訪問
ゼフ達は準備を終えると直ぐに出発する。魔族の領域を出てから魔法などを使い1時間程で人間の街に到着することができた。しかし、そこには1つ大きな問題がゼフ達の前に立ち塞がっていた。
(なんだこの長蛇の列は……)
今まで味わったことのない程の人が並んでいたのでおり、その列は1時間以上かかると思われた。仕方なく並ぶが、15分もしない内に暇になる。
「シルヴィア暇だ。 何か面白い話はないか?」
「はい」
シルヴィアは即答するが、そこから話すことはない。
「こういう時不便だな…… 早く調べ上げないとな」
ゼフはシルヴィアと話すことを諦めると、蟲を召喚できない今の事を思う。
(こういう暇な時はいつも蟲達と戯れていたから他に何をすればいいかわからんな。 人間を1人連れてたほうがいいのか?)
そんなことを考えているうちに列は少しずつ進んでいく。ゼフ達がこうして慎重になっているのには理由がある。街を蟲達に支配させるのもいいが、どうやらこの街にはとても貴重な鉱石が沢山採掘されるらしいのだ。その発生源さえ突き止めればいいのだが、魔王は知らなかった。それに魔族達がこの街と戦争を行なっているのは人間を減らす事と鉱石の独占が目的らしい。
(なんにせよ情報はいるな。 ここは気長に待つとするか)
ゼフ達はいらいらしながらも列が進んでいき、2時間経つかどうかというところで遂に自分の番に回ってきた。正門前にいる衛兵はゼフ達に問いかける。
「証明できるものを持っているか?」
「冒険者カードでいいか?」
「構わん」
そう言うとゼフとシルヴィアは冒険者カードを渡す。
「ほう、そちらのお嬢さんは魔導士か」
シルヴィアは現在仮面やマントなどを全て取っており、私服姿である。
「そしてそちらのお兄さんは召喚士か……」
明らかに蔑んでいるようだった。それは理解していたことなので今更何も思わない。
「だが、2人ともAランクか。若いのにすごいな」
そう言うと、衛兵は冒険者カードを返してくる。
「よし、大丈夫だ。 ようこそ、皇都へ。 楽しんでこい」
衛兵に笑顔でそう言われると、軽いお辞儀をして街に入っていく。入るとそこは聖都や王都と変わりない風景が目に飛び込んでくる。
「さて、まずは冒険者組合に行くか」
「わかったわ」
「だが、道がわからんな。衛兵に聞くべきだったな」
ゼフは少し後悔する。衛兵は既に次の人の相手をしている。
「まあ、すぎたことはもういい。 そこら辺をぶらぶらしながら探すぞ」
「ええ」
ゼフとシルヴィアは街を探索するが魔族の街を歩いたせいで目が肥えてるのか、少し物足りない気がした。
「技術が高いと言うのは重要だな」
そして、10分しないうちに冒険者組合の看板が見えた。
「これが皇都の冒険者組合か」
今まで王都と聖都の冒険者組合を見てきたがそれよりもかなり立派なものであった。ゼフの中でそこだけは評価した。
「もしかすると向こうよりもある程度は資源を独占できるから、装飾などを豪華にすることができるのかもな」
そう言うとゼフは扉を開ける。やはり、中も中々の広さを持っており、昼間なのに所々に冒険者の姿が見えた。ゼフは冒険者の視線を無視して受付に向かう。
「ようこそ、本日はどのような用件でしょうか?」
ゼフは冒険者カードを見せて口を開く。
「ギルドマスターに会いたいのだが?」
そう言うと受付嬢は申し訳なさそうに答える。
「申し訳ありません。 当ギルドは例外を除いてギルドマスターに会うことができるのはSランク以上の冒険者だけと決まっております」
「そうか……それは仕方ないな。 それで、例外とはなんだ?」
「はい、例えば緊急の依頼をする場合とか、学園の教師になる方を面接するとかですかね」
「学園とはなんだ?」
「学園とはそれぞれの分野の強いものを育てる施設でございます。 今年は異世界からの勇者も入学するみたいですね」
「勇者か…… それで教師にはどうやったらなれるんだ?」
