召喚士
葛木 歩夢はある日異世界に召喚された。召喚されたのは5人だったが、1人はいつのまにか居なくなってしまっていた。そして、歩夢は召喚士というだけでこの世界の人達からゴミを見るような目で向けられているのを耐え続けていた。一般人ならともかく膨大な魔力を使ってわざわざ異世界から召喚した者達の1人が召喚士というのは期待はずれもいいとこであった。
他の召喚された勇者達はそれを気にすることなく召喚される前と同じように接してくれてるがこの世界の人達は違う。特に皇帝は歩夢に対しても人当たりのいい老人に見えるが内心は何を考えてるかわからない怖さがあった。
(私はこの街の人達からどんな扱いをされても絶対に臆さない。圭太達が言ってた通り私は私のできることをするだけ)
「歩夢!」
1人でそんなことを考えていると後ろから声がかけられる。振り向くとそこには一緒の職業の金髪が特徴的な女性が笑顔でこちらに手を振っていた。
「アヴローラ!」
「今向かうとこ?」
「そうよ」
「だったら一緒に行きましょ」
そう言われるとアヴローラは歩夢の隣を歩き始める。
「そういえば歩夢、ゼフ先生が出した宿題はどうだった?」
「もちろんやったよ、すごいかわからないけど一応12分ぐらい持ったと思う」
アヴローラはその言葉に驚く。
「あなたやっぱり勇者ね。 私は7分持ったわ」
「でも…… こんなことで本当に魔力が上がるのかな? それにゼフ先生の言ってた人間の殺し方ってどういうのかな? できればやりたくないけど、この世界じゃ仕方ないよね……」
歩夢は不安をつい口に出してしまう。
「それはわからないわ、でもね私は強くなるためならなんだってするわ。 歩夢あなたすらも超えてね」
「そうだよね…… 今は気にしてちゃダメだよね。 それに、アヴローラが私より強くなるって言うなら私はもっと強くなるわ」
「見てなさい、すぐに追いついて見せるんだから」
歩夢とアヴローラはお互いを見つめて笑う。この時から2人はお互いを高めるためのライバルだと認識する。
(召喚士には召喚士の強くなる方法がある。 そして、召喚士のすごさをいつかは世界中に広めたいな)
歩夢はこの世界でやりたいことを考える。そして、昨夜勇者4人が集まって話し合った計画が頭の隅に浮かぶ。
(圭太はこの街を変えるには4人じゃ足りないから出来るだけ信頼できる仲間をあつめて欲しいって言ってたな…… でも、どうしてゼフ先生だけはダメなんだろう……)
勇者達4人はこの街の異常性に気づき、それの原因が誰かなのかを突き止めていた。しかし、勇者達にはその者達に対抗する力も数もいない。だから、力をつけると共に人数を集めようと考えていたのだ。だが、歩夢がゼフを推薦したところ圭太に却下されてしまったのだ。
(圭太には却下されたけど、もしもゼフ先生が仲間になったら心強いな。 仲間に誘うかどうかはこれから見極めていけばいいよね)
歩夢はそう強く決心するのだった。そして、戦闘場が見えくる。扉の前にはデニーとカイモンがなぜか扉に耳を当てながら立っていた。
「貴方達なにしてるのよ」
アヴローラが問うとカイモンが不意を突かれたのか慌てる。そして、落ち着くと答え始める。
「この中から人の呻き声のようなものが聞こえるんだ」
「どういうこと?」
「わからない…… けどもしもの時の為にアヴローラと歩夢を待っていたんだけど……」
カイモンはたとえ学園内の施設だとしても人の呻き声が聞こえる場所は危険と踏んで歩夢達を待つことにした。おそらく大丈夫でありだろうが。
「ここに居ても意味ないからさっさと行きましょ」
アヴローラのその言葉にみんな頷くが誰も動こうとしない。
「何してるのよ、はやく行きなさいよ」
「いや、すまないがここは誰がこの扉を開けるか決めないかい?」
「はぁ〜貴方ね男の癖にビビってるなんて情けないわね。私が行くわ」
そう言うとアヴローラは勢いよく扉をあけて中に入る。他の者達もそれに続いて入っていき、最後に歩夢が入り何故か他の者達が顔を青くしながら固まっているのが見える。みんなが見ている方を見るとゼフがこちらを向いていた。
「やっと来たか。 次からはもっとはやく来い、時間は無限じゃないのだからな」
歩夢は話しているゼフの後ろのものに気づき皆んなと同様顔を青くする。そこには10人あまりの人達が呻き声を上げながら丸太のような木に縛られていた。
「どうしたお前らそんなに顔を青くして。何か恐ろしいものでも見たのか?」
ゼフは不敵に笑いながら問いかける。
(異世界から来た歩夢はともかく、他の者の反応を見る限り積極的に自らの手で人間を殺すことを嫌ってるようだな。 つまり、この街の住人は殺しあってるのを見るのが好きなだけで自ら殺すのは聖都や王都の人達と同じ感性のようだな)
ゼフは生徒達を見るとアヴローラが最初に口を開く。
「これはどういうことよ! ゼフ先生答えて!」
「勘違いするな、別に無実の人達を連れてきたわけではない。 こいつらは人を殺すことを平気でする悪人だ」
「それでも! 見るかにボロボロじゃない! そこまでする必要はあるの!」
縛られたもの達は見てわかるほど顔は腫れ、傷が見えていた。だが、ゼフにとっては死ななければいいという考えである。
「当たり前だ、こいつらは授業で使うんだ。 ここで心を折っておかなくてはならないからな」
正直なところこれにはそんな意味はない。これは生徒達に恐怖を植え付けることでこれからの行動をやりやすくするのと、生贄を決める判断材料にするためだった。
「たとえそうだとしても、あなた人として壊れているわ」
「そうだな、壊れてるかもな。 でも、こんな奴の教えでも受けるんだろ?」
「そうよ! でも、この人達は殺させはしないわ」
(最初から思っていたが、こいつはよく食ってかかるな。 やるならアヴローラだな)
「とにかくこの人達の拘束を解いて!」
アヴローラは戦闘場に響くほど大きな声で叫ぶ。今の彼女にはゼフが言っていることが嘘に見えており、縛られている者達は彼女には悪人には見えなかった。ゼフが全員分縛っていた者達の紐を解き終わると隅に運んで寝かす。
「この人達は私の家に連れて行くわ、問題ないわね?」
「ああ、問題ない」
おそらくアヴローラはこの後何が起こるかわからないだろう。その日は悪い空気のまま授業が始まり、その後何事もなく終わりを迎えた。




