破壊
アウスゴレアは自分の選択に後悔はしていない。それに魔王という威厳がある。だが、蟲達が進軍を始めた時に少し後悔しそうになる。
(迷うな…… 我は魔王だ。 たとえどんな奴が相手だろうと守りきるという使命がある)
「ゼフと言ったか。 お前は傲慢だ。 その程度で我に勝てると思うなよ」
「そんなに言うならかかってこい。 遊んでやる」
アウスゴレアは少し挑発にいらつくが、気持ちを落ち着かせると飛び出し再び剣を振るう。ゼフが腰から伸ばしている操蟲には先程のことからも分かる通り力では勝てない。
だから、フェイントを入れ突きを入れ、わざと弾かれ、速攻で斬りかかったりする。だが、どの攻撃も意味をなさない。
「ふん!」
だが、そんなことでアウスゴレアは諦めない。全ては魔族と為であり、自分が生き残るの為である。しかし、焦っているのは確かであった。
(なぜ当たらん!)
今もなお続けている連撃が全く当たらないことにアウスゴレアは苛立つ。その攻撃も同じようにフェイントを入れたり、攻撃の仕方を変えているのにだ。
「くそっ!」
アウスゴレアはこれほど攻撃が当たらなかったことがなかった。そして、ついに苛立ちが頂点に達し、声に出して叫んでしまう。
「当たらないようだな魔王。 安心しろお前は仲間達が死んでいくのを最後まで見ることができるようにそれまで遊んでやる」
アウスゴレアはその言葉を聞きプライドを捨てることを決める。できれば人間には使いたくなかったが、蟲達が徐々に進軍して来てるのを見てそうもいかないと感じる。
(この人間は仲間達を最後まで見ることができるように遊んでやると言った。 つまり、我は最後まで殺されないといことか。 傲慢だな、だがそれが我が勝つことができる最後の活路だ)
アウスゴレアはゼフから距離を開け、目の前に剣を構える。見据えるのはただ1つである。
「何をしているかは分からんが無駄だ。 それにそろそろ蟲達がお前の軍と衝突する。 お前にはその悲鳴を聞かしてやる」
ゼフは不敵な笑いを向ける。アウスゴレアはそれを見ながらゆっくりと口を開く。
「傲慢だな」
「それは当たり前のことだ。 お前だって人間に本気にならないだろ?」
「それもそうか。 だが、1つ間違っているぞ人間よ」
「俺が間違えてるだと? それは一体なんだ?」
「それはな」
アウスゴレアはその言葉を言い切る前に今まで倍以上速いスピードで近づく。そして、響き渡るような声で叫ぶ。
「我はお前よりも強いということだ! ――剣技・雷鳴斬――」
その剣は操蟲達をすり抜け、ゼフの首を捉える。反応できなかったのかそのまま剣がめり込み、首が跳ねられる。アウスゴレアはそれを確認すると、勝利の雄叫びをあげる!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
しかし、ふと蟲達を見ると全くと言っていい程止まっていない。しかも、ゼフを殺した自分を倒そうとしない。
「どういうことだ! なぜ頭を倒したのに止まらん!」
アウスゴレアはそう叫んだのち被害を少しでも減らすため蟲達に突っ込んで行く。1番強い頭を倒したのだから、他の蟲は余裕だと思っていた。しかし、突っ込むなや否や剣を振るうことも許されず、大きく吹き飛ばされ壁に当たる。その壁には大きくヒビが入り、瓦礫がボロボロと落ちる。
「なぜだ…… なぜ蟲達の方が強い…… 我は頭を倒したのだぞ。 なぜ止まらん……」
剣の刃は折れ、腕は普通は曲がらないであろう方向に曲がっている。血も大量に口から噴き出しており、もはや戦える状態ではない。そして、ふと顔を上げると蟲達に蹂躙される仲間達が見えた。その中に1人こちらに近づいてくる人影が見えた。
「まさか……」
その人間の姿がはっきり見えると絶望する。それは、ついさっき首を飛ばした人間のゼフであった。
「確か…… 我はお前よりも強いだったか?」
「なぜ…… なぜ生きてる……」
「簡単な話だ俺は蘇生魔法をかけている。 つまり死ぬことはない。 まあ、普通だったら召喚士の能力で殺すことさえできなかったが、今回はハンデとして能力をオフにしといてやった。それなのになんだこのザマは」
ゼフはそんな姿のアウスゴレアを見ながら笑う。蘇生魔法にはかけると死んでから効力を発動するものと死んでからかけることで効力を発動するものの2種類がある。今回ゼフがかけたのは前者の方である。
「ありえん…… その魔法は1人で行えるものではない……」
「別に信じなくてもいい。 だが、この程度も対策できないようでは話にならん」
ゼフは改めて自分が最強の存在であり、この世界は自分が知っている常識とはかけ離れていることを実感する。
「それに蘇生魔法ごときで驚いて貰っては困る」
「我は許さんぞ人間…… 必ず我らの同胞がお前を殺す。 人間を根絶やしにしてやるぞ……」
「残念だがそれは叶わないな。 あれは俺のおもちゃだ。 勝手をやって貰っては困る」
そう言うとアウスゴレアは驚き、目が点になる。
「なんだと? お前は同族をおもちゃと言うのか?」
「そうだが、何か問題でも?」
アウスゴレアはここに来て初めて恐怖する。こいつは人間ではなかったのだ。こいつは一体なんなんだと。
「ゼフと言ったか?」
「ああ」
「今から降伏はできないだろうか」
アウスゴレアは魔族達の為に最後の力を振り絞って土下座をする。ゼフはそれを憐れみの表情でみる。
「なるほど、助かりたいと言うのか。 だが、残念ながら俺は生物が殺される姿が好きなんだ。 特に感情豊かな生物はな」
アウスゴレアはそれで悟る。これが自分の最後だということを。
(我はこれで終わりか…… もう少し生きたかった……)
アウスゴレアの耳に街の壁が壊される音が聞こえる。そして、魔族達の悲鳴が鳴り響く。
「やはり、悲鳴は素晴らしいな。 これほどの悲鳴はなかなか聞けない。 お前もしっかりと耳にやきつけろよ」
アウスゴレアにはそれに答える余力など残されていなかった。
「さて、そろそろ他の街がどうなったか確認するか」
そう言うとゼフはとある魔法を使って確認し始める。
「なるほど、見たところ降伏したのは9ってところか……以外と少ないが、まあいいだろう」
ゼフの予想としては20は降伏するであろうと考えていた。しかし、結果は違った。
「まあ仕方ないだろう。 さて、この街はもう終わりだ。お前にも死んでもらう」
ゼフはアウスゴレアの首をはねるように操蟲に命令する。すると、ゆっくりと操蟲が動き出す。建物が壊される音や魔族達の悲鳴が鳴り響く中アウスゴレアの首は魔族の誰にも知られずにはねられ、息絶えたのであった。




