーが話し出す。


「僕達が聞いた話ではアヴローラの屋敷が爆発して亡くなったて聞きました」


「爆発か……」


そこにゼフが考えるふりをしながら口を挟む。


「十中八九昨日の奴らだろな」


その言葉に歩夢を含む3人は返す言葉もない。自分を含めアヴローラのやったことは正しいことだと思っていたのだ。だが、その優しさによって助けてはいけない者達を助け、命を落としてしまった。


「止めるべきだったんでしょうか……」


カイモンはゼフにその行いが正しかったのかを問う。昨日までのカイモンであればゼフを悪と認識してそれ相応の対応をしただろう。しかし、こうなった以上誰が間違って、誰が正しいのかは一目瞭然である。


「そうだな、止めるべきだったな。 だが、前のお前達じゃ無理だったろうな。 それに、こうなる前に俺も止めるべきだった……」


「ク……クソッ! どうして彼女が亡くならなければならない! どうして!」


カイモンが悲痛な思いを叫ぶ。


「僕はゼフ先生が悪いとは思いません。 あの状況じゃあ止めるのは無理だったと思います。 でも、ゼフ先生はどうしてあんなことをしたんですか?」


デニーはゼフを励まし問う。そして、歩夢は昨日まで隣にいた友達を殺した奴らを憎んでいた。


(なぜ悲しくないのだろう…… なぜこんなにも怒りがこみ上げてるのだろう…… 止めれなかった自分が腹立たしい。 どうして彼女が死ななくてはいけなかったの)


怒りが高まる歩夢の隣でゼフは少し考え口を開く。


「すまないが、俺は帝都から来た冒険者だ。 だから、悪人はああいう扱いをするものだと思っていた。 だけど、それによってこういう状況を作ってしまった。 本当に申し訳ない」


ゼフは軽く頭を下げる。戸惑いながらもカイモンはそれを手で止めるように促す。そして、昨日ゼフがやっていたことは正しいかはわからないが、今の彼の態度を見て、その言葉を信じ、それ以上何も追求しなかった。


「私は友達が死んだと言うのに悲しいと言う気持ちになりません。 今は怒りがこみ上げてきます。 これは間違っているのでしょうか?」


唐突な歩夢の問いにゼフは笑いがこみ上げてくるのを抑えて答える。


「それは間違っていない。 大切なものを失った時感じる感情は人によって違うからな。 それにその感情を忘れないことだ」


3人ともゼフの話を聞き入っているのを確認し、続けて話し始める。


「酷なことを言うかもしれないが、死んだものは生き帰ってこない。 だが、死んだもののためにできることはある」


「できることですか?」


カイモンがそれを問うと、ゼフは力強く話す。


「ああ、そうだ。 この場合は悪を殺すことだ。 そのためには強くならなくてはいけない。 俺がその助けをしてやる。まずは12日後に控えてる新入生学園大会に勝つことが最低条件だ」


「わかりました、僕はアヴローラのために必ず勝ちます。そして、奴らを簡単に殺せるような最強の召喚士になって見せます」


「僕もなります!」


「私も少しずつ慣れていって悪を倒す召喚士になります」


「そうか、みんながやる気になってくれてよかった。 とりあえずアヴローラのことを学園長に報告してくる。 それまで自主練だ」


3人とも頷きそれぞれが魔物を召喚して自習練習に入る。ゼフは戦闘場を出ると、そのまま学園長室に向かって歩き始める。


(まさかここまでうまくいくとは思ってなかったな。 やはり止められなかったという罪の意識が働いたかもな。 これでこの街も少しは楽しめるな)


そう言いゼフは笑いながら歩き進める。カイモンは悔しさ、デニーは悲しみ、歩夢は怒りを持ちそれぞれの道を進み始めるのだった。








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