闘技場
皇都に滞在してから3日が経った。その間何をしていたかと言うと情報収集である。
(流石に3日じゃ何も出てこないな。 かなり裏の重要項目らしいな)
別にパラサイトを使う手もあったが、あれは普通の精神状態では使うことができない。だから、これほどまで面倒なことをやっているのだ。ゼフは渡された紙を見て呟く。
「それにしても場所がわかりにくいな。 シルヴィアここがどこかわかるか?」
そう言いながらシルヴィアに紙を見せる。すると、頷きながら口を開く。
「こっちよ」
シルヴィアはそう言うと、ずかずかと進んでいきゼフを目的地まで案内する。
(初めてシルヴィアが答えてくれたな。 もしかすると答えるのは無理でも体を動かすことは可能なのかもしれないな)
ゼフは滞在している3日間で魔族との戦争について調べ上げていた。そこでわかったのは人間からは攻めず、魔族から攻められるのを待つという防衛戦をしているということ。そして、その戦争は皇都のみ参加しているということである。
「着いたわよ」
シルヴィアに声をかけられて正面を見ると大きなドーム型の建物があった。
「これが闘技場か。 なかなか立派なものだな」
そう言うとゼフ達は中に入って行く。暗闇の中を進んで行き、しばらく暗闇の中を進むと光が見えてくる。光の中に入るとそこには広大な戦う場所と周りにはそれを見る用の椅子が並んでいた。
「すごいなこれは」
ゼフは素直に賞賛をおくりながら、とある人物を探す。
「さて、とりあえずレンを探すか」
ゼフはしばらく歩き回るとこちらに手を振っている人物がいた。近づくとレンが満面の笑みで迎えてくれた。
「やあゼフ。 迷わずに来れたみたいだね」
「当たり前だ」
ゼフは自分だけでは迷ってしまってこの場所に来れなかったことを棚に上げ見栄を張る。
「そんなところに立ってないで横に座りなよ」
「すまないな」
そう言うと素直にゼフ達はレンの隣に座る。
「さて、後10分程で剣士達の戦いが始まるよ」
「1つ疑問なんだが俺はいつから出るんだ?」
「それぞれの職業の試合が終わる頃には夜にはなってるだろうからおそらくそれぐらいだね。 その頃には観客も今より増えてると思うよ」
「祭りみたいだな」
「そういう部分もあるからね。 それに誰が最強か戦う者もそれを見るものも知りたいというわけさ」
「なるほど、それで前は殺すことは禁止と言っていたが本当に禁止なのか」
ゼフはこの戦いのことを調べていた。毎年のように出る死者、そして職業の中で2番手が教師になったという情報もあった。レンは不敵に笑いながら口を開く。
「それは建前さ。 ああ言わないと中々集まらないからね。因みに逃げるようなことをすればどうなるかわかってるよね?」
「殺されるのか?」
「そうだよ、過去にいくつもあった。 それを聞いてゼフも逃げ出すかい?」
ゼフはつい笑みがこぼれてしまっていた。
「いや、むしろ素晴らしい祭りだと思ってね」
「そうか、それは嬉しいよ」
そうこう話しているうちに1試合目の始まる鐘の音が聞こえる。観客の歓声は場内に響き渡る。
「始まるみたいだな」
「よく見ておくといいよ。 自分が戦う者達がどれほどの強さかを」
「ああ、わかった」
ゼフはその助言を素直に受け入れる。恐らく戦いにすらならないだろうが。
✳︎✳︎✳︎
職業毎の1位が決まったのは連の予想通り夜だった。
職業は戦士、剣士、魔導士、弓士、斧士、拳士の計6つあり、どれも血を血で争う熾烈な戦いであった。しかし、そんな奴らではゼフの相手に務まるものがいるとは思えなかった。ゼフは席を立ち上がると口を開く。
「それじゃあ、俺はそろそろ行かしてもらうぞ」
「君の活躍期待してるよ」
そう言うとゼフは待合室に一直線に向かう。人混みが多く道に少し迷ってしまうが、それらしき道を見つけ進みだす。
(まさか予選で10人も死ぬとは思わなかった。 だがこれで思う存分やれる。 殺したとしても2位の奴が変わりを務めるみたいだな。 むしろ2位の奴は自分が教師をするために他の職業の奴に金を渡して殺してもらうらしい)
人間の醜さが垣間見えるこの試合はゼフにとって楽しみ以外の何者でもなかった。そうこう考えてるうちに待合室と書かれた部屋の前に着く。扉を開くとそこには服装や武器が様々な6人の人間がおり、こちらを凝視していた。ゼフはその者達の視線を無視して椅子に座る。すると、1人の男が近づいてきて話しかけてきた。
「よう、お前が俺の対戦相手の召喚士か?」
「そうだが?」
「よくノコノコとこの場所に来れたな。 それだけは褒めてやるぜ。だがな、俺は雑魚一方的にを痛ぶるのは嫌いなんだ。 そこで、俺は最初の1分間は攻撃しないでおく」
その男はニヤニヤと見下すように笑う。もし、ここに何も命令していない蟲がいたならこの男は既に肉塊になっていただろう。しかし、蟲達には攻撃しないことを伝えているので、その心配はない。ゼフはゆっくりと口を開く。
「そうか…… それは助かる」
「アッハハハハハハハハ!!!」
ゼフがそう言うとこのやり取りを見ていた大男が笑いはじめた。他の者達は集中しているのかこちらを見ることすらしない。
「なんてずぶてぇ奴だ。 気に入ったぞ、俺はお前を応援してやる」
「おい、ゴンズ静かにしやがれ」
「なぁにお前が負けなければいい話だろ」
「チッ」
そう言うと男は勢いよく座る。そして、睨みながら口を開く。
「だが、召喚士これだけは覚えておけ。 お前の命はこの戦いで最後だ」
そう言うと男はそこからは黙り、代わりに大男が近づいてきた。
「よう、改めて名乗らさせてもらうぜ。 名前はゴンズ、ランクはSSランクだ。 よろしくな」
「ゼフという。 ランクはAだ」
そういうと向こうが手を出してきたので握手をする。
「それにしても召喚士でAとはお前なかなかやるな」
「大したことない」
「記念にいいことを教えてやる。 お前の次の対戦相手ヴァルムと言うんだが、俺と同じSSランクだ。 つまり、はっきり言ってしまえばかなり強い」
「それはわかっている。 わかった上でここにいる」
「やっぱお前はおもしれぇな」
ゴンズがそう言うのと同時に扉が開かれる。
「ゼフ、ヴァルム準備してくれ」
2人は同時に立ち上がり待合室から出る。ヴァルムはこちらを睨みながら呟く。
「ゼフと言ったか? せいぜい足掻けよ?」
ヴァルムは笑いながら自分の準備場所に向かって行く。ゼフもそれを見届けた後反対方向に歩き始めた。因みに少し迷ってしまった。