「そうですね、時期的には3日後に開催される闘技大会でそれぞれの分野の職業で1位を決めます。 その方が教師になることができます。 ゼフ様は非常にタイミングが良かったですね」
(勇者が気になるな…… それにギルドマスターにも会っておきたい)
「なるほど、ではエントリーしよう」
「ありがとうございます。 それでは、闘技大会についてギルドマスターから説明がありますので、呼ばれるまでそこに座っておいてください。 順番が来ましたら私が呼びに参ります」
「わかった」
そう言うとゼフとシルヴィアはすぐそこにある椅子に座る。
(また勇者か…… それに異世界か…」
ゼフはそんなことを考えると頬が緩む。
(アイドリッヒには1ヶ月ぐらい経ってから報告してもそこまで疑われることはないだろう。 SSランクにはすぐになりたいがそこは我慢だな)
ゼフがそんなことを考えてると声をかけられる。
「ゼフ様、順番が来ました。 ギルドマスターの部屋へどうぞ」
ゼフはそれを聞いてギルドマスターの部屋に向かう。 着くや否や、扉をノックして開ける。そこには20代後半の男が椅子に座っていた。入ると、ギルドマスターは立ち上がり挨拶をし始めた。
「はじめまして、ギルドマスターのレンというよろしく」
「俺はゼフ、こっちはシルヴィアだ」
そう言うと握手を交わす。
「さて、まずは座ってくれ」
ゼフ達は椅子に座と、レンは話し始める。
「君達は学園の教師になってくれるみたいだね」
「ああ、そうだが。 なるのは俺だけだ」
「なるほど了解した。 それで君はなんの職業かな?」
レンは笑顔で問いかけると、ゼフはゆっくりと口を開く。
「召喚士だ」
だが、ゼフがそう言うとレンの笑顔が消える。
「なるほど…… 召喚士か。 一応枠はあるにはあるんだが……」
「何かまずいのか?」
「いや、毎年召喚士になろうとするものは10人にも満たないからね。 教師はDランク冒険者になるんだけど、今年は勇者がいるらね」
「つまり、強さを示してほしいと」
「そういうことなんだけど、それぞれの職業の1位は戦わなければならないんだ。 そこから全体の1位を決めるんだけど……」
「力を見せつけるためには戦わなければならない。つまり、そいつらと戦うのは危険ということか?」
「話が早くて助かる。 今年の召喚士で立候補するものは誰もいなかったから困ってたとこに君がきて助かったんだけど…… この話を聞いてやめてもいいんだよ?」
「いや、問題ない」
レンは少し驚くが、すぐに笑顔になる。
「ありがとう、一応これで今年も安泰だよ」
「ところでレンはもしかしてつい最近まで冒険者だったか?」
「そうだよ、つい最近までは冒険者だったんだけどね。 強さを買われてギルドマスターに今年なったんだ」
「そうだったのか…… どうりで若いし話し方が妙に砕けてると思った。 ところでランクはいくつだったんだ?」
「僕は一応SSランクを務めさしてもらってたよ」
「SSランクか…… それはすごいな」
「さて、この話はこれで終わりにしてルールだけ説明するよ」
「ああ、頼む」
「ルールとしては武器、魔法なんでもありで、相手を殺すのは出来るだけ避けてほしい」
「それだけか?」
「ああ、それだけだよ。付け加えるとするなら今年は勇者がこの戦いを見てるよ」
「賞金とかはないのか?」
「冒険者最強の称号を得るだけじゃダメか?」
「どういうことだ?」
「この戦いにはねSランク以上の猛者しかいないと思うからね」
「ずいぶん人気だな」
「そりゃあ、そうさ。 ここで教師になるというだけで名声がいろんなところに広がり、お金も危険を冒さず今までと同じくらいもらえる。 ここは世界最高峰の学園さ」
「そう言うことか、じゃあ俺は始まるまで準備しに帰ろう」
「助かるよ、3日後ここに12時に来てくれ」
レンはゼフにメモ用紙を渡す。
「了解した」
ゼフ達が出て行くと部屋に静寂が訪れる。
(彼強いね、後は他の職業の猛者達を見て怖気つかなければいいのだけど……)




