生徒
1週間後ゼフは学園長に言われたとおり戦闘場で生徒達が来るのを待っていた。シルヴィアは連れてくると行動しにくいので宿屋でアイアンGと共に待機させている。
(そろそろ時間だな。 さて、どんな奴が来るか)
数分後、戦闘場の扉が開かれる。1人ずつ緊張しながらも入ってきて、そこには4名の男女が綺麗に列を作って並ぶ。
(あれが俺が担当する生徒達か。 意外と少ないものだな)
ゼフは並んでいる生徒達に近づいていく。 近づくにつれ1人見覚えがある生徒がいることに気づく。
(確かあいつは勇者だったか? これはラッキーだな)
ゼフが生徒達の前に到着すると、勇者が代表して話し始める。
「はじめまして先生、私は歩夢と言います」
それに続いて他の生徒も自己紹介から入る形で話し始める。
「カイモンと言います」
「デニーです」
「アヴローラよ」
歩夢は黒髪で落ち着いており、アヴローラは金髪の少し尖った性格のようだ。どちらも美少女と言っても遜色ないほど美しい。対するデニーは緑髪の痩せているとは到底言えない体型であり、カイモンは青髪のメガネである。
「俺は君達の教師を務めることになったゼフだ」
それぞれ挨拶を終えたのでゼフはとりあえず生徒達の能力確認しようとしたところアヴローラが質問を投げかけてくる。
「私は勇者のように戦場で活躍する召喚士になりたいのだけれど、ゼフ先生はそれを教えられるのかしら?」
他の生徒を見ると歩夢という生徒以外は皆軽く頷いてる。
「なるほど、つまりは能力がどれくらいか見せろということか?」
「そうよ、教師になったからにはある程度強いことは知ってるわ。 でも、それがどれくらいか知ってもいいでしょう?」
「闘技場には来なかったということか…… なるほど、それでどうやればいい? お前達の望むやり方をやろう」
「あなた召喚士のくせにそんなこともわからないの?」
ゼフはアヴローラに侮蔑されたような目で見られる。ゼフはこの世界に来て召喚士に出会ったことはなかった。 だから、能力の強さを見せるための指標に興味を示す。
「すまないな…… そういうことを今までやったことなかったんだ。 どうやるか教えてほしい」
「この程度もわからないなんて…… やっぱり召喚士の教師と言っても程度が知れるのね。 簡単よ、あなたが召喚できる最強の魔物を見て判断するわ」
だが、その言葉に勇者の歩夢が反論するように慌てて言葉を放つ。
「べ、別にいいんじゃないかな? 私ゼフ先生が強かったところ見たよ」
(声が少し震えてるな。 もしかすると闘技場でやったことを思い出したのかもな)
「歩夢それはできないわ。 これはカイモンとデニーも賛成してることよ」
「そうなの? 2人とも」
「僕は教える立場の人間がどれくらいの強さか知りたいですからね」
「僕も皆さんと同じ意見です」
話が終わったのかみんなゼフの方へ向く。そう言われるが、自分が召喚できる最強の蟲を召喚できるはずもなかった。
「それで、先生はどうなのかしら?」
「まあ答えは無理だな」
生徒達は思ってもない言葉が飛び出してきて驚く。それを聞き出すかのようにアヴローラが質問をする。
「何故できないの?」
「理由は2つある。 1つは詠唱時間が長いことだ」
「それなら問題ないわ。 カイモンとデニーも大丈夫よね」
「僕は問題ありません」
「僕もみんなと一緒です」
ゼフはそれを聞くと話を続ける。
「そして、2つ目は終わるからだ」
「何が終わるのよ?」
「言葉の通り全てだ。 まず、この世界の生物は生きられないだろう。そして、建物などの建造物がそのままを維持できるはずもない。 最低でも星としての機能を失うだろうな」
