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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
虐殺
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違和感

ゼフは待合室に続く通路を歩いきながら考える。最初は疑惑に過ぎなかったが、この試合でそれは確信に変わっていた。


(それにしても他の街に比べて殺しに積極的だな。 聖都や王都とは大違いだ)


ゼフは予選を見てる時子供や大人、老人など様々な人が居たが殺されるのを見て全員が全員嫌な顔をせずに見ていたので不思議に思っていた。そして、ヴァルムとの試合で皇帝が笑っているのを見て確信を得た。この街は他の街とは違うと。


(聖都ではこういう殺し合いはしていなかった。 つまり、この場所は祭りという単なる殺し合いの場所か。 それを見ているものは殺し合いを見るために来ているというわけか。 あまり人のことは言えないが、狂ってるな)


推測にすぎないがゼフは確信を持ってそう思う。理由としてはわからないが、おそらくこうなったのは何かが原因なのだろう。


(だが、素晴らしい者達だな。 もし、自分達が殺される立場になる時どんな表情になるか楽しみだ)


ゼフは笑いを手で隠しながら通路を進む。そして、待合室に着くと、ゆっくりと扉を開ける。部屋にはゴンズと数名が待機しておりこちらを見てくる。


「生きてるってことはヴァルムに勝ったんだな?」


「当たり前だ」


「お前やるじゃねぇか」


ゴンズは立ち上がり肩に手を回し嬉しそうに言う。そして、肩から手を離すと真剣な表情で話し始めた。


「それで、ヴァルムは殺したのか?」


「こちらにも余裕がなかった。 殺らなければ殺られていた」


「そうか…… まあこの闘技場で戦うということは奴も覚悟していた筈だ。 ここはそういう場所だからな」


「仲は良かったのか?」


「一応昔からのライバルではあったな」


「そうか…… そういやお前はここの事を知ってる素振りだがどういうことだ」


ゴンズはゼフを見極めるかのようにこちらを見てくる。数秒後、良いと判断したのかゆっくり口を開く。


「俺はゼフ…… お前を信じて話すが、ここにいる者達は望んでこの戦いに出てるわけではない」


「どういうことだ?」


ゼフはそれが嘘か本当かなど、どうでも良かった。何故なら例え嘘だとしてもこちらに被害はないからだ。ゼフは詳しく聞くためにゴンズの声に集中する。


「俺達は皇帝の命令で無理矢理戦わさせられている。 そして、逆らったら場合は大事な人を殺される手筈になっている」


「そういうことか…… たが、殺さないように戦えばいいんじゃないか?」


「それは、無理な話なんだ。 俺達は相手を殺して客を楽しませなければならないというルールに基づいて戦っている。 一昨年はヴァルムが優勝し、去年は俺が優勝した」


「さっきの楽しそうな雰囲気も演技だと?」


「そうだ、最初はお前は俺達を偵察しに来てる皇帝の使いだと思ったが、そうは思えなくてな」


「これで使いだとしたらどうするつもりだ?」


「この戦いに出る以上嫌でも優勝を決めなければならないからどっちみち一緒だ。 そして、ここにいる者達が同じ状況なら最後は1人になる」


「俺も躊躇なく殺すというのか?」


「最初は人を殺すことに抵抗があったが、今は大事なものを守るためなら悪魔にでもなるつもりだ」


「俺がお前の事情を聞いたところで加減はしないぞ」


「ああ、だがそのセリフは決勝に上がってから言うべきだな」


「最後に聞きたいのだが、ここの市民も狂っているのか?」


「ああ、残念ながら殆どがそうだ」


(なるほど、皇帝を筆頭に市民達にも考えが伝染していった結果、街が狂い始めたということか。 それで合ってるかは分からんが、とりあえず情報が欲しいな)


「それにしても、ここにいる間は他の者達の戦いを見ることができないのは非常に残念だな」


「そういうルールだから仕方ないさ」


そこからは何気ない会話が進んでいく。ゴンズの大事な人のこと、この街の状況、皇帝について知ってる限り教えてもらった。そして、時間が進み2回戦、3回戦が終わりとうとう出場者も4人になってしまった。ゼフの番が来ると、同じように呼ばれ、同じ場所に待機する。


(まさか、この街が狂っているとは思わなかった。 きっとこの街には何かある)


ゼフはゴンズが言ったことを疑っていなかったが、1つ気がかりなことがあった。


(そもそも、そんな訳ありの奴らが集まる戦いになぜ俺が出れたんだ?)


ゼフは考えを巡らせ、試行錯誤を繰り返し1つの考えが浮かんでくる。


(ギルドマスターは俺が邪魔だからこの戦いで排除しようとしてる? 一体何故だ?)


ゼフは考えるに連れて更なる疑問が浮かんでくる。


(だが、もしも皇帝に繋がったとしても俺がこの戦いに出ない可能性もあった。 それに、俺は街に来たばっかりだ……)


ゼフはそこまで考え頭を振る。おそらくこのことは単なる個人で出来ることではないのは明白である。しかし、今は試合に集中することにする。


(俺の考えすぎの可能性もある。 結論は情報を集めた後でいい。 今はこの戦いを楽しむとするか)


もちろんゼフは襲われても負ける気はしないし、周りには透明化した蟲が最低2体がいるように配置している。そして、勇者のことや鉱石のこと等わからないことだらけである。


(この戦いが終わったら行動を開始しないとな)


そう考えてるうちに扉が開きゼフは外に出る。今回の対戦相手は口下を隠し背には弓を背負っている弓士のようだ。ゼフは弓士に向かって言葉を放つ。


「今回は弓士か。 悔いなき戦いにしよう」


「あなたがさっきゴンズと話しているのを聞いてたわ。 よくそれを聞いてそんなことが言えるわね」


ゼフが男性だと思った弓士は女性だったことに驚くが、今は頭の中でいろいろ考えてるからか遊ぶ余裕ない。勿論楽しむが。


「そうだな…… 確かに悔いなき戦いは厳しいな」


そう言うとゼフは悪魔のような笑みを弓士に向ける。弓士はそれを見て少し後ずさる。


「では、後悔して死ね」


そう言うと弓士は距離を取りながら弓矢を放とうとしている。その動きは弓を扱うものの出だしとして完璧だった。

しかし、そんな行動を嘲笑うかのように操蟲が弓士の首を跳ね飛ばす。弓士の体は勢いよく倒れ、血溜まりができる。


「時間にして3秒か…… 思ったよりもかかったな」


観客はまさか腰から蟲が出るとは思わず静まり返っている。ゼフは1つヒントを得ると待合室に帰って行った。








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