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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
虐殺
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戦慄

魔王グリンガムは目を覚ます。目の前にはなぜか自分を殺したはずの人間が立っており、困惑する。


「目が覚めたか魔王よ」


(どういうことじゃ…… ワシは死んだはずでは…… まさかこの人間は殺さなかったということなのか……)


グリンガムはそう結論づけると、口を開く。


「ワシは生かされたというわけか……」


「そうだ、運が良かったな」


「ワシを生かしたということは、ワシになにかをやらすつもりということじゃな」


「理解が早くて助かる。 流石は魔王になるだけはあるな」


「ワシは何をすればよい」


「お前にはすべての魔王に同時にメッセージの魔法であることを送ってもらいたい」


「そ、そんなことで良いのか」


「ああ、だが内容は俺が言った通りに送れ」


「なるほど…… わかった」


グリンガムはたとえどんなことでも嘘をつき報復の時を作るつもりだった。しかし、グリンガムはなぜか嘘をついてはいけないような鎖に縛られた気持ちになる。逆らうことは許されず、命令に従わなくてはいけないという強制的な何かをされている気分が自分の心包み込んでいるようだった。


「では、内容を今から言うがいいか?」


「待ってくれ! メッセージで同時に送るとなるとかなり詠唱に時間がかかるからのう。時間をくれぬか?」


ゼフは少し考えるとすぐに頷く。


「それは仕方ない。 とりあえず1時間後戻る」


「了解じゃ」


「念のためにビートルウォリアを置いて行く。 あり得ないが、 妙な気は起こすなよ」


「わかったのじゃ」


そう言うとゼフと隣にいたシルヴィアは出て行った。


「あの人間は何を考えているのかの」


グリンガムは考えるが、全く考えが読めない。


(じゃが、奴が何か恐ろしいことを企んでいるのは確かじゃ。 さて、メッセージの同時送信の準備をしなければの)


メッセージは全魔法の中で最底辺のものであり、記憶にある人物に限り、自分の声を届けるというものである。同時に送るとなると最底辺の魔法だが、少々時間をかければ複数に送ることができる便利な魔法である。その時、グリンガムはふと疑問に思う。


(ワシが生かされた理由は本当に他の魔王どもにメッセージを送るためだけか? そもそも送った後はどうするつもりじゃ)


もしメッセージを送ってしまった場合好戦的な魔王はすぐに軍を引き連れてセレロンを滅ぼしに来るだろう。そんな単純なことを考えていないはずはない。


(まさか…… 魔族を全て相手にしても勝てるというのか……)


グリンガムは頭を振り、その後余計なことを考えずに魔法の詠唱に集中することにした。



✳︎✳︎✳︎



ゼフはグリンガムと別れてから街の様子を見ているが、周りには魔族達が土下座をし、道を作るようにして並んでいる。この街の監視にはビートルウォリアとカースドビーという人の大人ぐらいの大きさの黒い蜂型の蟲を召喚している。そんな哀れな者達を見て支配に必要なものを再認識する。


「やはり、支配するには恐怖が大切だな」


しかし、魔族達に逆らう者がいないわけではなかった。だから、デスワームに命令してその者達を1人残らず食べてもらったのだ。すると、あんなにうるさかった住民は子鹿のように震え黙ったのだ。


「自分達に人質の価値があるかどうかでこうも反応が変わる。 愚かな種族だと思わないかシルヴィア」


「ええ」


ゼフが通る道を土下座をしている魔族に目をやる。それはたまたまだった。少し好奇心が湧き、操蟲に命令をすると、その魔族は為すすべなく体を貫かれる。余りには紫色の血が散布し、かかったものはより恐怖の顔に染まる。


「この感覚はいい。 抵抗できないものの命は俺次第というこの感覚が。 弱者を蹂躙するというのが。 全く最高だ」


セレロンはあまりにも広く、警備としてビートルウォリア1000体、カースドビー1500体を配置しているがそれでも足りないくらいだった。


「ここまで広いと道に迷うな」


ゼフはそんなことを思いながら、土下座している魔族に近寄り座る。


「ぐっ」


魔族は勢いよく乗ってきたせいか唸る。そして、体を震わせ耐える。ゼフはそんなことは御構い無しに口を開く。


「最初はまさかギルドマスターに言われた通り人間というだけで見下して来るとは思わなかった。 だが、これでハッキリした。お前らの種族が劣等種ということを」


ゼフに座られてる魔族は怒りを堪えて重い口を開く。


「その…… 通りで……ございます」


「ククク、そうだろう?」


ゼフは軽く笑うと、立ち上がる。


「何度も言うが、この感じは最高だ。 近々人間でも実践するべきだな」


それを聞いている魔族達は戦慄した。この男は同じ種族の人間までもこのようなことをしようとしている。こいつは人間の皮を被った化け物だと。


「さて、そろそろ戻るか。 行くぞシルヴィア」


「わかりました」


そう言うとゼフは魔王のいる家へと機嫌よく向かっていった。



✳︎✳︎✳︎



魔王がちょうど詠唱を終えた頃扉がゆっくりと開かれる。そこにはゼフがおり、ゆっくり口を開く。


「終わったか?」


「もちろんじゃ」


「なら、これから言うことを聞き逃すことなく全ての魔王に伝えろ」


「了解じゃ」


「ではいくぞ、これからお前達魔族を滅ぼす為に進軍を開始する。3日間時間をやる。せいぜい足掻いてみせろ劣等種だ」


グリンガムはその言葉に戦慄する。この男は本当に魔族を滅ぼす力があるのだと。続けてゼフか話す。


「ちなみに俺の名前はゼフという。 メッセージで伝える時俺が言ったと伝えろ」


「了解じゃ」


ゼフはそれを言うと少し頬が緩む。それを見たグリンガムはこれから起こるであろうことを想像して震えながら、メッセージを発動させる。


「全ての魔王よ、ワシは今からゼフという人間の代理であることを伝える。 では、これからお前たち魔族を滅ぼすために進軍を開始する。 3日間時間をやる。 せいぜい足掻いてみせろ劣等種。以上だ」


そう言うとグリンガムはメッセージを切る。ゼフは笑いながら言葉を発する。


「さて、これから楽しくなるな」


ゼフは不敵な笑いを浮かべる。グリンガムはどうかこの男を倒してくれるものが現れることを願うが、すぐにそんな感情は消された。









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