おもちゃ
ゼフは学園から出て行くと街に向かった。途中歩いている途中に勇者の弱さを改めて思うと同時に鉱石についても不可思議な点があるのを考え始めていた。
(勇者はおそらくキール達より弱いな。 何故それ程までしか力がない者を召喚したかわからないが、今は鉱石の問題が優先だな)
ゼフはグリンガムからその鉱石が魔族達からすると喉から手が出るほど欲しい代物という事をあらかじめ教えてもらっていた。しかし、結果はどうだ。全くと言っていいほど情報が出てこない。
(そもそも魔族達はそのために戦争をしていたはずだ。 なのに人間の街に入ると全く情報がないとは一体どういうことなんだ。 最初はそれほど貴重なものだから表立っていないと考えていたが、よく考えるとおかしいな)
なぜ魔族達は鉱石のことを知っていて、占領している人間側は全くと言っていいほど知らない理由を予測だが考える。
(もしかしたら人間側の誰かが魔族側に嘘の情報を流していたのかもな。 だが、そんなことをして人間側のメリットはなんだ? それにそれだけで戦争するか?)
考えれば考えるほどわからなくなる。そして、大雑把だが仮説を立てる。
(もしかしたら魔王の誰かと人間の誰かが手を組んでるかもしれないな。 そうしなければ不可能なことが多い。 そして、この戦争事態も終わらす気は無いのかもしれないな。 魔族達が信じているのはおそらく実物を見せたんだろうな。 その実物がかなり希少なものだったから魔族がやる気になってるな。 それだけのものだからこの街も情報を隠しているのか)
ここでゼフは自分が立てた仮説だった場合情報が漏れていることに気づく。おそらくこの街に来ることもバレているのだろう。
(なるほどそういうことか。 アイドリッヒから魔族と人間は決して友好的な関係は築けないと聞いていたからありえないと思っていたが、どうもそういうわけにはいかないみたいだな)
ゼフは通りの横に細い道を見つけると、そこを通って狭い路地裏に向かい始める。
(後でグリンガムにそのことについてメッセージを送って魔族達の動向を探るか。 それにこいつらは何か関係ありそうだしな)
ゼフは路地裏を奥まで進み誰もいないところまで来ると誰かに話しかけるように振り向きながら語りかける。
「居るのはわかっている。 そろそろ出てきたらどうだ?」
だが、その声に反応する者は誰もいない。
「なるほど…… 優秀な者達だな。ここで出てきたら監視している意味はないからな。 それに、ブラフの可能性も考慮しているようだが、無理矢理でも出てきてもらおうか」
そう言ってゼフは何者か分からないものが隠れているとこに向かって魔法を放つ。
「――フラッシュ――」
それが放たれるや否やゼフを監視していた者の場所が激しく光りだす。観念したのかフードを被った男が出てくる。
「いや〜すまないね。 君を監視してるつもりはなかったんだよ。 もう少し行った先に監視対象がいるんだ。 だから、ここは通してくれないかい?」
男は陽気な声で話すが、ゼフには全て分かっていた。
「そうか、つまりお前は10日前から監視しているのは何かの間違いだと言うのか?」
そう言うと男は固まり、高らかに笑い始める。
「アハハハハ。 そうかそうかバレてたか。 でも、それだから何?」
男はさっきとは打って変わって冷徹な声で話を続ける。確かに男から見ればこの状況はゼフに不利である。
「そうだとして召喚士の君は何ができると言うんだい?」
「そんなの簡単だ。 魔物を召喚すればいい」
「無理だよ」
そう言うと男は玉の形をしている水晶のようなものを見せてくる。
「これはね魔法を入れることができる魔道具なんだ。 因みにこれにはマジックバインドという一定範囲に存在する生物の魔法を縛ることができる魔法を入れてある。 今回は召喚魔法を縛らしてもらってるからね」
「そういうことか、ならそれを壊せばいい話だ」
「ああ、そうだよ。 一応言っとくとこの魔道具の効果範囲は100mだから距離を取ろうとしても僕ならすぐに近づけるからね」
男はゼフを見て笑う。たしかにゼフは闘技場で圧倒的な力で勝った強者かもしれない。だが、それは召喚魔法があっての話だと男は思い込んでいた。だからこそこのような幼稚な戦法を使っているのだ。
(学園長には監視を続けて隙を見て殺せと言われていたが、まあ別にいいだろう。 本当にこの男はバカだな〜何も対策せずに闘技場で優勝する化け物に挑むはずはないだろう)
男は勝ちを確信していたが、ゼフは動こうともせずに妙に冷静である。そして、次の瞬間ゼフの口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「11か…… おもちゃとしては少ないな」
「なんだと?」
男はそう言うと何かに体をガッチリと掴まれる感覚に襲われる。気づいた時には既に遅く抜け出すことができない。そして、男は後ろに顔を向けそれが何かを認識した時驚愕する。
「どういうことだ! なぜ召喚できる!」
「ククク、簡単な話だ。 お前が対策をしていたように俺も対策をしていたということだ。 透明化の魔法でずっと俺の側を待機させていた」
「なんだと⁉︎ 嘘をつくな! それだと魔力が持たないはずだ!」
「俺は他の召喚士とは違うんだよ。 召喚した魔物は俺の意思で戻すことができない代わりに維持魔力は0だからな」
「なんだと……」
その言葉を聞き闘技場で召喚した巨大な魔物を考え、恐怖する。そして、すぐに近くにいる仲間のことを考える。
(仲間がいることはバレてないはずだ…… 逃げてくれさえすればこのことを報告できる)
だが次の瞬間男の思いは虚しく砕かれる。暗闇からアイアンGが計10体人間を掴んでこちらに近づいてきたのだ。
「なんとかこれで明日の授業で使うおもちゃは手に入ったな。 お前らには感謝するぞ」
そう言うとゼフはアイアンG達と人間達に透明化と防音の魔法をかけた後、それらを引き連れてシルヴィアの待つ宿屋へ帰るのだった。