その言葉を聞いて歩夢以外の生徒はそれを冗談で言っていると思っていた。だが、歩夢は何故かそうは思わなかった。あの戦いを見ているからだろうか、それはわからない。
「ご冗談はよして、本当のことを言ったらどうです?」
「残念ながら真実だ。 この世界に未練がなければやっていたかも知れんが、残念ながらそうではないからな」
歩夢以外の生徒達はゼフのことを完全に頭のおかしい人だと思っている。生徒達のゼフを見る目は完全に狂人を見ている目である。
「そのお詫びとしてはなんだが手持ちの中でよく使う弱い蟲を召喚してやる」
そう言うと魔法陣が3つ現れすぐに割れる。そこにはデスワームが3体現れ生徒達を睨んでいる。あまりの召喚の早さに反応が遅れたがアヴローラ達は驚き尻餅をつく。
「デスワーム⁉︎ 災害級の魔物をこんな簡単に召喚したの⁉︎」
「どうやったのか理解不能です」
「あ…… あ……」
歩夢に関しては急に現れたからかその場に固まってしまい動けない。
「どうした? そんなに驚いて」
アヴローラは自分の惨めな格好を恥じながら立ち上がると、勢いよくゼフに問いつめる。
「あなた何者なのよ! デスワームを3体同時召喚するなんて…… しかも、今召喚に1秒かかってなかったように見えたのだけれど」
「当たり前だ、こいつは俺の手持ちの中では雑魚だからな」
「理解不能ですが、すごいです。あなたほどの召喚士を僕は知らなかっただなんて……」
「僕達はこれほどすごい召喚士から学べるのですね」
これを見た3人はもしかしたらさっき言ったこともあながち間違ってはいないのかもと思い始める。
「ゼフ先生の強さはわかったわ。 それで、先生は私達に何を教えてくれるの?」
アヴローラはそう問うと、ゼフは軽く笑みを浮かべながら答える。
「お前達は戦場で活躍する召喚士になりたいようだからな、勇者もいることだし生物の殺し方を教える。 特に人間のな。」
「人間ですか……」
「そうだ、1番の敵は味方である人間だ。 魔物は力技でなんとかなるが、人間はそうはいかない。 もしもそういう時に人間を殺すことを慣れとかないと反応が遅れて命取りになるからな。 だから、人間の殺し方を学んでもらう」
「私は勘違いしていたわ…… 無名の召喚士が闘技場で優勝なんて嘘だと思っていたわ。 でも、実際に見て確信したわ。 これからよろしくお願いしますゼフ先生」
アヴローラがそう言いながら挨拶をすると他の3人も同じように挨拶をする。しかし、歩夢はゼフを完全に信用はしておらず、寧ろ疑っていた。
(圭太が言うにはかなり危険な人物みたいらしいけど、今の所はわからないな)
勇者達は圭太を筆頭にこの街の人達がおかしいことに既に気づいていた。だから、この状況を打破しようと考えていたのだが、更に問題になるような人物が来てしまいそちらの進行に少し遅れが生じていた。
(とりあえず今は何もないから大丈夫ね。 何かあったら逃げれるようにしとかないとね)
歩夢は不自然な動きを見せず、警戒を怠らなかった。そして、ゼフは自分を監視している者達の存在に気づき、そちらに警戒をする。
(誰かはわからないが授業で使う人間を用意してくれたのはありがたい。 それにこいつらなら鉱石の在り処を知ってるかもしれんしな。 全くたかが鉱石如きの情報がここまで隠されているとはな)
ゼフは調査したところ全くと言っていいほど鉱石の情報が出なかった。推測としては裏の情報でしかもシークレットに位置するだろうと考えていた。
(さっさと鉱石の情報を集めてこの街とはおさらばしたいものだ。 勇者には正直期待外れだな)
デスワームを召喚した時の歩夢が少し怯えているのを見てゼフは勇者にすっかり興味をなくしてしまったのだ。ゼフがそんなことを考えている中監視している者達は学園長に連絡を送り現状を知らせるのだった。




