爆発
とある小さな屋敷、小さいといっても普通と比べればそこそこ大きい。そこはアヴローラの家であり、彼女自身召喚士の家系の貴族である。しかし、そうは言っても貴族の中でも最底辺だった。しかし。それでもアヴローラは豊かな生活をおくれていることを皇帝に感謝するのに十分だった。
「はぁ……今日はなんだか疲れたわ……」
学園から帰ってきたアヴローラは現在疲れた顔をしながら長い廊下を歩いていた。
「今年の先生はかなり優秀って聞いていたけど、あれじゃあね……」
不安からか独り言が続く。
「たとえ悪人だとしてもあそこまでやる必要はないわ。 私は間違っていない絶対に」
「それに人を殺す術を人を使って学ぶのは絶対にしてはいけないわ」
アヴローラの決意は変わらない。しかし、アヴローラ自身彼らがどれほどの悪人かを知らなかった。扉の前に着き開けるとそこにはベッドに横たわる者、床に座っている者など計11人ほどの男女が体を休めていた。
「貴方達、大丈夫かしら? 具合はどう?」
アヴローラがそう問うとリーダーらしき人物が立ち上がり口を開く。
「ありがとうございます。 アヴローラ様が救っていただいたおかげで傷が残る程度で済みました」
「そうなの…… よかったわ」
アヴローラはそれを聞くと笑みを向ける。
「1ついいでしょうか?」
すると、リーダーらしき人物が口を開く。
「何かしら?」
「アヴローラ様は私達が悪人であることを知っておられるはずなのにどうして助けてくれたのですか?」
アヴローラは少し考え口を開く。
「そうね…… 許せなかったからかしら」
「許せなかった?」
「たとえ貴方達が悪人だとしてもあんなことをしていいはずないもの。 それに貴方達も思ってたよりもいい人みたいだし」
「そういうことですか…… ではゼフという人物も助けるのですか?」
「ゼフ先生か…… できればあの様な事をやめさせて普通の人に戻してあげたいけど、難しいでしょうね……」
アヴローラはゼフがああなっているのは長年冒険者を務めていたからと考えている。だからこそ彼の人間性を治せると思っている。
「そうですか…… 頑張ってください」
アヴローラはその言葉を素直に受け取って笑顔を向ける。
「ええ、頑張るわ」
すると先程まで横たわっていた部下らしき人物が近づいてくる。
「リーダーこれ以上はまずいっすよ。 俺達がどうなるか分からないんですよ?」
それはアヴローラに聞こえないほど小さな声で喋っており、彼はリーダーに手の甲を見せる。そこには38という数字が書かれていた。
「何心配するな…… すぐに終わらせる」
リーダーは安心させるように言うと、その数字に気づいたアヴローラが口を開く。
「その手の甲の数字は何かしら?」
リーダー達は体をビクッとさせて驚くがすぐに落ち着く。
「いえ、特には意味はないものですよ。 アヴローラ様は気にしなくても大丈夫ですよ」
「そう……」
アヴローラは不思議に思っていた。しかし、そのことは忘れて自分は彼らが治るまで面倒を見ることを次の瞬間には決めていた。
「アヴローラ様お願いがあるんですがいいですか?」
「何かしら?」
「今から俺達を森に連れて行ってもらえませんか?」
「え?」
アヴローラにはその意味が理解できず固まってしまう。
「聞こえませんでしたか? それならもう一度言います。 俺達11人全員今から森に連れて行きそこに捨ててもらえませんか?」
「無理よ、行くとしても体を治さないと到底生き残れる環境じゃないわ」
「それでも頼みます。 今の俺たちじゃお金も馬車もないのでこの人数を運ぶことができないんです」
「それでも無理よ。 もし行きたいと言うのなら私を納得させる理由を教えなさい」
「そうか…… 君は知らないんだね。 あの化け物の本性を……」
リーダーは独り言のように喋る。
