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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
虐殺
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戦い

ゼフの目の前には大きな柵の扉が佇んでいる。これが開かれたと同時に戦いが始まるが、大抵の出場者は少し話してから始める。そして、1分と経たないうちに開かれ、進み出て行く。


「「「「「わあああああああ!!!」」」」」


ゼフが出ると観客席から沢山の歓声が押し寄せた。あまりの迫力に少し驚く。流石は各職業のトップ同士が戦う試合だろう。


「人がかなり増えてるな。 これだけでもどれだけ人気なのかがわかるな」


前を向くとヴァルムがこちらに少しずつ詰めて来ていた。ゼフも同じように詰め、一定の距離まで近づくと両者足を止める。


「なぜお前のような奴がこの戦いに参加しようとしたのかわからんが、俺はお前みたいな召喚士の弱さを認めずに場違いな場所にいる奴が嫌いだ」


「そうか、確かに召喚士は弱いかもな。 だが、俺はこの世界では例えどんな奴が来ようとも負けないだろうな」


「お前、何を言って……」


「剣を取れ、少しは足掻けよ」


「てめぇ…… あまり調子に乗るなよ」


ヴァルムは両手に剣を持ち構える。ゼフはそれを見て笑う。


「さて、始めようか」


「お前には1分やる。 これはハンデだ、ありがたく思え」


「そうだったな。 だが、後悔しても知らんぞ?」


ゼフは詠唱を始める。しかし、そこに魔法陣は現れない。


「無詠唱か?」


「無詠唱か…… この世界の奴らの認識では魔法陣が現れないと無詠唱になるらしいな。 だが、残念ながら俺はできない。 そして、今から召喚する魔物の召喚に使う時間は丁度1分だ」


「そうかよ、せいぜい俺を失望させるなよ」


そうこうしてるうちに1分が経ち、召喚することに成功する。歓声の中それを伝えるためにゆっくりと口を開く。


「さて、やろうか」


「てめぇ…… なめてんのか? お前が召喚した魔物はどこにいやがる」


「安心しろ、もうすぐ来る」


「もうすぐ来るだと?」


ヴァルムがそう言ったと同時ぐらいか、闘技場は大きな影に包まれる。観客は静かになり、空を見あげる。そこには巨大な生物が大きな羽音をたてて飛んでいた。それを見た観客は驚愕し逃げ出したり、その場に固まっていたりと様々な反応であった。


「エレファントビートル、大きさは50mでひときわ目立つ長い鼻のような角が特徴的な蟲だ」


ゼフはヴァルムにそう説明したが、こちらとエレファントビートルを警戒してるからか返事がない。


「せっかく教えてやったのに何も言わないとは失礼なやつだな」


「てめぇ何者だ」


「やっと答えてくれたか」


「俺は今までいろんな召喚士を見てきたがここまでのやつは見たことねぇ。 一体お前は何者だ……」


「どうせお前は死ぬから教えてもいいだろう。 俺はお前達の敵だ。 いずれは召喚士として最強に上り詰める」


「俺達の敵だと? お前はふざけてんのか」


ゼフはため息を漏らす。そして、ゆっくりと呟いた。


「早く終わらして休みたい。 かかって来い」


「それがお望みか。 だったらすぐに終わらしてやる」


そんなことを言うヴァルムだが、召喚士の弱点は知っていた。召喚士は召喚した魔物に依存する傾向がある。それに、あれほど強大な魔物を召喚したから魔力量の関係から他の魔物を召喚できないという推測を立て、召喚者であるゼフを1撃で殺すことができれば勝機はあると考えていた。


(なあに、慌てるな。 奴は所詮召喚士だ。 俺の相手じゃねぇ)


