森を抜けて
ゼフ達は現在森の中を進んでいた。しかし、アリシアはどうも気が強く、面倒な為排除すべきか考えていた。
(街で聞いた方が早いんじゃないか? これは、少し急ぎ過ぎたかもな。 まあいい、もしかしたらこいつは何か役に立つかもしれないからな)
「忘れてないから」
「ああ、忘れる必要はない」
「今は安全の為に何もしないけど、絶対いつか殺してやるわ」
「できる日が来るといいな」
(かなり言いたいことを言うな。 珍しいタイプだな)
ただ、ゼフは少し前に休憩した時にアリシアは泣いていたことを知っていた。だから、それ以上は情報の提供に支障をきたすと思い煽るようなことは言わなかった。
(さて、約束もしたことだし残りの知りたいことも聞くか)
それからアリシアに技のことを聞いたが剣技などに関しては知らなかった。魔法に関してはとても詳しいと言っていたので、いろんな脅威になるであろう魔法を聞いてみたが、予想通りこの世界に存在しないと断言された。
そして、最後に人間が住んでる街について聞いてみた。
「なるほど今俺達が向かっているのが王都という街でその周りには帝都と聖都があるだけか」
「私達のなかではそうなってるわ。 他に聞きたいことはないかしら?」
「いや特にはない」
(聞いた限りではやはり王族というのはかなり地位が高いみたいだな)
「ところで聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」
「ああ、構わない」
(これでこの男がどんな能力を使うのかを持ち帰れたら、この男の対抗手段を練ることができる。 ただ、嘘をついてるかどうかだけはわからないから、見極めが必要ね)
「あなたの職業は何?」
「召喚士だ」
そう答えるとアリシアは驚く。
(なぜ驚いているんだ)
頭を抱えながらアリシアは再び口を開く。
「もう一度聞くわ。あなたの職業は何?」
「召喚士とさっきも言っただろ」
「嘘じゃないよのね?」
「真実だ」
「そう…… ありがとう」
( よりにもよってこの世界で最も不遇な職業の召喚士なんてね…… デスワームを操っていたからまだ、同じぐらい不遇だけどテイマーと言われる方が信じるわね)
アリシアは続いてゼフの能力について引き出そうとする。
「次に今召喚しているデスワームよりも強い魔物を召喚できるの?」
「できる、デスワームはかなり弱い部類だからな」
(流石に嘘ね、おそらく情報を引き出すまで逃がさない気ね)
「大体わかったわ。とりあえずこちらからの質問は終わるわ。それと少し考える時間をもらってもいいかしら?」
「ああ、いいぞゆっくり考えろ」
森を歩いている中王都まであと少しとなっていた。それまでアリシアはこの男の対処法を考えていた。
(あのことが嘘だとしてもこの男規格外ね。 デスワームを3体倒すのはかなり骨が折れるわ……)
「そろそろ街だ」
そう言われてアリシアは顔を上げると、そこにはいつも見ていた高くそびえ立つ城壁が存在感を放ちながら佇んでいた。
「そうね、あなたは私から大切なものを奪った人だけどお礼は言うわ。ここまでありがとう」
アリシアは殺意を込めて礼を言う。
「ただ…… 約束は守ってよ」
「ああ、守るさ約束は…… だが、もし危害を加えたりするようなことがあればその者達を殺す」
「ええ、わかったわ約束は守るのが王族ってものよ」
「森の出口だ。 お前はここから1人で行け。 念のため護衛は王都付近までついていかせる」
「ええ、わかったわ。 もう2度と会わないことを願うわ」
そんなことを言いながらアリシアは土の中にいるデスワームに護衛されながら王都に向かっていった。着いた時には衛兵が大慌てなのが本当に彼女が王族であることを示していた。ゼフはアリシアが王都に着き、騒ぎがおさまり、1段落したところで新たなる蟲を呼び出した。
「来いビートルウォリア」
そこに召喚されたのは人間の大人の大きさの蟲であった。体の立派な甲殻は光で反射し、頭にはカブトムシのようにツノがある。目は人と同じぐらいの大きさだが赤く光っており、口は小さい。そして、全身赤と黒が特徴的である。
「ビートルウォリア、俺を守れ。そして、俺が命令するまで誰も殺さずにただついてこい」
そう言うとゼフは1体の化け物と一緒に王都に歩き始めたのだった。