「あなたさっきから言ってることがおかしいわ。 少し休みなさい」
アヴローラがそう言うと先程リーダーに小声で話していた男が喋り出す。
「ふざけるなよ…… 何も事情を知らないくせに…… いつもなら殺して奪ってやるっていうのにそれすらもできねぇ!」
「おい!」
リーダーが止めようとするが、男は止まろうとしない。
「リーダー黙っていてくださいよ。 こいつはこっちの事情をわかってないからこんなことが言えるんすよ」
「どう言うこと?」
アヴローラは驚きながらその男に問うとニヤつく。
「お前は知らないかもしれないがな! ゼフが何もせずに俺らを解放したと思うか?」
すると男はアヴローラに手の甲を見せる。そこには44という数字が書いてあった。
「この数字はなゼフがいう限りでは半径100m以内の優しさなどの正の感情によって数値が上がっていくんだよ!」
「おい! それ以上はやめろ!」
リーダーがそう言うが男は話すのをやめない。
「そして、数値が100になったら自爆する蟲が俺達の体内に埋め込まれてるんだよ!」
それを聞いてアヴローラは驚きそして後悔する。自分が今までしてきたことが彼らにとっては苦しむ要因だと言うことを……
ーカチッ
アヴローラが行動を移そうとした時そんな音が男から聞こえる。
「やばい…… 逃げるぞ! 死にたくなければそいつから1mでも離れろ!」
リーダーがそう叫ぶとそれを聞いたその場にいた者達はベッドに寝ていたものも含めて慌てて逃げ出す。
「えっ、何? どういうこと?」
アヴローラも逃げようとする。しかし、それを見た男がアヴローラに一瞬で近づき抱きつき逃げれないようにする。
「へへへ、これでお前は終わりだ」
アヴローラは必死にもがく。しかし、召喚士であるアヴローラが力で勝てるはずもなく、その場でもがくばかりであった。
「あなた離しなさい! このっ!」
力を入れるがビクともしない。
「今ここにいるのは俺とお前だけだからいいことを教えてやる。 ゼフ様に付けられた蟲は自爆蟲と言う」
「自爆蟲?」
アヴローラはこんな状況だと言うのに問い返してしまう。
「そうだ、爆発条件は正の感情を取り込んで数字が100になるか、爆発条件を自爆蟲がついてない生物に話した場合発動する。 そして、ゼフ様は自爆蟲に人を殺した時にも爆発するように命令していたのさ」
アヴローラはその言葉で理解する。自分が襲われなかった理由も、そしてゼフがこの男を使って自分を殺そうとしてるということも全てを。
「私は、私は…… だだ、自分が…… だだしいと…… 思ったことを…… やっていた…… だけなのに……」
アヴローラは自分が逃げられないこと、そしてここで死ぬかもしれないとわかり声を震わせ話す。
「同情はするぜ…… 死ぬお前にもう一ついいことを教えてやる。 俺は演技をし、それを悟られないようにすることであいつらを…… 自爆蟲を街中にばら撒くのが俺が与えられた命令だ」
「え……」
アヴローラがゼフが一体何をしようとしているのかはわからない。だが、奴はとんでもないことをしようとしているのがわかり、どうしても止めようという気持ちが湧き上がる。
「お願い、私を離して…… 止めなくてはいけないの…… ゼフを……」
「そうか、ちなみに今のことを話すように命令したのもゼフ様だからな」
男は笑いながらそれを話すしていると、男の腹の方から光が漏れてきて、だんだんとそれが強くなってくる。アヴローラは今話したのが男の情けでそこに漬け込めば助かると思っていた。しかし、それはゼフの命令だとわかった今、助からないことが確定し絶望する。
「私は…… 私は……」
アヴローラは最後に何も言えなかった。そして、男の光が強くなり、屋敷を巻き込んで大きな爆発が起こる。跡には巨大なクレーターができており、数秒後沢山の人が集まってきた。