ヴァルムはゼフの動きを窺う。そして、隙ができるとヴァルムは踏み込み、音と同じと思われる速さで近づき斬りかかる。


「――剣技・双斬撃――」


その攻撃はゼフを捉えたと思ったが、何か透明な壁のようなものに弾かれてしまう。戸惑う中、ヴァルムは一旦距離をとり、様子を伺う。


「どういうことだ…… なぜ弾かれた」


ヴァルムにはその答えがわからなかったが、ゼフの前に透明化が少しずつ解けて現れるゴキブリのような蟲を見てすぐに理解する。


「透明化だと⁉︎ それにまだ召喚できたのか!」


ヴァルムはあり得ないことが目の前に起こり、叫ぶ。


「透明化便利だからな、ここに来る前に呼び出したアイアンGにかけさせてもらった。 それとお前は勘違いささているようだが、蟲はまだまだ召喚できるぞ」


「クソが!」


ヴァルムは再び飛び出し叫びながらゼフに斬りかかろうとする。しかし、その全ての攻撃をアイアンGが防ぐ。ヴァルムは苛立ちを抑えられず攻撃が雑になる。


「残念だがそろそろ終わりにするか。 目的のものも見ることは達成済みだしな」


ゼフは一際豪華な席に目をやる。そこにはこの世界に召喚されたとされる勇者がこちらを見ていた。


「終わりにするだ? 何を言ってやがる! 俺は攻撃より防御の方が得意なんだよ!」


ヴァルムは下がって攻撃が来るのを待つ。頭に血が上って少し考えれば分かることすらわからなくなっているようだ。


「そうか、なら見せてもらうか。 タイフーンだ」


そう言うとエレファントビートルは魔法を発動する。発動までの時間は感じられなかった。発動すると、ヴァルムの周りに10は超える巨大な竜巻が発生する。それは食らえばひとたまりもないようなほど荒れ狂い暴れていた。


「被害が出ないようにしてやろう ――ドーム――」


ゼフが魔法を唱えると大きなドーム状の透明な膜に観客を巻き込まないようにヴァルムとゼフだけを包んだ。


「なんだ! くそ! クソガァァァ !」


ヴァルムはなす術なく大量の竜巻に巻き込まれ、声が聞こえなくなる。そして、魔法が終わると、空から彼だった肉塊が降ってくる。


「物理攻撃を期待していたようだが残念だったな」


そう言うとゼフは元の場所に戻って行く。召喚しとて侮れないと観客の目に焼き付けたのだ。



✳︎✳︎✳︎



勇者達はゼフとヴァルムの戦いを見て体が固まっていた。

今までもすごい戦いと感じていだが、この戦いは召喚士のレベルが高すぎたようだ。しばらくすると沈黙を破り勇者の1人がつぶやく。


「やっぱ人が死ぬってのはどうも耐えれないな……」


「そうね……」


勇者達はある星からこの世界に召喚された者達なので人が目の前で死ぬというのが耐えられなかった。


「それでもしょうがないよ。 これがここの文化なんだから」


眼鏡の青年が真剣な表情で話す。勇者達は男子2名、女子2名の計4人おり、名前は茶髪の青年が佐藤 翔太、眼鏡の青年が河野 圭太、ショートの女性は葛木 歩夢、そしてまだ喋っていない長髪の女性は山口 真里亞という。


「それにしても本当にすごい戦いね」


「真里亞はよく耐えれるね」


「私は特にどうってことないわよ」


「俺はちょっときついわ」


「男のくせにだらしないのよ」


勇者達がそんな談笑をしていると、隣に座っている皇帝が暗い表情を浮かべていたのを気づいた圭太が声をかけた。


「皇帝様、どうしたんですか?」


「ああ、すまぬな。 お主達はこの世界に来て浅いから知らぬと思うがまさかあれほどの召喚士がいるとはの……」


「そんなすごいんすか?」


翔太が問うと、皇帝は頷く。


「すごいというレベルではない。 あれは化け物だな」


「化け物ですか……」


「僕も固有能力の魔力視で見たけどとんでもない量の魔力があの召喚士から出てたよ」


「へ〜やっぱりすごいんだね」


「剣士の方も強かったのに本当に知らないことが多くて学びがいがあるわね」


皇帝を交えて話しているが圭太は暗い表情で考える。


(今はもういなくなってるがあの巨大なカブトムシから放たれてた魔力は今もそこにある。つまり、ゴキブリの蟲に使っていた透明化の魔法を使ってるのだろう)


圭太はなぜ透明化を使っているかを考え皇帝に質問する。


「召喚士が召喚した魔物は戦いが終わったら引っ込むんですか?」


「そうだ、召喚士はその魔物を維持する限り維持費として魔力を使うからさっきあの召喚士がやったように帰還させないとすぐに魔力がなくなってしまうからな」


「なるほど…… 理解しました。 ありがとうございます」


「良いってことよ」


(つまり、帰還したかように演出しているってことか? 一体なぜ? それにあのカブトムシと召喚士と同じ魔力を空全体が覆ってるのはなんでだ?)


圭太は考えるがわからない。そんなことを考えているうちに次の試合が始まった。圭太は少し引っかかるが今は試合に集中することにした。




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